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がんによる死亡数「第1位」は肺がん。野際陽子さん、いときんさんが闘った「肺腺がん」とは?

柳田絵美衣臨床検査技師(ゲノム・病理検査)、国際細胞検査士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

がんによる死亡数 第1位!

平成28年の国内死亡数は130万7748人で、死因第1位は悪性新生物、いわゆる「がん」である。死亡総数の28.5%ががんで死亡しているのだ。さらに、その中でも「肺がん」を含む「気管、気管支及び肺の悪性新生物」はブッチギリの第1位だ。

平成28年人口動態統計の概要 結果の概要

出典:厚生労働省

平成28年人口動態統計の概要 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率

出典:厚生労働省

男女別でも男性で第位、女性でも第位である。

女性ホルモンが肺腺がんの原因!?

「肺がん」は、いくつかのタイプに分けられ、女優の野際陽子さんやヒップホップグループのET-KINGいときんさんが闘った肺がんは「肺腺がん」と呼ばれるタイプである。

肺腺がんは、肺がんの中でも最も多いタイプであり、肺がんの60%を占めている。肺がんと言えば、真っ先に「タバコ」が思い浮かぶだろう。しかし、肺腺がんは喫煙が直接の原因ではないと考えられており、発生頻度も喫煙率の低い女性の方が高く非喫煙者にも多く発症する。

ホルモン補充療法を受けた女性に肺腺がんの発症率が高いことが以前から報告されており、女性ホルモンの一種、エストロゲンの量や濃度が、肺腺がんのリスクを高める要因の1つであると考えられている。

生殖関連要因やホルモン剤使用と女性の肺がんとの関係について

出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター

女性にも発症原因があることを意識しておきたい。

発生場所と症状

肺腺がんは気管支から最も遠い、肺の末端部(気管支の細い部分)に発生することが多く、通常のX線検査で発見しやすい傾向にある。

肺の末端部分に発生することが多いため、初期段階では自覚症状が少ない。早期の肺腺がんでは、咳や胸の痛みなどもほとんどなく、定期的ながん検診や健康診断などで発見されるケースが多い。がんが進行するにしたがい、長期間の空咳、痰(血痰)、喘鳴、胸痛などがみられ、胸水が溜まる場合も多い。胸水が溜まると、肺が圧迫され呼吸も苦しくなる。進行すると、がん細胞が周囲の組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパ液の流れに乗り全身へ広がっていく。転移しやすい場所は、リンパ節、脳、肝臓、副腎、骨である。

肺腺がんの特徴

出典:肺がんのガイド

自覚症状が少ないことが、発見を遅らせる原因になる。

肺がん検診

肺がんの検査は「X線検査(レントゲン)」「喀痰細胞診検査」「血液検査(腫瘍マーカー)」がおこなわれる。大きな痛みを伴うような検査ではないため、定期的に検査を受けることも容易だ。X線検査と血液検査は健康診断でも受ける事が多いため、馴染みがあるだろう。喀痰細胞診検査は「痰の中に異常な細胞や血液が混じっていないか」を調べる検査である。肺腺がんは、肺の末端に発生することが多いため、喀痰にがん細胞が混ざることが少ない。喫煙と深く関係する「肺扁平上皮がん」は気管や気管支に発生するため、痰とともに細胞が出てきやすく、喀痰細胞診検査で発見することが可能である。しかし、喀痰の出し方によって細胞が含まれない場合が多く喀痰細胞診検査は通常3日連続で痰を採取する。採取した喀痰をプレパラート(スライドガラス)に塗り付け、細胞を染色した後、顕微鏡で観察して異常な細胞がないかを調べる検査である。

肺がんと遺伝子と分子標的治療薬

他臓器で発生するがんよりも、肺がんでは「分子標的治療薬」の種類が多く、治療に活かされている。分子標的治療薬は、従来の抗がん剤と異なる仕組みでがん細胞を攻撃する。従来の抗がん剤は「増殖能の高い細胞」を攻撃するため、増殖スピードの速いがん細胞だけでなく、髪の毛を生やす細胞や消化器(胃や腸)の粘膜細胞などの増殖が盛んな正常の細胞も攻撃する。そのため副作用が強い傾向にある。分子標的治療薬は、特定の遺伝子異常を持ったがん細胞を狙い撃ちするため、抗がん剤に比べて副作用が少なく、効果が高い

肺がんの中でも特に肺腺がんにはROS1融合遺伝子やALK融合遺伝子といった特異的な遺伝子が原因で発生するがんが確認されることがあり、分子標的治療薬の対象となるのだ。

遺伝子検査と肺がん治療

出典:肺がんを学ぶ

肺がんに遺伝子の検査は必要だと言えよう。

早めのがん検診、定期的な健康診断で発見されることが多い肺がん。

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臨床検査技師(ゲノム・病理検査)、国際細胞検査士

医学検査の”職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる”サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として奮闘中。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。

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