『るろうに剣心』に登場する「縮地」とは、いったいどんなワザなのか?

イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『るろうに剣心』には、ヒジョ~に気になる剣術がいろいろ出てくるけど、その一つが「縮地」である。

「縮地」は実在する技法で、その言葉は『広辞苑』にも載っている。それによると「仙術によって地脈を縮め、距離を短くすること」。また、日本の古武術にもその名前の技があり、それは「体を大きく前傾させ、重力を利用して素早く移動する」ことだという。

『るろ剣』において、この技を披露したのは瀬田宗次郎。志々雄真実の配下「十本刀」の一人で、「縮地」を使うと、動きがあまりに速すぎて姿が見えない!

宗次郎は、幼少時の虐待のせいで「喜怒哀楽」の「楽」しか残っておらず、いつも笑っている小柄な青年だ。だが、穏やかな見かけとは裏腹に、十本刀最強! 剣心との戦いでも、目にも留まらぬ速さで動き回り、両者が分かれたとき、宗次郎が蹴った畳が深々とえぐれていた。

剣心が「神速を更に超えた…超神速『縮地』…」と驚くと、宗次郎は言う。「今のは『縮地』じゃないんですよ。正確に言うと今のは『縮地』の三歩手前」。

えーっ、もっとスゴイのがあと3段階も!? なんとオソロシイ……。

◆「目にも写らない」とは?

縮地のナゾを考えるにあたって、本稿ではマンガとアニメの両方を見ていこう。

基本的な説明をしてくれたのは、マンガではナレーション、アニメでは志々雄である。それによると「強靭な脚力で、初速からいきなり最高の速さに達する足の運びで、一瞬の内に相手の間合いを侵略する幻の体技」「常人の目には、まるで仙術の類を使い、地脈を縮め距離を短くし瞬間移動したかの如く写ることから、この名で呼ばれる」。

おお、まさに『広辞苑』にあったとおりの説明ではないですか。しかし『広辞苑』には「一瞬の内に相手の間合いを侵略」や「瞬間移動したかの如く写る」などの記述が欠落していた。岩波書店には、次の「第八版」での改訂をお願いしたい。

そのスピードは尋常ではなく、志々雄によれば、剣心の「神速」が「目にも留まらぬ速さ」なのに対して「宗次郎の超神速『縮地』は『目にも写らねェ速さ』なんだよ」だという。

「目にも留まらない速さ」と「目にも写らない速さ」。どっちがどう速いのかわからなくて、まるで禅問答みたいだが、科学的に考えれば両者の差は明らかである。

「目にも留まらない」は「見えてはいるが、詳細を把握できない」であろう。あなたも経験があると思うが「いま視野の端で何かが動いた」という見え方がある。人間は、視野の中央がもっとも視力がいいため、視野の端で見えたものは、ハッキリと把握できないのだ。

だから、速く動くものを見るとき、ヒトは眼球を動かして対象を視野の中央に置こうとする。「衝動性眼球運動」という動きで、その最大速度には個人差があるが、0.1秒に40~70度といわれる。

つまり、これよりも速い動きには、眼球の運動が追いつかず、人間は見ることができない。それこそが「目にも写らない」ということだと思われる。

◆特急電車より速い!

宗次郎の動きは、剣心にも見えていなかった。ここから、「40~70度」の中間値を採り、宗次郎の縮地は「視野55度の領域を、0.1秒で通りすぎる」スピードだと仮定しよう。

前述の「縮地の三歩手前」を出したとき、剣心が気づくと、宗次郎は左後方にいた。マンガやアニメの描写から、宗次郎が剣心の前方5mから、剣心の左前方55度、距離にして1mの地点を通りすぎたとしよう。この間に宗次郎が移動した距離は5.25m。これを0.1秒で通過するスピードとは、秒速52m=時速187km。在来線の特急電車のスピードが時速130kmくらいだから、それより速い。100m走のタイムは、なんと1秒92秒!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ここで、前述のナレーション&志々雄の説明を思い出してもらいたい。彼らは「強靭な脚力で、初速からいきなり最高の速さに達する」と言っていた。いきなり時速187kmに!

これはモノスゴイことである。ウサイン・ボルトでさえ100m走世界記録9秒58を樹立したレースで、秒速10mに達するのに10歩を要した。

身長163cm、体重51kgの宗次郎が「最初の一歩で1m移動するまでに時速187kmに達する」としたら、その脚力は7t! そりゃあ、畳もえぐれますなあ。

◆すごすぎる「一歩手前」の動き

これですら縮地の「三歩手前」である。

「二歩手前」では、畳を蹴る音もそれまで「ドドドド」だったのが「ギャギャギャギャ」になり、剣心は飛天御剣流「九頭龍閃(くずりゅうせん)」を出したにもかかわらず、背後に回り込まれて、背中を切られてしまった。九頭龍閃は飛天御剣流の神速を最大に発動して、相手の全身の9カ所を同時に突く技。師の比古清十郎は「突進術でもある故 回避し切る事も絶対不可能」と言っていたのに、宗次郎はその絶対不可能を可能にしてしまったのだ。

「一歩手前」になると、畳ばかりか壁や天井も蹴って跳び回る。もはや『広辞苑』の説明文とは何の接点もないです。剣心も「横方向だけでなく、縦も絡めた全方位空間攻撃!!」と驚いていた。

マンガでは、立ち尽くす剣心の周囲に、宗次郎が蹴った跡が15も描かれている。剣心の目にそのように見えていたと考えて、それが「残像」によるものだとしたらどうなるか。

人間の目に残像が残る時間は0.1秒といわれるから、宗次郎は、床、壁、天井を、わずか0.1秒で15回も蹴ったことになる。蹴ってから次に蹴るまでの移動距離を平均3mとすると、全移動距離は42m。

これを0.1秒で成し遂げた場合、速度は秒速420m=時速1510km=マッハ1.2。人間の足で音速を超えた!? その場合、100m走のタイムは0秒24になりますが~~~。

◆痩せていく! 見たい!

ここまですごいと、やるほうも大変ではないだろうか。剣心の目には一瞬のできごとだが、宗次郎本人はその間もモーレツに動き回っているのだ。

しかも宗次郎は、かなり長いあいだ跳び続けた。アニメの画面で計ると、トータルで54秒間。前述のように0.1秒で15回だとしたら、54秒では8100回も蹴り回ることになる。1回のジャンプで3m移動するなら、合計2万4300m=24.3kmも移動!

こんなに激しい運動をしたら、かなりのエネルギーを消費するだろう。

スピードと体重から計算すると、1回の蹴りで消費するエネルギーは1万kcal。成人男性が1日に必要とするエネルギー(2500kcal)の4倍を、たった1回のジャンプで消費している。

すると8100回で8100万kcal。コンビニで売っている120gのおにぎり(215kcal)にして、37万8千個分である。

もちろん、宗次郎は何か食べながら跳んだわけではないから、そのエネルギーは自分の体脂肪から絞り出すしかないだろう。

8100万kcalとは、体重51kgの宗次郎が160万kmを走ったときに消費するエネルギーだ。地球40周分であり、消費する体脂肪は9t。宗次郎は跳び回りながら、みるみる痩せていったはずである。目にも写らないのがまことに残念だ。

妙なことを残念がっておる場合ではない。最後に出した正真正銘の縮地の威力はどうなのか?

宗次郎が「瞬天殺(しゅんてんさつ)」と呼ぶこの抜刀術に、剣心も神速を超える超神速の抜刀術、飛天御剣流奥義「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」で応ずる。両者構えた状態から、宗次郎は「行きます」と言って消えた! 剣心も消えた! 何がなんだか全然わかりません!

すごすぎて実態が不明な縮地「瞬天殺」。実在の「縮地」と関係あるのかどうか、筆者の力では検証すらできないが、恐るべきワザであることだけは確かだ。