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【インタビュー】キャメルが2018年5月に来日。名盤『ムーンマッドネス』をライヴ完全再現

山崎智之音楽ライター
Camel / photo by Stuart Wood

ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックの叙情派バンド、キャメルが2018年5月に来日公演を行う。

約2年ぶりとなる日本でのステージだが、今回は“MOONMADNESS TOUR 2018 / Entirety And Other Classic Songs”と題して、名盤『ムーンマッドネス/月夜の幻想曲(ファンタジア)』(1976)完全再現&ベスト・クラシックスを披露。会場となる川崎クラブチッタの30周年に相応しい4日間のセレブレーション・ライヴとなる。

英国のエモーションを奏でて半世紀。ギターの名手アンドリュー・ラティマーが語る。

●2016年5月の日本公演から、どんな活動をしてきたのですか?

曲のアイディアをピーター(ジョーンズ/キーボード)と交換しながらソングライティングをしたり、さまざまな実験をしていた。もちろん日本公演に向けてのリハーサルも行ってきたし、毎日するべきことがあったよ。 それに手の手術をして、リハビリにも時間がかかったんだ。

●えっ、どんな症状だったのですか?

ずいぶん前からだけど、左手の関節炎を患っていてね。特に親指の痛みが耐えられないほどだった。それで去年(2017年)の3月に手術をしたんだ。今でも温度差がある日はちょっと痛むけど、歳を取ると仕方ないものだよ。痛みと一緒に暮らしていかねばならないんだ。でも日本公演に向けて入念にウォームアップして、ベスト・コンディションに仕上げていくよ。

●楽しみにしています!

日本でプレイすることはいつだって喜びだ。DVD『一期一会/キャメル・ライヴ・イン・ジャパン』を見てくれれば、私たち全員がスマイルを浮かべながらプレイしているのが判るだろう。お客さんは温かくフレンドリーに迎えてくれるし、日本の土地にはスピリチュアルなものを感じる。私の誕生日の5月17日にバースデイ・ライヴを日本で出来るのを楽しみにしているんだ。2016年の誕生日も日本で過ごしたけど、誕生日を祝うのにこれ以上の国はないよ(笑)。野外フェス(プログレッシヴ・ロック・フェス2016)でスティーヴ・ハケットと一緒にやったんだ。彼も私も50年以上同じ業界でやっているのに、ちょっと面識がある程度だったし、バックステージで話すことが出来て楽しかった。

●今回の日本公演は“ムーンマッドネス・ツアー2018”と銘打って4公演を行いますが、どんなライヴになりそうですか?

毎日、2部構成のショーをやるんだ。第1部が『ムーンマッドネス/月夜の幻想曲(ファンタジア)』完全再現、第2部では新旧取り混ぜていろんな曲をプレイする。キャメルには長い歴史があるし、ショーごとに数曲ずつ変えながら演奏する、楽しいショーになるよ。

●1976年に発表されたアルバム『ムーンマッドネス』は、バンドにとってどんな位置を占める作品ですか?

Camel: Moonmadness (現在発売中)
Camel: Moonmadness (現在発売中)

『ムーンマッドネス』は最もセールス面で成功したアルバムではないかも知れないけど、『白雁/スノー・グース』(1975)と並んで最も人気のあるアルバムのひとつであることは確かだ。イギリスのチャートで最も上位にエントリーしたアルバムだったし、私自身にとっても重要なアルバムなんだ。『白雁/スノー・グース』を発表した後、ピーター・バーデンスと「次はどんなアルバムを作ろうか?」と話し合った。ああでもない、こうでもないと話しながら、バンドの4人それぞれのキャラクターを曲にしたら面白いんじゃないかってことになった。それもまた、このアルバムが私にとって特別な存在である理由だね。ピーターは2002年に亡くなってしまったし、ドラマーのアンディ・ウォード、ベーシストのダグ・ファーガソンもバンドを去ってしまった。『ムーンマッドネス』はもう戻らない自分の青春を思い起こさせるアルバムなんだ。

●『ムーンマッドネス』の制作はどのようなものでしたか?

『ムーンマッドネス』は作っていて楽しいアルバムだった。バンド全員が同じ方向を向いて、ハーモニーを織り成していたからね。短期間でレコーディングして、完成してしまった。2ヶ月ぐらいだったかな?ファースト・アルバム(1973)は5週間ぐらいで完成したんだ。それから『蜃気楼』(1974)、『スノー・グース』(1975)と、作品を追うごとにやりたいことが増えて、制作期間もかかるようになった。『スノー・グース』はかなり時間をかけたアルバムだったよ。でも『ムーンマッドネス』はそれより短期間で作ることが出来た。

●“自分たちをコンセプトにする”作業には時間を要しましたか?

初期の“仕込み”には時間がかかったアルバムだったね。自分たちについて書くなんて、どうすればいいんだ?と頭を抱えたんだ。それで各人が自分を表現する曲を書いて、それを持ち寄って、バンドとして完成させるやり方を取った。私は「エアボーン」、ピーターは「コード・チェンジ」を書いて、お互いの曲にそれぞれのアイディアを提供し合ったんだ。「エアボーン」はイングランドの田園風景を描いた曲だった。森林や妖精など、当時興味のあったものをイメージした。それにピーターが書いた歌詞を乗せたんだ。「アナザー・ナイト」はピーターと私が、ベーシストのダグ・ファーガソンをイメージして書いた曲だった。元軍隊で、質実剛健な彼のキャラクターが表れていると思う。「ルナー・シー」はドラマーのアンディ・ウォードをイメージした曲だった。彼はジャズから影響を受けたドラマーだったから、ジャズ調の曲となっている。それに当時の彼はワイルドで、ちょっとイカレていたから、“頭がおかしい lunacy”をアレンジした曲タイトルにしたんだ。その時点でアルバムのタイトルが『ムーンマッドネス』になることは漠然と決まっていたから、全体を貫くテーマだった。

●前作『スノー・グース』が成功を収めたことで、『ムーンマッドネス』にどんな影響をおよぼしましたか?

マネージャーやレコード会社の担当、ファンなどから「次のアルバムはまだ?」とプレッシャーをかけられた(苦笑)。それで集中して、短期間で曲を書く必要に迫られたんだ。ピーターと私は田舎で合宿して曲作りをした。エンジニアのレット・デイヴィスも素晴らしい手腕をしていて、彼のおかげでアルバムのサウンドはより良いものになったね。

●前作に続いて『ムーンマッドネス』もインストゥルメンタルにしようとは考えませんでしたか?

キャメルは奇妙なバンドなんだよ。『スノー・グース』が成功したことで、レコード会社は同じ路線を求めてきたけど、我々は一貫して「いやいや、インストゥルメンタルはもうやったから、次のアルバムはヴォーカル入りにするよ」と相手にしなかった。まだ若かったし、彼らに反発する気持ちもあったんだろうな(笑)。ただキャメルは元々インストゥルメンタルの要素が強いバンドだし、ヴォーカル・ナンバーばかりにはならないことは判っていた。バンドの誰も本格的なシンガーではなかったし、楽曲と演奏でリスナーを魅せるしかなかったんだ。『ムーンマッドネス』の少し後に、リチャード・シンクレアが加入することになるけどね。リチャードやクリス・レインボウなどは素晴らしい声をしていたし、それでヴォーカル面のパワーアップが可能になったんだ。

●『ムーンマッドネス』は1976年3月に発表され、全英チャート15位となりましたが、その後にブームとなるパンクの予兆はありましたか?

あの時期はいわゆるプログレッシヴ・ロックが飽和点に達しようとしている時期だった。ミュージシャン達が演劇的な要素を取り入れたり、ステージ・セットやライティングにこだわったり、リスナーとの接点を失いつつあったんだ。そんなときに登場したのがパンク・ロックだった。パンクはミュージシャンとオーディエンスの垣根を取り払うことに成功したけど、彼らの多くはまともに楽器も演奏できなかった。私にとって音楽はセンスと技術を磨くものだったし、3コードをかき鳴らして絶叫するパンクの思想とは相容れないものがあった。キャメルは名指しで批判こそされなかったけど、まだ30歳にもなっていないのに老いぼれ扱いされるのは楽しいことではなかったな。ただ、パンクのおかげで、我々ミュージシャンはオーディエンスとの接点を見直すことになった。そういう意味ではパンクから得るものもあったと思う。

●2016年の来日前、キャメルのニュー・アルバムを作る可能性があるとおっしゃっていましたが、近々聴くことが出来そうでしょうか?

うーん、どうだろうね。まだその段階には至っていないと思う。でも、まだレコーディングしていない新曲をステージでやって、お客さんの反応を見てみるかも知れない。それが日本になるか、その後のトルコやイスラエルのショーになるかは判らないけどね。スタジオに入るのはまだちょっと先になるよ。

●2018年9月にはロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで公演を行いますが、ロイヤル・アルバート・ホールといえば、1975年10月の『スノー・グース』オーケストラ共演ライヴ(『ライブ・ファンタジア』<1978>にも収録)を行った会場ですね。ここはバンドにとって特別な意味のある会場でしょうか?

私にとっては世界中のどの会場も同じだよ。ロイヤル・アルバート・ホールは何百年もの歴史がある由緒正しい会場だし、大勢のお客さんが来るからプレッシャーはあるけど、気にしないようにしている。お客さんが5千人であっても20人であっても、ただベストな演奏を提供するだけだ。アルバート・ホールでもクラブチッタでも、最高のライヴを見せるよう努力するよ。もちろん毎晩ベストを心がけているし、最高のステージ・パフォーマンスのときもある。でも、まあまあグッドなときもあれば、メンバーの体調が悪かったり、機材の調子が悪い日もある。ライヴというものは人生と同じなんだ。日本公演ではキャメルというバンドの“人生”を楽しんで欲しいね。

【過去のインタビュー】

2016年のアンドリュー・ラティマー・インタビュー前編

2016年のアンドリュー・ラティマー・インタビュー後編

Andrew Latimer / photo by Yuki Kuroyanagi
Andrew Latimer / photo by Yuki Kuroyanagi

CLUB CITTA' 30th ANNIVERSARY

PROGRESSIVE ROCK INVASION VOL.1

CAMEL (キャメル)

MOONMADNESS TOUR 2018 / Entirety And Other Classic Songs

2018年5月16日(水)/17日(木) OPEN 18:30 / START 19:30

5月19日(土)/20日(日) OPEN 16:00 / START 17:00

CLUB CITTA' (川崎)

公演公式ウェブサイト  http://clubcitta.co.jp/001/camel-2018/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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