Yahoo!ニュース

あの子は大丈夫?夏休み明け、周りの大人たちができる虐待の兆候の見つけ方

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

長期休みは虐待リスクの高い期間

 夏休みなどの長期休みの期間は、親から子どもへの虐待がエスカレートするリスクの高い期間です。

 なぜなら、親が子どもと一緒に過ごす時間が長くなるためです。加えて、食事を作ったり、普段よりも手をかけなくてはならないため、親が子どもにいら立つ頻度が増えるといいます。普段から子どもを虐待している親は、子どもと一緒に過ごす時間が増える事で、子どもの些細な言動にいら立ち、暴力がエスカレートしたり、食事を抜いたり、一緒にいたくないから、と子どもを長時間家の外に出したりするのです。また、暴力がエスカレートし始めると、傷やあざの発覚を防ぐために、子どもを一切外に出さなくなる親もいます。

 

 児童相談所が児童虐待として関わっている家族については、長期休みの間、どの様に子どもの安全を確認するかを休み前に細かく決めておくのが原則です。児童相談所にも通ってもらい、子どもに休み中、どんな風に過ごしているのかを聞く、また学校にも、登校日でなくても、先生に個別に子どもを学校に呼んでもらう事もお願いします。こうした、外部の人間が子どもの安全を確認する機会を作っておくことが、親に対する抑止力になるのです。

長期休み明けの欠席は非常に危険!子ども達の変化に注視を

 しかし、児童相談所が関わっていない家庭や、こうした個別の面談の機会が作られていない家庭については、休み明け、先生達に子どもの様子に変化がないか、つまり虐待の兆候がないか、丁寧に見て欲しいのです。子ども達は、学校のない間、ずっと苦しんでいたかもしれません。

 長期休み明けの欠席は非常に危険です。親が、虐待による傷やあざを隠すために欠席させている可能性があります。風邪、高熱などの体調不良と親が連絡して来ても、家庭訪問をして、子どもの姿を確認する必要があります。

 

 また、子どもの変化として、休み前よりも急に痩せた、給食を大量に食べる、疲れているように見える、衣服が汚れている、家に帰りたがらない、など行動が見られた場合には、子どもから休み中の家庭での様子を丁寧に聞いてあげて欲しいのです。もちろん、虐待されている子どもは家庭での様子や親のことを話したがりません。ですが、「話したがらない」という事も、虐待を疑う理由の一つになります。

 加えて、先生達に知っておいて欲しいのは、子どもが「学校では元気で明るく過ごしている」ということは、「虐待がない」という根拠にはなりません。虐待されている子どもというのは学校が大好きです。学校では、いきなり怒られたり、叩かれたりすることもありませんし、食事を抜かれることもありません。虐待されている子どもにとって、学校は救いの場であり、唯一の居場所なのです。だから学校では一番のびのび過ごせるのです。

「学校で元気」≠「虐待がない」

 学校で元気で明るく過ごしている子どもの家庭での虐待を発見するのは簡単なことではありません。「教育虐待」という言葉は徐々に知られるようになってきていますが、親が子どもの成績を良くするため、受験のために、子どもが苦しんでいるのに、長時間厳しく、時には暴力を振るいながら勉強をさせるというのも虐待に該当します。この「教育虐待」の場合は、子どもは睡眠不足などはあっても、食事はきちんと摂っており、服装に乱れもない場合が多いのです。

 ですので、先生達は子どもの様子を注意して見るだけでなく、子ども達に「家の中で辛いことや苦しいことがあったら、先生に話して欲しい」と伝えてあげてください。虐待されている子ども達は、助けて欲しいと思っています。でも、先生に助けを求めたら、親に連絡されて、家に帰った後に親にもっとひどいことをされるのではないか、と不安を抱えているのです。また、先生に相談しても信じてもらえないかも、と思っている子どももいます。

 先生達が、子ども1人1人の話を丁寧に聞くのは難しいかもしれません。ですので、学校全体として、子どもから何かSOSがあったら、学校はどういう風に子どもを守るかを具体的に決めておき、子ども達にも、先生達が子どもをどういう風に守るかを、伝えておくことは意味があると思います。

 「先生達は、もしあなた達が家で叩かれたり、ひどいことを言われたり、ご飯を食べさせてもらえなかったり、外に出されるように、辛い、悲しい思いをしていたら、あなた達を必ず助けます。児童相談所という専門の人達に相談して、どうやったらあなた達を救えるか一緒に考えて、必ず助けるから、辛い思いをしている子は先生に話して下さい。」

 そう、子ども達に伝えておくことで、子ども達は、先生に相談しよう、と思えると思うのです。休み明け、子ども達は、ようやく救われたという思いで登校して来ているかもしれません。そんな子ども達に先生の言葉はきっと響くはずです。

ためらわずに児童相談所に通告を

 そして先生達は「虐待かな?」と思った時に、「でも、虐待じゃないかもしれない」「まだそんなに深刻じゃないかもしれない」、と迷わないで欲しいのです。親の行為が児童虐待に該当するか、程度は深刻か、保護が必要かどうかは、児童相談所という専門機関が判断します。だから、虐待が疑われた子どもについては、ためらわずに、児童相談所に通告してください。

 子どもに「助けたい」というメッセージを送ること、そしてためらわずに児童相談所に通告することが、虐待から子どもを救うことにつながるはずです。

 

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

山脇由貴子の最近の記事