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【インタビュー前編】先鋭ジャズ・ロック集団アムガラ・テンプル登場

山崎智之音楽ライター
AMGALA TEMPLE courtesy of P-Vine Records

独自の進化を遂げてきたノルウェーのジャズ&プログレッシヴ・ロック・シーンから、アムガラ・テンプルがアルバム『インヴィジブル・エアシップス』でデビューを果たした。

ジャガ・ジャジストでサックス/クラリネット/ギター/ベース/キーボード他を担当するラーシュ・ホーントヴェットがベースとシンセサイザーに専念。ノルウェーの数々のバンドで活躍するドラマーのゴード・ニルセン、ソロ活動でも知られるギタリストのアムンド・マールドと合体したトリオ編成で火花を散らすインストゥルメンタル・サウンドは、早くもヨーロッパ全土のジャズ・シーンで話題を呼んでいる。

ジャガ・ジャジストでの活動で高い人気を誇り、「日本にはもう8回行ったことある」と語るベテランのラーシュが“新バンド”であるアムガラ・テンプルでのスタートについて語った。

<どんな音楽性になるか、自分たちでも判っていなかった>

●アムガラ・テンプルはどのようにして結成されたのですか?

もう何年も前からゴードと一緒にバンドをやろうと話していたんだ。彼はブッシュマンズ・リヴェンジなどのバンドでやっているけど、俺のソロ・アルバム『Kaleidoscopic』(2008)でプレイしているし、いろんなプロジェクトで共演してきた。彼がギタリストのアムンド(マールド)と一緒にやったらどうかと提案してきたんだ。俺自身もアムンドと何度か一緒にやったことがあったし、彼が素晴らしいミュージシャンだということは知っていた。それで声をかけることにしたんだ。

●ゴードとはどんな音楽をやろうと話していたのですか?

『Invisible Airships』ジャケット  P-VINE RECORDS  2019年3月6日発売
『Invisible Airships』ジャケット P-VINE RECORDS 2019年3月6日発売

いろんなことを話したけど、彼と共通した意見は、とにかく自由な音楽をやろうというものだった。そしてアムンドが加わったことで、彼の個性が反映された。ジミ・ヘンドリックスがサイケ・インプロヴィゼーションをやったら?...みたいなサウンドになったよ。ただ、この3人の音楽性がどうなるか、自分たちも判っていなかったんだ。それで2017年、オスロで完全なインプロヴィゼーション・ライヴを2回やった。それらのショーの音源を聴き返して、その中からちょっとしたフレーズをピックアップしたりして、曲作りの材料にしたんだ。だからアルバムはまったくのインプロヴィゼーションではないけど、新たなインプロヴィゼーションも取り入れたりしている。

●インプロヴィゼーションは音楽にどのような効果をもたらすでしょうか?

このバンドで楽しいのは、自分たちでもどんな結果を得られるか判らないことだ。アムガラ・テンプルのライヴでは、まず最初の曲を決める。その後は流れに任せるんだ。大まかにアルバム『インヴィジブル・エアシップス』からの5曲をプレイするけど、曲順はショーごとに変えるし、全体の40%はインプロヴィゼーションだ。曲間ではジャムもやるし、アンビエントもあればアフロビートも加えて、アルバムは45分ぐらいだけど俺たちのショーは80分を超えるんだ。将来的にはさらに音楽性の幅を拡げたい。エレクトロニクスやアコースティックな要素も取り入れたいね。

●『インヴィジブル・エアシップス』ではジャガ・ジャジストでメイン楽器といえるサックスやクラリネットを吹いていませんが、それは意図的に封印したのですか?

ここ15〜20年はジャガ・ジャジストでもギターやベース、キーボードも弾いているけど、サックスやクラリネットは自分にとって重要な楽器であることは確かだ。アムガラ・テンプルはベーシックなトリオ編成だから、自然とベースとシンセに重点を置くことになるんだ。アルバムではまったく管楽器を吹いていないよ。ただ、今後やらないと決めたわけでもない。アムガラ・テンプルでサックスを吹いたらどうなるか?とか、いろんな可能性があるんだよ。

●ジャガ・ジャジストが8人という大所帯なのに対して、ミニマルなトリオ編成にしたのは意図したことでしたか?

うん、その通りだ。トリオ編成だと全員に自由と責任がある。ライヴでも席を立つことが出来ないしね。でも、3人それぞれが曲を引っ張っていくことが出来る。臨機応変にコード進行をアイコンタクトで変えることも出来るんだ。ジャガ・ジャジストの多人数編成もアムガラ・テンプルのトリオも、両方を楽しんでいるよ。

AMGALA TEMPLE courtesy of P-Vine Records
AMGALA TEMPLE courtesy of P-Vine Records

<レトロ・バンドになるつもりはない。常に新しい音楽の可能性を切り開いていきたい>

●アムガラ・テンプルを始めるにあたって、イメージしていたバンド像はどんなものでしたか?インスピレーションを受けたバンドはいますか?

さまざまなバンドからインスピレーションを受けてきたよ。キング・クリムゾンからマイルス・デイヴィス、ブラック・サバス...それにノルウェーのエレファント9、スウェーデンのドゥンエンなどの音楽から触発された。ただ、俺たちの音楽スタイルは彼らとは異なっているし、較べてもまったく似ていないと思う。「あのバンドみたいな音楽をやろう」とか話し合うことはなかったよ。それよりも3人それぞれの個性を表現することを重視した。とても新鮮な経験だったよ。ジャガ・ジャジストはメンバー数が多いし、「こういう曲なんだ」と説明することがある。でもアムガラ・テンプルでは自分のやりたいことをやれば、その場で他の2人が反応してくれる。言葉が必要ではないんだ。そんな違いを楽しんでいるよ。

●『インヴィジブル・エアシップス』を聴いて、ソフト・マシーンやマハヴィシュヌ・オーケストラなど、1970年代のジャズ・ロックを思わせる部分も感じました。

確かにアムガラ・テンプルの音楽は1960年代後半から1970年代のロックから影響を受けているね。カンやソフト・マシーン、ジミ・ヘンドリックス、デヴィッド・アクセルロッド...サイケやクラウトロックは3人とも大好きだよ。ただ俺たちはレトロ・バンドになるつもりはない。常に新しい音楽の可能性を切り開いていきたいね。

●ノルウェーはジャズとロックを極めてユニークな形でクロスオーヴァーさせてきました。モーターサイコやシャイニング、テリエ・リピダル...。

ノルウェーはニューオリンズなどアメリカン・ジャズの本場から距離があるから、“本場”とは異なる独自の進化を遂げてきたんだ。特にここ5、6年のあいだに目覚ましい変化をしてきたと思う。ノルウェーの音楽シーンは狭いから、誰もがお互いのことを知っていて、異ジャンルのミュージシャンから刺激を受けることが多い。そういう意味では良いシーンだよね。テリエ・リピダルからは多大なインスピレーションを受けてきたよ。モーターサイコとは20年来の友人だし、何度も一緒にやったことがある。音楽ジャンルの枠に囚われず、自分の信じる音楽をやるという点で、彼らからは多大な影響を受けているよ。音楽的にはあまり似ていないと思うけどね。

後編ではアルバム『インヴィジブル・エアシップス』の世界観をさらに深く掘り下げるのと同時に、ラーシュの意外な(?)コラボレーションなどについても語ってもらおう。

アムガラ・テンプル

『インヴィジブル・エアシップス』

P-VINE PCD-21818

2019年3月6日発売

日本レーベルサイト

http://p-vine.jp/news/20190213-170000

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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