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『ジョジョの奇妙な冒険』ディオの「気化冷凍法」は、どれほど威力のあるワザなのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『ジョジョの奇妙な冒険』には楽しいワザがいっぱい出てくるけど、なかでも科学ゴコロが刺激されるのが、ディオの「気化冷凍法」だ。これは、自分や相手の体から水分を気化させ、凍りつかせるワザ!

気化とは蒸発のことで、液体は気化するときにまわりから熱を奪うから、それによって凍りつかせる……というのは、ヒジョ~に理にかなっている!

これを使うのは、ディオ・ブランドー。『ジョジョ』第1部と第3部のラスボスで、パワーはケタ外れだし、年は取らないし、驚異の再生能力まで持っている。すごいヤツなのだ。

主人公のジョナサンたちは「波紋法」によってエネルギー波を作り出し、血液の流れを通じて、ディオの体内に流し込もうとした。これを無力化するために、ディオが編み出したのが気化冷凍法で、自分か相手の体を凍らせて、血液の流れを止める。体が凍って血の流れが止まれば、波紋のエネルギーは伝わらない、というわけだ。これもまた理にかなっている。『ジョジョ』のこういう理屈っぽいところ、筆者はもう大好き!

この科学的なワザは、どれほどの威力があるのだろうか?

◆股を開いて跳んでいく!

気化冷凍法の威力が炸裂したのが、第1部でのディオ対ダイアーの戦いだ。

ダイアーが空中から稲妻十字空裂刃(サンダークロススプリットアタック)で攻撃する。これは、脚を180度に開いて相手に跳びかかるというびっくりワザで、要するに股間がおっぴろげ!

「そんなトコロを相手にさらして大丈夫!?」と心配になるが、それこそがダイアーの知謀であろう。大股開きしたオトコがぶっ跳んできたら、ヒトというものは反射的にその両足をつかんでしまうのではないだろうか。そうしないと相手の股間が自分の顔を直撃!という全力で避けたい事態に立ち至ってしまう。だが、相手の両足をつかむと、自分の両手も塞がって、顔面がガラ空きになる。そこへダイアーがクロスチョップ!――という恐るべきワザなのだった。むえ~。

実際、ディオもダイアーの両足をつかんでしまい、見ていたストレイツォは「これをやぶった格闘家はひとりとしていない!」と、ダイアーの勝利を確信する。ところが、ディオの顔面にクロスチョップが炸裂する直前、ダイアーの動きが止まった。ほぼ全身がピッキィ~ン!と凍りついてしまったのだ。「う、動かん」と驚くダイアー。そう、これぞ気化冷凍法!

ディオは「貧弱 貧弱ゥ… ちょいとでもおれにかなうとでも思ったか!」と、まるで凍った薔薇の花びらを指で割るかのように、固く凍りついているダイアーの体をバラバラにしてしまった。うわぁ、残酷、残酷ゥ……!

何度も書くけど、この気化冷凍法、まことに科学的である。消毒用アルコールを手に吹きつけると、すうっと冷たくなる。濡れた服を着ていると体が冷える。これらはアルコールや水が気化するときに熱を奪うことで起こる現象で、ディオはこれを戦いに応用したのだろう。

しかも、水は気化熱(気化するときに奪う熱)が大きい。気化熱は温度によっても変わるが、25度での1gあたりの気化熱は、エタノールが219cal、メタノールが280cal、ブタン(卓上コンロの燃料)が96calなのに対し、水は584calと突出している。

そのうえ、人体は、水が体重の60%を占める。つまり、気化冷凍法は「体にもっとも多く含まれる水が、気化熱も大きい」という科学的事実を最大限に活用しているのだ。

ディオ賢い!ともいえるし、人体って気化冷凍法のエジキとして最適すぎ!ともいえる。

◆なぜ人は凍ると死ぬのか?

では、気化冷凍法で体を凍りつかせるには、どれほどの水を気化させればいいのか。

25度のときの「1gあたり584cal」で考えると、水が1g気化すれば、体から584calの熱が奪われる。これによって凍りつく(体温と同じ36.5度の水がマイナス10度の氷になる)水は4.82g。ここから計算すると、体内水分の17%を気化させれば、残りの83%が凍ることになる。

「全体の17%の気化で全身が凍る」といえば効率的な気もするが、現実的に考えると、体内水分の17%とはかなりの量である。

前述のように人体には体重の60%の水が含まれ、ダイアーは体重90kgほどの立派な体格をしていたから、頭部(7kgと仮定)を除いて凍ったとすると、水分量は50kg。その17%とは8.5kgだ。2L入りのペットボトル4本以上。

それだけの水分を、アッという間に気化させたのだから、やっぱりすごいワザといわねばならない。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

これを食らった相手は、どうなるのか。

体が凍って血流が止まったら、全身の細胞に酸素が届かなくなって死ぬ!

体が凍結したら、細胞に含まれる水も凍りつく。水は凍ると体積が9%増えるから、細胞膜を突き破られて死ぬ!

人間は、体の水分の2%を失うと運動能力が低下し、4~5%で疲労や頭痛や眩暈が起こり、10%以上で死に至ることもある。17%も失ったら、脱水症によっても死ぬ!

体が凍ったら、人間はいろいろな意味で死ぬのである。

気化冷凍法は本当にオソロシイ。あなたもワタシもこれを食らったら死は避けられないので、ディオを見かけたら、とっとと逃げたほうがよいと思いますー。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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