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【インタビュー】ハードコア・スーパーグループ、デッド・クロスが突き立てる“死の十字架”

山崎智之音楽ライター
Dead Cross (デイヴは右から2人目)

2017年最大のハードコア・スーパーグループが世界に“死の十字架”を突き立てる。数々の修羅場を経てきた凄腕ミュージシャンたちが集うデッド・クロスのファースト・アルバム『デッド・クロス』は、ドラマーのデイヴ・ロンバードが「純粋で混じり気のない、情け無用のハードコア・ミュージック」と表現するエクストリームな一撃だ。

スレイヤーで爆裂ビートを叩き出し、ファントマスでも活動するデイヴ・ロンバード(近年ではスイサイダル・テンデンシーズやミスフィッツともツアー)。フェイス・ノー・モアのヴォーカリストであり、ファントマスの一員でもあるマイク・パットン。そしてハードコア・バンド、リトックス(RETOX)のマイケル・クレインとジャスティン・ピアスン(ジャスティンはザ・ローカストの一員でもある)という4人が集結。プロデューサーにスリップノットやKoЯnを手がけてきたロス・ロビンソンを迎えて生み出すサウンドは、アルバムを聴くという行為に“死”すら覚悟させるものだ。

デッド・クロスで新たな始動のときを迎えるデイヴ・ロンバードに訊いた。

●元々デッド・クロスはリトックスの現/元メンバーがデイヴと合体する形で結成されましたが、どのようにしてバンドは始動したのですか?

『デッド・クロス』Hostess Ent. HSE-4200/現在発売中
『デッド・クロス』Hostess Ent. HSE-4200/現在発売中

バンドが結成したのは2015年11月だった。俺はそのとき別のバンドをやっていて(注:フィルムPHILMのこと)、ロス・ロビンソンとレコーディングする予定だったんだ。でも予測できなかった事態があって、俺はそのバンドを終わらせることにして、レコーディング・セッションは中止になってしまった。それでロスに連絡して、せっかくスケジュールを空けてもらったのにすまないと謝罪したら、次の日何をしているのかと訊かれたんだ。レコーディングが中止になったから何も用事はないと答えたら、スタジオに遊びに来ないかと言われた。それで俺がスタジオに行ったら、ジャスティンとマイク・クレインがいたんだ。実は俺のバンドは数回のライヴがブッキングされていて、前座のバンド(注:デカルト・ア・カント)がメキシコからの飛行機のチケットを手配していて、中止にするのは手遅れだと説明した。2人が手伝ってくれることになり、デッド・クロスが生まれたんだ。バンド名、ロゴ、ポスター、数曲のオリジナル曲がそれから24時間で決定した。頭がおかしくなりそうな急展開だったよ。

●デッド・クロスではリトックスのヴォーカリストであるジャスティンがベーシストで、リトックスのドラマーであるゲイブ・サービアンがヴォーカリストを務めることになりましたが、意図的に担当パートを変えることにしたのですか?

当初、俺はジャスティンに歌って欲しかったけど、彼はこのバンドではベースに専念したいと言ってきたんだ。その代わり、彼はゲイブを提案してきたんだよ。

●ゲイブが2016年9月に脱退したとき、デイヴは携帯メールでマイク・パットンにデッド・クロス加入を打診したそうですが、携帯メールでスーパーグループが生まれるというのも凄いですね。

確かにあまりない話だけど、本当にそうだったんだよ。“スーパーグループ”というのは大抵エージェントが仕切ったり、1人のミュージシャンが中心になって結成されるものだけど、デッド・クロスの場合はまったく異なっていたんだ。

●デイヴとマイク・パットンは、いつから友人なのですか?

マイクと俺が出会ったのは1990年代後半、フェイス・ノー・モアが解散する直前のロサンゼルスでのショーだった。そのとき話した時間は短かったけど、2人ともアヴァンギャルド・ミュージックが大好きだということが判って、それから数ヶ月後にマイクが連絡してきて、ファントマスを結成することになったんだ。音楽へのアプローチについていえば、マイクと俺は似通っているんだ。

●マイク・パットンはデッド・クロスにどんな要素をもたらしましたか?

7オクターヴの唯一無二のヴォーカルと狂気だな。彼は頭がおかしいほどの才能を持っているし、すべてのことに150%を投入するんだ。デッド・クロスも例外ではない。混沌と耳の中で鳴り止まないメロディ、内臓を吐き出すスクリーム、示唆に富んだ歌詞...一言でいえば、マイク・パットンは“マイク・パットン”をデッド・クロスにもたらしたんだ。

●“デッド・クロス”というバンド名は、どのようにして考えたのですか?誰のアイディアでしたか?

ジャスティンとマイク・クレインが俺に幾つかアイディアを送ってくれたんだ。その中にあった“デッド・クロス”が一番効果的だと思ったんで「これがいい!」と答えたら、彼らも同じだと言ってくれた。このバンドはすべてが急に作られたから、いろんなことをすぐに決めなければならなかった。

Dead Cross
Dead Cross

●デッド・クロスの音楽性を説明するとしたら?

純粋で混じりっけのない、情け無用のハードコア・ミュージックだ。

●アルバムの曲はどのようにして書かれましたか?メイン・ソングライターは誰ですか?

まずマイク・クレインと俺で曲作りを始めた。同じ町に住んでいるから、集まりやすかったんだ。その後、ロス・ロビンソンのスタジオでジャスティンと合流して、さらに曲を発展させていった。それから全員で曲を完成させて、ロスもアイディアを提供してくれた。パットンは歌詞とヴォーカル・メロディを書いているよ。

●アルバム『デッド・クロス』の音楽は怒りと攻撃性に満ちていますが、それはどんなところからインスピレーションを得ているのですか?

バンドが結成したときの俺は、怒りでいっぱいだったんだ。それで結果として俺のルーツであるハードコア、スラッシュ、パンクに戻ることになった。曲作りをしているときにパリのバタクラン劇場襲撃事件やサンバーナーディーノの銃撃事件があった。それと同時に、アメリカ大統領選挙もあったんだ。俺たちが曲を書いているあいだ、誰もが攻撃され、怒り、分断されて、戦おうとしていた。俺たちもその怒りを音楽に反映させたんだ。

●マイク・パットンはデッド・クロスの音楽性について“アキュースド、ディープ・ウーンド、シージなどに通じるトラディショナル・ハードコア”と表現していますが、あなた自身は彼の挙げたバンドとの対比についてどう思いますか?

デッド・クロスの音楽は確かにハードコアだけど、オリジナルなサウンドだと思うし、他のバンドとは比較できないと思う。すごくユニークな音楽性だよ。

●アルバムの曲はいずれも短いものですが、それにはどんなこだわりがありましたか?

焦点を絞って、顔面に叩きつけるんだ。こういうスタイルのアルバムは、そうする以外にないんだよ。リスナーの注意を惹きつけなきゃならない。アーティストが必要でない余計な音や歌詞を入れるようになると、音楽は惰性になってしまう。俺たちはこのスタイルに最も向いたスタイルで曲作りをした。余計なものを足さずに、スリルの連続にしたかったんだ。

●「ギャグ・リフレックス」は4分21秒というアルバムでは長く、構成も複雑でヴォーカルも幾重にも重ねていたり異色な曲ですが、どのような意図で書いたのでしょうか?

「ギャグ・リフレックス」は他の曲と同時期に書いたし、長くしようと思って長くなったわけじゃないんだ。生命を吹き込むのに、それだけの時間を要しただけだよ。これ以上だと長過ぎだし、これ以下だと曲の大事な部分が失われた気がする。

●アルバムのすべての曲はマイク・パットンがバンドに加入する前に書いたものですか?

マイクが加入する以前にすべての曲を書いたけど、歌詞とヴォーカル・メロディは彼が単独で書いたものだよ。

●バウハウスの「ベラ・ルゴシズ・デッド」をカヴァーしたのは誰のアイディアだったのですか?

ジャスティンのアイディアだよ。まず第一に素晴らしい曲だということがあるし、それに加えて、バンドを結成してすぐライヴを行うことが決まっていたのも理由だった。まだオリジナル曲が少なくて、ライヴではカヴァー曲を加える必要があったんだ。それで比較的長い「ベラ・ルゴシズ・デッド」をプレイすることにした。

●他にカヴァー曲の候補はありましたか?

いや、なかったな。

●デイヴはスレイヤーの『レイン・イン・ブラッド』(29分)、そしてデッド・クロスの『デッド・クロス』(28分)というきわめて短いエクストリーム・ミュージックの2枚の作品に参加してきましたが、両作の共通点、そして違いは何でしょうか?

どちらも同じような長さだけど、バンドも異なるし、俺のキャリアにおいてもまったく異なる時期に作られた作品だ。どちらのアルバムもエッジがあって斬新なサウンドという点では共通していたけど、それ以外は違うことばかりだよ。

●マイク・パットンはアルバムについて「あまりサウンドを洗練させたくない」とD.I.Y.な作風を好み、自宅でヴォーカルをレコーディングしたそうですが、それに対して第一線プロデューサーのロス・ロビンソンが関わっているのはある意味矛盾していないでしょうか?

パットンは自宅のホーム・スタジオでヴォーカルを録音したんだ。ロスはレコーディングとプロデュースを担当しているけど、すごく生々しいアプローチを取っていたし、矛盾はしないよ。ロスはマイケル・クレインとジャスティンを俺に紹介してくれたという点でもバンドに重要な貢献をしている。

●デッド・クロスで長期的な活動を期待できるでしょうか?

デッド・クロスがこれから何年も続いたら最高だと思う。ただ、今は現在に集中しているんだ。8月から9月に北米ツアーに専念しているよ。その後はメンバーそれぞれが忙しいし、スケジュールを調整するのが大変だけど、その後も続けていきたいね。

●デッド・クロスとしての新曲は書き始めていますか?

数回ソングライティング・セッションを行ったけど、それがどんな結果を生み出すか、まだ何とも言えないな。

●デッド・クロス以外では、どんな予定がありますか?

俺自身の予定としてはスイサイダル・テンデンシーズのツアーとレコーディングがあるし、ジョン・ゾーンとのショーも決まっている。ミスフィッツとのショーもやりたいと考えている。テレビや映画の音楽ももっとやりたいけど、さすがにキツイかな。

●デイヴはミスフィッツの再結成ツアーに参加しましたが、彼らのファンでしたか?

実はミスフィッツの音楽はほとんど知らなかったんだ。俺がパンクを聴くようになった頃、彼らは解散していたしね。彼らとプレイすることになったとき、意識して自分のスタイルを変える必要はなかった。彼らの音楽の魂に触れたことで同期化して、逸脱することなくプレイ出来たんだ。ミスフィッツみたいな歴史と伝統のあるバンドと共演するときは、敬意を持って、オリジナル・メンバー達に言われない限りオリジナルのアレンジを尊重するようにしている。ミスフィッツにはさまざまなドラマーが在籍してきたし、グレン・ダンジグが俺に声をかけてくれたことは名誉に感じた。ジェリー・オンリーとはすぐに打ち解けて、兄弟のように親しくなったよ。ドイルとも一緒にやって楽しかった。また一緒にやるのを楽しみにしているよ。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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