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クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ/ブルータルでヘヴィ、繊細で脆い新作を語る【前編】

山崎智之音楽ライター
Josh Homme / Queens Of The Stone Age(写真:REX/アフロ)

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジがニュー・アルバム『In Times New Roman...』を2023年6月16日(金)に発表する。

前作『Villains』(2017)が本国アメリカをはじめ世界各国のチャート上位にランク・イン。日本でも2017年のFUJI ROCK FESTIVAL、2018年のSUMMER SONICの2大フェスティバルに連続参戦を果たすなど、現代ロック・シーンを代表するバンドとなった彼らだが、それから急激にペースダウンする。コロナ禍に加えてギタリスト/ヴォーカリストのジョシュ・ホーミの家庭と健康の問題が報じられ、ファンを心配させたが、約6年を経て完全復活。遂に新作が世に出ることになった。

ブルータルでヘヴィ、それでいて繊細で脆い。そんなアンビヴァレンスの上に成り立つ本作は、ジョシュが「50回聴いても新しい発見がある」と語る奥行きのある、聴きごたえのある作品となっている。

アルバム発売に先駆けて2023年5月から北米ツアーをスタートさせたクイーンズだが、ハードなスケジュールの合間を縫ってジョシュをキャッチ。全2回の記事となるインタビューで『In Times New Roman...』について語ってもらった。まずは前編をどうぞ。

Queens Of The Stone Age『In Times New Roman...』(BEATINK / 2023年6月16日発売)
Queens Of The Stone Age『In Times New Roman...』(BEATINK / 2023年6月16日発売)

<50回聴いても新しい発見がある作品にしたかった>

●現在のツアーでは新作から「Emotion Sickness」と「Negative Space」をプレイしているそうですね。観客からの反応はどうですか?

すごく良いよ。「Negative Space」をプレイしたのは、アルバムから最初の一口を味見して欲しかったからなんだ。ギターのフレーズのことを“リック”というのは、それが理由なのかな?よく判らないけど(笑)。新作の曲は綿密に組み立てたものでなく、ドカン!と出来上がったものが多い。とにかく“起こった”んだ。「Negative Space」みたいな曲は、アルバムをまだ聴いたことがない人たちにも伝わると思った。

●前作『Villains』から約6年ぶりの新作となりますが、曲作りやレコーディングはいつ頃から始めたのですか?

アルバムのレコーディングをしたのはもう2年ぐらい前だった。でもヴォーカルを録ったのは去年(2022年)の11月だったんだ。それまで自分自身のことや、失った友達のことで頭がいっぱいだった。「さあ、アルバムを作るぞ!」なんて気分にはならなくて、仲間たちに両脇を抱えられながらレコーディングしたようなものだよ。周囲の支えを必要としていたんだ。バンド全体が4年間、外界から切り離されていた。...友達のシンガー、ニッキー・レインもアルバムの間隔が5年空いたことがあった。その理由について彼女は「しばらく“生きる”ことで、歌詞にするような人生経験を積み重ねる必要があった」と言っていたよ。俺の場合も同じだったのかも知れない。まず“生きる”必要があったんだ。俺は18歳からずっとツアーに出ていた。だから普通の人間らしい生活をしてみる経験が必要だったんだ。とにかくまたアルバムを作って、ツアーに戻ることが出来て本当に嬉しいね。

●バンドの演奏はハードなギター・リフの隙間をリードやフィルで埋めることで幾重にもレイヤーのある密度の濃いものですが、それはどの程度意図したものでしょうか?

うん、君の言う通りだと思う。このアルバムは“意図的な愚かさ”の蓄積なんだ。俺は今回、ブルータルな音楽をやりたかった。それに愚直で武骨なリフの方が効果的だったんだ。どの曲もベーシックなリフは馬鹿っぽくて愚直だけど、それは意図したものだった。それらを重ねることで、より複雑で密度の濃いものになっていったんだよ。

●『Villains』発表時のインタビューで、あなたは『...Like Clockwork』(2013)と『Villains』が三部作の第1作・第2作と語っていましたが、『In Times New Roman...』はその完結編だといえるでしょうか?

うん、3枚でひとつの流れを持つ、三部作となっていると思う。音楽の内側に何かを隠すのが好きなんだ。パズルのピースを繋げたり、イースター・エッグのように忍び込ませておく。未来への布石と過去への言及だよ。50回聴いても新しい発見がある作品にしたかったんだ。銀行に行くときカーステレオで聴いてそれで終わり、みたいな人がいることは判っているけど、注意して聴くことで、新しい何かが聞こえてくる。音楽に幾重ものレイヤーがあるのは大事なことだよ。

●そのインタビューであなたはアルバムで“スタート・シット”することが好きだと話していましたが、今回どんなシットをスタートさせましたか?

ははは、良い質問だ(笑)。このアルバムはサウンドとエモーションの両面においてブルータルな作品だ。今回スタート・シットしたのは、そんな要素を弱く脆いものと共存・両立させることだった。ヘヴィなリフにスウィートでナイーヴなオーケストラが入ってきたりね。そんな対比を強調したんだ。

Queens Of The Stone Age / photo by Andreas Neumann
Queens Of The Stone Age / photo by Andreas Neumann

<人生は壊れやすいものだし、だからこそ美しい>

●海外メディアで「Emotion Sickness」が「初期の『R指定』(2000)を思わせるギザギザしたサウンド」と評されていましたが、そのような意見は妥当でしょうか?

うーん、そうでもない気がするな。「Emotion Sickness」はフランケンシュタインの怪物みたいな曲で、バラバラのピースを繋ぎ合わせたものだ。それと同時に、クロスビー・スティルス&ナッシュ的な曲でもある3パートのハーモニーによるコーラスがある、俺たちとしてはかなり異質なものだよ。『R指定』の頃にはあり得なかった。当時の俺にはそんな資格すらなかったよ(笑)。

●「Negative Space」に“emotion sickness”というフレーズが出てきますが、「Emotion Sickness」とはどのように繋がっているでしょうか?

いや、そうするのが最も自然だったんだ。テーマや題材に繋がりがなくても、こっちの歌で使った表現だからあっちの歌では使えないという訳ではない。俺はルールに従わない無法者だからな(笑)。知ったこっちゃない、使えるんだったらどんな表現だって使うよ。

●「Negative Space」の歌詞は宇宙船から宇宙飛行士が切り離されるという、デヴィッド・ボウイ「スペイス・オディティ」のトム少佐がジョシュ少佐になったようなものですが、意識はしたでしょうか?

いや、正直ボウイのことは頭になかった。この歌詞を書いたとき、精神的に良い状態ではなかったんだ。宇宙空間で取り残された宇宙飛行士みたいな孤独な気分だった。止まることも出来ず地球から離れていき、虚無の中に吸い込まれていく。感情や思考は意味を持たず、残るのは諦めだけ...ここ数年、そんな現実と直面してきた。何をどれほど望もうと、どれだけ努力しても、いくら金を稼いでも、まるで関係ないんだ。もうひとつ気付いたのは、この宇宙の多くが“信じること”で成り立っているという事実だ。“信じること”はふたつの物の間にある“無”を指す。でも“無”には何らかの意味が“有”るんだ。俺は天才ではないけど、ずっと考えていて、この歌詞に至ったんだよ。

●「Sicily」の歌詞にはシチリア島がまったく出てきませんが、何故そう名付けたのですか?

シチリア島は古代の欲望、古代の征服を象徴する場所なんだよ。知覚よりもセクシュアルで本能的な衝動...この曲からそんな根源にある生のフィーリングを感じたんだ。もしこの曲をオーケストラが演奏しても、俺たちと同じぐらいヘヴィになるだろう。そういう曲を書けたら、物事がうまく行っているということだ。俺は音楽で理想を追求するというロマンチックな考えを持っているんだ。平等、真実、正義、愛、完璧、復讐などをね。

●「Sicily」が“クイーンズ流サイケデリア・ソング”に最も近いものだと言ったら、私はとんでもない勘違い野郎ということになるでしょうか?

いや、その表現が気に入ったよ。俺にとって“サイケデリア”とは、ありふれた曲構成を無視して、成すがままにタコの脚を伸ばす精神を指すからね。そういう意味で「Sicily」はサイケデリアだよ。ヘヴィでセクシーな含みがあるのも好きなところだ。

●確かに『In Times New Roman...』は50回聴いても新しい発見があるアルバムですが、50回聴くことでさらに謎が深まるアルバムでもあります。「Straight Jacket Fitting」歌詞の“ローマの新時代に誰もが独りぼっち、忠誠は誓わない”という一節をアルバムのタイトルに使ったのは何故でしょうか?アルバム全体を貫くテーマだといえるでしょうか?

“処刑台ユーモア”が好きなんだよ。困難な状況で作ったアルバムに史上最大の帝国の名前を冠するギャップが面白いと思った。ローマ帝国は滅亡し、タイタニック号は沈没する。それでも良いじゃないかって思うんだ。大事なのは、世界が燃え尽きようとするとき、残された時間をどう過ごすかだよ。今という瞬間、何に焦点を絞るべきか考えるべきなんだよ。手遅れになる前に何をしなければならないかってね。俺はここ1年半から2年のあいだに、親しい友人を9人亡くして、さまざまなものを失ってきた。でも、それだけのものを持つことが出来たことは幸せだったと思うし、自分が何かを愛するという感情を誰かが否定することは出来ない。かつて持っていた美しいものに感謝しながら、失ったものに固執しないことが重要なんだよ。人生は壊れやすいものだし、だからこそ美しいんだ。

●9人の友人を失ったとのことですが、その何人かを挙げていただけますか?

テイラー・ホーキンスがそうだし、親友のリオ・ハックフォード、マーク・ラネガン、それからグラフィック・アーティストのフランク・コジック...彼らのような一風変わった人たちと友達になれて本当に恵まれていたし、感謝しているよ。彼らへの愛情は決して消えることがない。(別プロジェクトの)デザート・セッションズのコンセプトを考えたのはフランクだったんだ。彼が自分のレーベル“マンズ・ルイン・レコーズ”を始めた頃、ひんぱんに連絡を取り合っていた。カイアスやクイーンズ、デザート・セッションズの作品をリリースしてくれて、メジャーのレコード会社の言いなりにならず自分のやりたい音楽をやればいいと学んだよ。お互いのアート・ファンタジーを満たし合う関係だったんだ(笑)。デザート・セッションズを始めたおかげでクイーンズは音楽的にも、あらゆる面で流動性のあるバンドになった。彼がいなくなって本当に寂しいよ。

●クイーンズのデビュー・シングル(1996)は“マンズ・ルイン”からガンマ・レイ名義でリリースされましたが、ドイツのメタル・バンドのガンマ・レイから告訴されそうになってクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジに改名したというのは事実ですか?

いや、俺のビジネス面を担当していた弁護士に「訴訟を起こされたらまずいですよ」と忠告されて、自主的に改名したんだ。彼らから訴状が届いたとか、そういうわけではないよ。でも結果として、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジというバンド名にして正解だったと思う。まったく何の意味もないがゆえに、あらゆる解釈を出来る名前だからね。ドイツのガンマ・レイの音楽は聴いたことがないけど、とにかく感謝しているよ。

後編記事ではジョシュが『In Times New Roman...』の世界観をさらに掘り下げる。

【日本レコード会社公式サイト】

BEATINK

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13404

【2017年のインタビュー】

【インタビュー前編】ジョシュ・ホーミが語るクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ新作『ヴィランズ』

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20170826-00074943

【インタビュー後編】ジョシュ・ホーミがもっと語るクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20170829-00075057

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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