こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを科学的な視点で考察しています。さて今回は……。

最終回が悲劇的なマンガやアニメはさまざまあるけど、その頂点に立つのが『フランダースの犬』だろう。テレビの「感動の最終回50連発」みたいな番組で繰り返し紹介されてきたけど、いやもう、あまりに悲しい物語である。

貧しい祖父と2人で暮らすネロは、同郷の画家・ルーベンスに憧れ、自分も画家になりたいと思っていた。しかし、次々に不幸が訪れ、最後はルーベンスの絵の前で、愛犬のパトラッシュと共に力尽きてしまう。最期の言葉は「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ……。なんだか、とても眠いんだ……」という意識も絶え絶えのつぶやきだった。

む、むごい。このアニメは「世界名作劇場」と謳われるシリーズだが、どこが名作なんだろう。あまりに救いがなさすぎて、筆者にはよくわかりません……。

なぜネロは死ななければならなかったのか? 繊細な少年と健気な犬が幸せになる方法はなかったのか? 本稿ではこれを考えてみたい。

◆つらく当たったのは2人

ネロは2歳のときに母を亡くし、おじいさんに引き取られて育った。おじいさんは貧乏だったが、それでもネロは幸せだった。アロアに見送られ、おじいさんといっしょにアントワープまで牛乳を運ぶ毎日。ヌレットおばさんなど、周囲には優しい人々もいた。

それがなぜ、ネロには悲劇が訪れたのか? 

ネロにつらく当たったのは、実はたったの2人だ。アロアの父のコゼツ旦那と、コゼツ家の出入り商人ハンス。コゼツ旦那は、娘が貧乏なネロと仲よくするのを嫌った。ハンスはそれを知り、ネロがアロアといると、コゼツ旦那にいちいち注進した。

おじいさんが亡くなると、ハンスはネロをますます追い詰めるようになる。風車小屋が火事になったとき、原因は不明なのに、ハンスは「おまえだろ、風車小屋に火をつけたのは!」とネロを犯人扱いしたのだ。これで村人たちにも疑念が広がり、ネロに牛乳運びを頼む農家はなくなってしまう。収入を絶たれたネロに、ハンスは迫る。「家賃が払えないなら、出て行け」。これは本当にひどい。何度見ても腹が立つ場面だ。

しかし、この理不尽な要求に、なんとネロは「クリスマスまで待ってください」と応じてしまう。応募していた絵画コンクールの発表が、クリスマス・イブに行われるのだ。こうして、コンクールで一等を取ることに、ネロはすべてを賭けることになった……。

◆盆と正月がいっぺんに!

確かにそのコンクールは、すべてを託したくなるものだった。一等の賞金は200フラン。劇中の物価から考えて現在の500万円くらいのようだ。しかもその金額が、毎年もらえるという!

クリスマス・イブの日、ネロは公会堂の広間で発表を待つ。だが一等を取ったのは、別の少年だった。ネロは絶望し、とぼとぼと家路をたどる。だが、このとき事態を急展開させる出来事が起こる。パトラッシュが、雪に埋もれた袋を見つけたのだ。入っていたのは、コゼツ旦那が落とした2千フラン。さっきのレートでいえば、なんと5千万円だ!

ネロは袋をアロアの家に届ける。コゼツ旦那は不在だったが、アロアとお母さんは大感謝。食事を勧めるが、ネロは断って、激しい吹雪のなかへ出ていってしまう。ああ、悲劇のエンディングが近づいてくるよー。

ところが実は、このときネロには幸せが次々に訪れ始めていた。列挙すると――。

1)コゼツ旦那は、ネロが金を届けたことを知って、これまでの仕打ちを深く反省する。アロアとの交際も認め、「わしはあの子に償いをしなければならん」と泣く。

2)風車の職人がやってきて、風車小屋に放火したのはネロではないと保証する。

3)ヌレットおばさんらが、ネロとクリスマスを過ごそうとやってくる。

4)画家のヘンドリックレイが来て「私はネロという少年に、大画家ルーベンスの後継ぎになり得る、恐るべき素質を見出しているのです」と絶賛。「彼を引き取って、できる限り絵の才能を伸ばしてやりたい」と決意を語る。

5)コゼツ旦那も「ネロが戻ってきたらわしのうちに迎えて、アロアと同じようにどんな勉強でもさせてやるつもりだ」と決意を語る。

ああ、よかったな、ネロ。放火の疑いは晴れ、アロアとの交際も認められ、生活と絵の面倒までみようという人が2人も。ネロに幸せが押し寄せてきた。まるで盆と正月がいっぺんに来たような騒ぎである。ベルギーの話だけど。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

だが、吹雪のなかを歩くネロは、それを知らない。

アントワープの教会に入ると、ルーベンスの2枚の絵を目に焼きつけ、「これだけで僕は、もう何もいりません」と言うや、床に倒れ込んでしまう。そこにパトラッシュもやってきて、2人は永遠の眠りにつくのである。空から天使たちが舞い降りて、2人の魂を天国に連れていく。ああ……。

「ネロとパトラッシュは、おじいさんとお母さんのいる遠いお国へ行きました。もうこれからは、寒いことも、悲しいことも、おなかのすくこともなく、みんないっしょにいつまでも楽しく暮らすことでしょう」というナレーションが入るが、NO~っ、全然ナットクできません!

◆悲劇を避ける方法とは?

あまりに悲しい話である。ネロとパトラッシュの死を回避する道はなかったのだろうか。

アロアの家で食事をしていれば、旦那も帰ってきて、ネロは死なずに済んだだろう。ヌレットおばさんも、ネロの後ろ姿を馬車から見かけたのに「ネロがこんなところにいるはずがないわ」と思い込み、そのまま来てしまった。まことに残念だ。

しかし、いまさらそれを嘆いても仕方がない。筆者が「コイツがもう少ししっかりしていたら」と思うのは、ただ一点。それは、絵画コンクールの賞金システムだっ!

一等は毎年200フランで、二等以下は何もナシ――。これ、あまりに極端ではないだろうか。

ある出版社でマンガ雑誌の編集をしていた友人に聞いたところ、マンガ新人賞の賞金は100万円が相場だという。そして、彼が担当した新人賞では、2位の2人に75万円、3位の2人に50万円、佳作の6人に10万円、奨励賞の10人に5万円を授与していた。この場合、賞金総額は460万円で、1位の100万円はその22%を占めるにすぎない。若い才能を見出し、育もうと思ったら、やはりこのくらいの厚くて深い目配りをするべきだと思う。

ネロが応募したコンクールでも、200フラン=500万円を賞金総額として、先のマンガ新人賞と同じ比率で分配していたら、1等の賞金は110万円、2等のネロでも毎年80万円ずつを受け取れることになる。

これは決して少ない額ではない。アニメのなかで、おじいさんの月収は2フランといわれていた。前述のレートで計算すると、年収は60万円。それを少し上回る絶妙な金額なのだ。

ああ、賞金の分配比率がこうなっていたら、すべては丸く収まったのになあ。筆者は、この絵画コンクールの賞金システムが残念で仕方がない。