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『ポケモン』の世界で囁かれる「サトシ最強伝説」を科学的に考えてみると……⁉

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

ポケモンの歴史も四半世紀。最初151匹だったポケモンたちも、いまや約900匹というからすごい!

そんなにたくさんいると、筆者は「いちばん強いのは、どのポケモン?」などと考えたくなってしまうのだが、実は「ポケモンの世界でいちばん強いのは、サトシでは……」という噂があるらしい。えーっ、そうなの!?

アニメの『ポケットモンスター』第1話「ポケモン!きみにきめた!」では、サトシは10歳の誕生日に寝過ごして、第1~3志望のポケモンを入手できず、仕方なく人間になつかないピカチュウと旅に出ていた。そんなサトシが最強!?

にわかに信じがたいが、その可能性がゼロかと問われたら、確かに気になるエピソードもある。そもそもこのヒト、ピカチュウを肩に乗せて旅をしているが、ピカチュウは重さが6kgなのだ。大きなペットボトル3本分。日常的にそんなモノを持ち歩いていれば、体は相当鍛えられるかも……。

うーん、実際のところはどうなんだろうか。アニメで描かれたシーンから「サトシ最強伝説」の信憑性を考えてみよう。

◆グラードンも持ち上げられる!?

サトシが乗せるポケモンは、ピカチュウだけではない。せきたんポケモンのコータスまで背中に乗せたりしていて、その重さを調べると、なんと80.4kg……!

念のため再度書くけど、サトシは10歳。現実の世界だったら小学5年生で、5年生の平均体重は34.4kgです。

彼の怪力に驚いたのは、アニメ『ポケットモンスター サン&ムーン1時間スペシャル』の冒頭シーンだ。

アローラ地方の海で、サトシはサメハダーの背中に立ち乗りしていた。しかし、サメハダーは時速120kmで泳ぐポケモンである。サトシの身長を10歳男子の平均と同じ139cmとすると、その体勢では25kgの空気抵抗を受ける。

ここで「コータスの80.4kgに比べたら、たいしたことないのでは?」などと油断してはなりません。その直後、サトシが「サメハダー、頼むぞ!」と叫ぶと、このポケモンは海面からジャンプし、ざぶんと海中に飛び込んだのだ。もちろん、背中に彼(とピカチュウ)を乗せたまま!

自殺行為である。

水の密度は空気よりずっと大きく、気温が30度のとき、海水の密度は空気の880倍。空中から水中に突っ込むと、その瞬間880倍の抵抗を受ける。それまでかかっていた25kgの抵抗が一挙に880倍になって、なんと22t!

それでもサトシは、サメハダーの背中のハンドルから手を放さなかった。素直に受け取るなら、22tを超える腕力を持っているんでしょうなあ。このヒト、ポケモン最重量級のグラードン(950kg。ゲンシカイキすると999.7kg)さえ、軽々と肩に乗せるかもしれないということだ。おそるべし。

◆俺に向かって10万V!?

科学的に注目したいのは、サトシの電気への耐性だ。これが人知を超えている。

ロケット団も何度も10万Vを食らっているが、彼らはたいてい離れたところで電撃を受ける。空中放電では、距離が遠いほど電圧が下がるから、遠距離にいれば、受ける電圧は10万Vには達していない可能性もある。

ところがサトシは、ピカチュウを抱いた状態で10万Vを食らうこともあるのだ。

そもそも普通の人間が10万Vをまともに受けたら、どうなるか。

人間は200Vの電圧を受けると、筋肉が麻痺し、呼吸が止まる。(皮膚が乾いた状態で。濡れていたら20Vでそうなる)。10万Vはその500倍。だが、受けるダメージは500倍では済まない。

人体が電気から受けるダメージは「電圧×電流」に比例し、電圧が500倍になると電流も500倍になるから、ダメージは500×500=25万倍に!

しかも電圧が1000Vを超えると、人体は20倍も電気を流しやすくなるため、この効果も考慮すれば500万倍! サトシの体重が10歳男子の平均と同じ33.7kgなら、普通だったら、全身の水分が0.3秒で沸騰してしまう。

10万Vとは、それほどすごいのだ。ピカチュウに対しては、慎重のうえにも慎重に接したほうがいい。いつ10万Vを放つかわからない生物を、抱いたり肩に乗せたりするなんて、本当にキケンだと筆者は思う。

ところがサトシは、アニメ『ベストウィッシュ』第2話では、こともあろうに自ら進んで10万Vを受けていた。

それは、ピカチュウが電気を出せなくなって研究所で精密検査を受けていたときのこと。雷が落ちてきて、全身に電気が走った。これでピカチュウが元気になると、サトシはこう叫んだのだ。

「よおし、俺に向かって10万V!」

なんてコトを言うんだ、サトシ。あんたホントに死んじゃうよ!

だがピカチュウは、何のためらいもなく電撃を放つ。サトシはそれを平然と受けて「いいぞ、その調子でボルテッカーだ!」と次の技を促した。

すごすぎる! サトシとピカチュウの信頼関係がそうさせるのかもしれないが、科学的にはあまりに不可解。サトシこそ、ぜひ研究所で精密検査を受けてもらいたい。ひょっとしたら「サトシはポケモンより強い」という結果が出るかもしれません。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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