こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『進撃の巨人』最終34巻のコミックスが発売され、世のなかは大いに盛り上がっておりますね。しかし、筆者はチクチクと心が痛い……!

実はワタクシ、いまから7年前に『進撃の巨人 空想科学読本』(講談社)という本を書いたのだ。当時コミックスは13巻までしか出ておらず、物語はナゾに満ちていたので、筆者なりにそれらを科学的に考え、謎を探ったり、今後の展開を予想したり……と、のびのび楽しく綴らせてもらった。

が、物語が進むと、筆者の予想は、どれもこれも大外れ!

たとえば、作中で「巨人は南から来る」といわれていたから、筆者は「同系統の動物は北に住むものほど体が大きいから、北にはさらに大きな巨人がいるに違いない」と推測したのだが、まるで無関係だった。また「知能を持つ巨人が現れた」ことに対しては「巨人は学習により知能を備えようとしているようだ。人類ますますピンチ」などと書いたけど、これも超ハズレで、作中の事実はむしろ逆であった。

作品が完結したいま、筆者のこの本を読むと「このヒトは寝ぼけてんのか?」と、ビックリされるであろう。そんな珍本になってしまいました。買ってくれた皆さん、ホントすみません。

――という忸怩たる思いがついてまわるのだが、『進撃の巨人』の世界観が明かされていく過程には、もう目を見張った。物語の中盤から、はじめの頃の謎がどんどん腑に落ちていき、一方で主要キャラの立ち位置も見事に劇的に変わった。巨人の存在理由が判明したときなど、「ぎゃっ」と叫んで椅子から転げ落ちたものである。

さまざまなことが変わり、人類と巨人との戦い方も変化していった。巨人を一撃で仕留める「対巨人砲」さえ登場した。

そんななかで、大きく変わらなかったものを一つ挙げるとすれば「立体機動装置」だろう。

巨人に対抗するために開発された武器で、兵士たちはこれをベルトの両側に装着して戦う。モリのついたワイヤーを射出し、建物や巨人の体に突き刺す。そしてガスの圧力でワイヤーを巻き取りながら、巨人たちに空中から肉薄。超硬質スチール製の刃で、巨人の弱点であるうなじの肉を削ぎ落とす!

ミカサやリヴァイ兵士長はこの装置を駆使して、自在に飛び回り、大きな戦果を挙げていた。ヒジョ~にカッコよかったが、実際にこの装置があったら、巨人を倒すことができるのだろうか?

物語が完結したいまも気になる問題なので、自分が使うつもりでシミュレーションしてみたい。

◆立体機動装置の使い方

筆者は戦士としてはシロウトなので、ここでは「相手は15m級巨人で、30m離れた場所にいる」というシンプルな条件で戦わせていただきます。

「巨人と戦うときは、背後から」が鉄則。よって、筆者も巨人の背後に回り込み、高さ14mの建物に登って、巨人に向けて水平に立体機動装置のワイヤーを打ち込んだ、と考えよう。そして、ワイヤーは巨人の頭部に見事命中した、とする。あとはワイヤーを巻き取って巨人に接近し、うなじの肉を削ぎ落とすだけだ。

――などと文章で書くのは簡単だが、ワイヤーを巻き取り始めた筆者の体は、意外に複雑な動きをする。

この運動では、次の図に示すように、4つもの力が働くからだ。①ワイヤーを巻き取る力、②重力、③遠心力、④コリオリ力(回転する物体に働く慣性力)である。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ワイヤーを巻き取る力が、筆者自身の体重と同じという設定にして、4つの力を受ける筆者の動きをコンピュータで計算してみたところ――。

ぬわっ、ワイヤーの巻き取りが始まって1.87秒後、筆者は巨人の手前15mで、あえなく地面にビターンと激突した。その速度は時速78km。たぶん死にました。

そこで、巻き取る力を体重の2倍に変えて再挑戦すると、今度は1.78秒後、地上1.6mの巨人の足首あたりに激突。速度は時速111km。やっぱり死にました。

目標点に到達できぬまま死に続けても困るので、うなじの高さを13mと考え、ここに到達するようにワイヤーの巻き取り力を設定して、みたび挑戦しよう。

すると筆者の体には、体重の17.5倍の力がかかった。筆者の体重は75kgなので、なんと1.3t。人間は、体重の10倍以上の力を受けると失神するというから、筆者は気を失ったまま飛んでいって、時速366kmで巨人のうなじにビタタターンと大衝突。また死にました。

リヴァイ兵長どの、自分は巨人殲滅のお役に立てそうもありません。

◆リヴァイにやってもらうと?

予想以上に操作が難しいが、これは静止した状態からワイヤーを巻き取るという単純な条件から生まれたシミュレーションだ。筆者のようなシロウトが、機械の力だけに頼るとこうなるという話であって、運用にあたっては鍛えられた技術が不可欠なのだろう。

そこで、筆者はもう見学にまわり、リヴァイ兵士長に実践してもらおう。もちろんこれも単純な設定だが、たとえば真上にジャンプすると同時にワイヤーを巻き取ったら、どうなるか。

彼が垂直跳びで70cm跳べると仮定して、ジャンプすると同時に巻き取りをスタートした場合、うなじに達するための力は体重の7.1倍で済む。そして建物を蹴って跳び出した兵士長は、滑らかなカーブを描いて巨人に迫り、高さ13mのうなじに見事に到達する! さすが人類最強の兵士!

ワイヤーの巻き取りにジャンプを加えるだけで、これほど結果が変わるのは、4つもの力が働くため、わずかな条件の違いが、起動を大きく変えるということだろう。つまり装置の力に兵士たちの技術が加われば、リヴァイやミカサのような迫力ある行動も、たぶん可能ということだ。

科学的にもしみじみナットクの立体機動装置である。

こういう緻密なところも『進撃の巨人』の魅力で、それらに惹かれて、コミックス13巻の時点で考察本を書いてしまったワタクシ。自分の力不足ですっかりヨミを外してしまったが、『進撃』世界の奥深さにハマって、あれこれ考えるのはとても楽しかった。その点、悔いはない。