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【速報】ひき逃げ死亡事件がなぜ、逆転無罪に… 息子の命奪われた両親のコメント、全公開

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
飲酒運転の車にひき逃げされて亡くなった和田樹生さん。15歳だった(遺族提供)

■被害者を救護せずコンビニで口臭防止のタブレットを購入

 9月28日、道路交通法違反(ひき逃げなど)に問われていた男(50)に対し、東京高裁の田村政喜裁判長は、懲役6月の実刑とした一審の長野地裁判決を破棄し、逆転無罪を言い渡しました。

 今から8年半前の2015年3月、長野県佐久市で中学3年生(15歳)だった和田樹生(みきお)さんが飲酒運転の乗用車にはねられて死亡した事故。その概要と、2022年11月に下された刑事裁判の判決については、以下の記事をご覧ください。

<事件概要と両親の闘い>

自宅前で奪われた息子の命「飲酒ひき逃げ」なぜ問われぬ? 悲しみこらえ訴え続ける両親の思い(エキスパート - Yahoo!ニュース)

<救護義務違反を問う裁判の一審判決速報>

【速報】加害者の「ひき逃げ」認め実刑判決 息子の死から7年8カ月、両親の長い闘い( エキスパート - Yahoo!ニュース)

 事故直後に被害者を救護せず、コンビニに立ち寄り、口臭防止のタブレットを購入した加害者の行動を、東京高裁はなぜ、「救護義務違反ではない」と判断したのか……。

 そもそも、交通事故における「救護義務」とは、いったい何なのか。

 今回の判決の詳細については改めてお伝えしたいと思いますが、まずは取り急ぎ、判決直後に語られた樹生さんの両親のコメントを全文公開したいと思います。

樹生さんの両親は、いまも事故時の遺品を大切に保管している(筆者撮影)
樹生さんの両親は、いまも事故時の遺品を大切に保管している(筆者撮影)

■安全で秩序ある交通社会が維持できなくなる

<父・和田善光さん(52)のコメント>

 飲酒運転で事故を起こして、誰に告げることなく現場を離れて、さらに、自己保身のためにブレスケアを買いに行く行為が「救護義務違反」に当たらないということは、ちょっと考えられません。なぜ、我々のこの思いというものが、今回司法に届かなかったのか、このあとしっかり考えます。検察の方にもこの後、上告してほしいとお伝えしています。

 我々は、救護義務違反が認定されること、量刑(6か月の実刑)が維持されること、この二つを望んでいたわけなんですけれども、少なくとも、救護義務違反が認められないというのは、おかしいと思うんですよ。

 飲酒運転で事件を起こした後に、誰に告げることもなく現場を離れていて、自己保身のための行動をとっている。さらに事件を起こした当初から「人をはねた」という認識もあって……、にもかかわらず一貫して、携帯で119番、110番していない。それはただ単純に、飲酒の検査を遅らせて、警察官の捜査を遅らせたいだけの、自己中心的な考えだと。

 もしこのようなことで救護義務違反が認められないのであれば、同じような事件が結構起こっていると思うんですよ。そんなものが犯罪の抑止になるどころか、今回の判決が確定してしまったら、本当にこの判決が悪い前例となってしまうので、安全で秩序ある交通社会というものが維持できなくなるということにつながってしまうと思うんです。

 判決については全く信じられないのですが、ただ、まだ確定したわけではないので、この後しっかり上告につなげるよう、流れを見守っていきたいと思います。

15歳、最後のバースデーケーキは大好きなチーズケーキだった(遺族提供)
15歳、最後のバースデーケーキは大好きなチーズケーキだった(遺族提供)

■「こんな国に生んでごめんね」としか言えない

<母・和田真理さん(51)のコメント>

 被害者の生命や身体の保護というものをまったく無視した判決だと思っています。最低の判決です。

 検察官には上告してほしいということをこちらからお伝えするまでもなく、上告を検討するということだったので、ぜひお願いしますとお伝えしました。

 今回の判決は、道路利用者の誰にも関わってくる判決だと思っています。被害に遭わせたのに、直ちに救護もせず、買い物に行っていてもいいなんて、こんな無罪判決、道路利用者の誰もが望んでいないと思います。

 最初に現場に戻ったときに、(加害者は)通行人3人の方に声をかけられています。「救急車を呼びましたか?」と。

 救護をする意思があったら、そのときに状況を説明して、樹生を捜索してほしいということをお願いするはずです。それもせずに「救急車を呼びましたか?」という声かけに対して、現場を離脱した。それが実際に、樹生の救命措置に遅延を生じさせていることは明らかです。それが無罪になるなんてことは信じられません。

 樹生にかける言葉は、見つからないです。このまま判決が確定するようなことがあれば、「こんな国に生んでごめんね」としか言えないです。

 飲酒運転をする人というのは基本的に救護とか報告をしたがらないんですね。そういった加害者を後押しするような、容認するような司法の判断というのは、こんなの、国民は望んでいないと思います。

 救護義務違反や飲酒運転をなくしたいと思っている国民の意識とあまりにも乖離していると思います。それに、事件全体を裁判官が見てくれているとはとても思えませんでした。

事故直後の加害車両。この車を停車させたまま加害者は樹生さんを救護をせずコンビニへ買い物に行った(遺族提供)
事故直後の加害車両。この車を停車させたまま加害者は樹生さんを救護をせずコンビニへ買い物に行った(遺族提供)

 ひき逃げという行為は、助かるかもしれない命を見殺しにする極めて悪質な行為です。本件事故の行為を「無罪」とすることが、本当に適切なのかどうか。

 現在、検察は上告を検討しているそうです。

 続報は追ってお伝えしたいと思います。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「開成をつくった男、佐野鼎」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。剣道二段。趣味は料理、バイク、ガーデニング、古道具集め。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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