左折巻き込みで小学生死亡 通学時間帯にクルマが「赤」となる分離信号の導入を!

長男の事故死をきっかけに、「歩車分離信号」の普及に取り組む長谷夫妻(筆者撮影)

 2月4日の朝、痛ましいニュースが飛び込んできました。

'''「8歳男児がワゴン車にはねられ死亡 東京・虎ノ門」'''(テレ朝NEWS/2020.2.4)

 報道によると、午前8時前、東京都港区虎ノ門の交差点で、横断歩道を渡っていた小学生の男児(8歳)が、左折してきたワゴン車にはねられ死亡。ワゴン車を運転していた52歳の男性は逮捕され、過失運転致死容疑で事故の詳しい捜査が行われているというのです。

 男の子は登校の途中でした。

 事故に遭わなければ、あと少しで学校に到着していたはずでしょう。

『青信号を守っていた子どもがなぜ、横断歩道の上で命を奪われなければならないのか……』

 子どもを持つ親としてはどうすることもできず、ただ不安を感じておられる方も多いのではないでしょうか。

左折巻き込み事故で死亡した長谷元喜くんの事故現場に置かれたお地蔵様の前掛けにはこの言葉が……(筆者撮影)
左折巻き込み事故で死亡した長谷元喜くんの事故現場に置かれたお地蔵様の前掛けにはこの言葉が……(筆者撮影)

 

■後を絶たない、右左折車による歩行者巻き込み事故

「このニュースを見たとき、私は、ああ、また起こってしまったのか……、と残念でなりませんでした。と同時に、いつまで子どもの命をドライバーの注意力だけに任せるのだろうかと、憤りを感じました」

 そう語るのは、「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会」会長の長谷智喜さんです。

 会の名称が表すように、長谷さんは現在『歩車分離信号』、つまり、歩行者が青信号のとき、クルマをすべて赤信号で止める、渋谷のスクランブル交差点のような信号を全国に普及させるための取り組みを行っています。

 

 たしかに、クルマが交差点で右左折するとき、ドライバーが横断歩道の手前で歩行者の有無を確認さえすれば、この手の巻き込み事故は絶対に起こらないはずです。

 それでも、同じような事故が後を絶たないのはなぜなのでしょうか……。

 長谷さんはこう答えます。

「それは、ドライバーが注意を怠るからにほかなりません。人は不注意な生き物です。事実、同様の事故は全国各地でコンスタントに発生しているのです」

■「信号はなぜあるの?」亡き息子からの宿題

 実は、長谷さん自身も、我が子を交通事故で亡くした遺族です。

 長男で小学5年生だった元喜くん(当時11歳)は、1992年 11 月 11 日、青信号で横断歩道を渡っているとき、左折してきたダンプに轢かれ死亡しました。

 2歳年下の妹とともにランドセルを背負って小学校へ向かう途中、まさに、冒頭で取り上げた事故と同じパターンの左折巻き込みの事故だったのです。

元喜くんが事故に遭った交差点。この横断歩道上で左折してきたダンプに轢かれました。現在は『歩車分離信号』となり、歩行者が青のとき、クルマは赤で完全に停止状態となるため右左折はできません(筆者撮影)
元喜くんが事故に遭った交差点。この横断歩道上で左折してきたダンプに轢かれました。現在は『歩車分離信号』となり、歩行者が青のとき、クルマは赤で完全に停止状態となるため右左折はできません(筆者撮影)

 葬儀から数日後、肩紐が引きちぎられた元喜くんのランドセルが警察から戻ってきたときのことです。

 長谷さん夫妻が悲しみをこらえながらふたを開けると、中から、学校で使うはずだったトランプ大の「なぞなぞカード」が出てきました。

 そのうちの1枚には、元喜くんの文字でこう綴られていました。

  

信号はなぜあるのか

 

  A 信号がないと交通事故に遭うから

「このカードを見たときは、妻と二人、涙が止まりませんでした。なぜ、青信号を守っていた息子がこのような事故に遭わなければならなかっのか……」(長谷さん)

 青信号を守っている歩行者が、横断歩道上で危険にさらされていること自体に疑問を持つようになった長谷さんは、同様の巻き込み事故が起こった現場へと足を運んでは、調査をおこなうようになったそうです。

 警察がまとめている交通事故の統計を調べると、毎年同じパターンの事故が、同じ確率で繰り返されていることもわかりました。

 つまり、いくら注意しているつもりでも、人間は「過ち」を犯してしまう、ということです。

「もし、不注意のクルマが突っ込んできたら、歩行者、特に青信号を信じている子どもはなす術がありません。加害者への怒りはもちろんですが、調査を重ねるうちにいつしかその怒りを通り越して、人とクルマを交錯させる危険な信号システムこそ変えなければ事故を減らすことはできない、ということに気づいたのです」(長谷さん)

全国各地に設置が進んでいる『歩車分離信号』の交差点(高知市内で筆者撮影)
全国各地に設置が進んでいる『歩車分離信号』の交差点(高知市内で筆者撮影)

■「歩車分離信号」で確実に守れる子どもの命

 

 歩行者が青信号を確認して道路を横断している間、車の信号は赤にしてすべてストップさせる。こうすれば、交差点の中で人とクルマがすれ違うことはなく、極めて安全です。

 長谷さんは1999年、『子どもの命を守る分離信号―信号はなぜあるの?』(生活思想社)を上梓し、歩車分離信号の安全性について詳細にまとめました。

 そのほか、署名や陳情活動、講演、海外視察など、時間を惜しまず駆け回りました。

 そして2002年には、警察庁が元喜くんの事故現場を含む全国100か所の交差点で歩車分離信号の試験運用を開始。その結果、「人対車」の事故が約 70 %減少するという大きな効果が現れたのです。

 しかし、それから18年の歳月が経過したものの、まだまだ普及は進んでいるとはいえません。

 警察庁によれば、2019年3月末時点で、歩車分離信号は全国で約9385基。全国の信号機の整備数は約21万基ということなので、全体の約4.5%程度です。

 その結果、歩車分離信号ではない交差点で、冒頭のニュースのような悲しい事故が起こり続けています。

 

 長谷さんは語ります。 

「信号が歩行者を安全に横断させるという重要な役目を担っていることは言うまでもありません。私は『歩車分離信号』システムの導入で、子どもたちの命を確実に守ることができると確信しています

 青信号を守っていながら犠牲になる子どもたちをこれ以上生まないために、せめて、通学時間帯だけでも『歩車分離』の信号サイクルに変えるといった取り組みはできないものでしょうか。

 行政にはぜひ本気で検討していただきたいと思います。

元喜くんが左折ダンプに巻き込まれて死亡した現場には小さなお地蔵様が(筆者撮影)
元喜くんが左折ダンプに巻き込まれて死亡した現場には小さなお地蔵様が(筆者撮影)