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『ドラゴンボール』の桃白白は、自分が投げた柱に乗って飛んだ! そんなコトできる?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

マンガやアニメで描かれる「空の飛び方」はさまざまあるが、わが目を疑ってしまったのが『ドラゴンボール』桃白白(タオパイパイ)の飛行方法だ。

それはまだ孫悟空が少年で、ドラゴンボールを一生懸命探していた頃。

レッドリボン軍は「世界一の殺し屋」と呼ばれる桃白白を雇い、孫悟空を殺してドラゴンボールを奪うように依頼した。孫悟空はレッドリボン軍本部から北東へ2300km離れた村にいたのだが、桃白白がオドロキの飛び方を披露したのは、このときだ。

この殺し屋は石の柱を折り取ると「北東に2千3百キロか…」と空を見つめる。そして「では30分ほどでもどってきますので」と言うが早いか、石の柱をぶんっと空中に投げ、直後にそれに飛び乗って、孫悟空のいる村まで飛んでいったのである。

自分が投げたものに乗って飛んでいく! ものすごくないですか、これ!? なんとも豪快な空の旅で、実践できたらまことに便利そうだ。

◆マッハ13で柱を投げる!

しかし、そんなことができるのか?

2300kmといえば、国内では那覇から札幌である。飛行機の直行便でも、約4時間。それほどの遠いところまでモノを投げられるのがすごい。しかも、それは石の柱!

柱の直径は30cm、長さは2mほどもあった。大理石だとすれば、重量は350kg。普通だったら、投げる以前に持ち上げただけでもビックリの重量物である。

桃白白は、これを2300kmも投げた。

通常、投げた物体は放物線軌道を描くが、これは「地球が平らで、上空まで重力の強さが同じ」という仮定での取り扱い。2300kmとなると短距離弾道ミサイルの飛距離であり、地球が丸いことや重力が上空に行くほど弱くなる影響もあって、楕円軌道を描くと思われる。また、マンガの描写では、悟空のいる村に着地した柱は、地面に30度ほどの角度で刺さった。これらの条件から、桃白白が柱を投げたスピードを計算すると、なんと時速1万6千km=マッハ13だ!

こんな投擲ができるのがすごいが、それに追いついたのだから、桃白白はマッハ13以上の速度でジャンプしたことになる。

「投げてからジャンプするまでの時間」と「ジャンプしてから柱に追いつくまでの時間」を同じと仮定すれば、彼の跳躍スピードは柱の2倍、すなわち時速3万2千km=マッハ26だ。

その軌道は、イラストのように柱のそれよりも直線に近く、柱には下から接近していく。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

これ、筆者が桃白白だったら、あまりに怖いと思う。マッハ26でジャンプして、マッハ13の柱に追いつくということは、速度差マッハ13で柱が向かってくるのと同じ。最高速度で走ってくる新幹線に跳び乗るより、50倍ほど危険な行為だ。

しかも、柱に追いついてから追い越すまでの時間は0.00045秒。このわずかな時間に飛び乗らないと、柱を追い越して、自分だけがスッ飛んでいく。その場合の着地点は1万9千kmの彼方で、もちろんそんなところに悟空はいない。

マンガでは「ぴょっ!!!!」と気軽に飛び乗っているけど、どんな運動神経の持ち主なのか。このヒト291歳らしいのだが……。

◆「30分で戻る」の科学的な意味

いずれにせよ、桃白白は柱に乗り、その上に立って飛んでいった。さぞかし快適な空の旅……という気もするが、そうともいえない。厳密にいえば、桃白白は「柱に乗っていない」のだ。

前述のとおり、柱はマッハ13で発射され、楕円軌道を描いて飛んでいる。これに乗って飛ぶということは、実際には飛び乗っただけでなく、柱にガシッとしがみついて、速度を同じにしたと見られるが、いずれにしても現在は柱と同じ軌道を描いている。

このように、重力のみを受けて同じ軌道を描く場合、桃白白と柱のあいだに、力はまったく働かない。桃白白は柱の上に立っているように見えるが、足の裏が柱に触れているだけ。それが離れても、桃白白の運動に何ら影響はない。

結局、柱があろうとなかろうと、桃白白は飛んでいく。マッハ13で2300kmを飛ぶのに要する時間は、10分40秒。往復で21分20秒だから、出発前に発した「30分で戻ってくる」という言葉を科学的に解釈すれば「孫悟空など、8分40秒もあれば倒してみせる」ということだ。さすが世界一の殺し屋ですな~。

しかし科学的に心配するならば、桃白白が気にするべき相手は、悟空だけではないはずだ。飛行中の10分40秒のうち、9分間は上空100km以上を飛ぶことになる。

NASAは高度100km以上を「宇宙」としている。桃白白は9分間の宇宙の旅を経験することになるのであり、そこはほぼ真空の空間。常人ならたちまち鼓膜が破れ、肺が破裂してしまう。桃白白が驚異的な体力でこれに耐えたとしても、ダメージは免れまい。

……と思ったら、マンガの桃白白は平然と着地し、悟空に戦いを挑んだ。かめはめ波にも耐え、一度は悟空を倒した。この殺し屋、ホントにすごい。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

というわけで、さまざまな考え方やアプローチ方法があると思うけど、筆者の結論は次のとおり。

「自分が投げたモノに飛び乗って飛んでいく」という飛行方法は、ものすごい体力があれば実現できそう! でも、正確には「乗ったことにならない」んじゃないかな。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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