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新型コロナウイルスによる一斉休校 〜留守番をする子どもの安全を守るために知っておきたいこと〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 2020年2月27日、安倍総理大臣から、全国すべての小・中・高等学校に対し、春休みまで休校にするよう要請があった。新型コロナウイルスの感染予防がその目的ということだが、それにしても唐突な要請である。保護者が就業等の理由で長時間にわたって不在の家庭に子ども達がいるという状況は、「子どもの傷害予防」という観点から見ると、危険な要素が増えると言わざるを得ない。本記事では、今回の一斉休校の主な対象となる就学後の子どもたちの傷害予防対策について述べてみたい。

子どもの留守番を評価する日本

 学童期の子どもをひとりで留守番させることは、傷害予防の面でも災害予防の面でも、そして防犯の面でも極めて危険である(参考記事:小学生の通学時における交通事故の予防〜通学路の「旗当番」について考える〜)。

 疫学的なデータはないが、保護者の不在時にライターで遊んでいてカーテンに火が燃え移り火災になる、遊んでいて高所から転落する、道路に飛び出して自動車と衝突するといった事例は多数見られる。日本では、子どもが「留守番ができる」ことを評価する傾向があるが、それは先進国では異例なことで、子どもの留守番は虐待(ネグレクト)と見なされることもあるのだ。

それでも留守番をさせなければならない場合は

 今回の突然の措置に動揺している方も多いのではないか。この事態にどう対処したらよいのだろう。今回は、主に小学校低学年の子どもを持つ保護者の方が、今できることを挙げてみたい。

交通事故を予防するために

自転車に乗るときはヘルメットを着用

 自転車に乗る場合は、ヘルメットを着用し、肘や膝を守るプロテクターを正しく使用する。

歩行中の事故

 7歳児が突出して多いことが知られている。事故は、自宅から100メートル以内が33%、500メートル以内が64%、1km以内が81%(2015年)とされている。自宅から1km以内の道路の状況を再確認する。

子どもの視野を確認する

 今回の措置は、基本的には「家の中にいる」ことを求めているが、実際には学童クラブ等が長期休業中と同じような時間帯で開設されている地域も多いことから、子どもがひとりで、または友人と一緒に、徒歩で通うというケースもあるだろう。登下校の時間が決まっていて、スクールゾーンも定められている通学時とは異なる環境下で子ども達が歩いているということを、自動車・自転車を運転する人や地域の住民にも知ってもらう必要があるが、同時に、子ども自身もひとりの歩行者としての安全行動を身につけなければならない。

 歩行中の安全についてはすでに各家庭でも十分に指導されていると思うが、あらためて子どもの視野について確認してほしい。一般に、おとなの視野は左右それぞれ100度程度と言われ、明るいところに立ち、目を動かさずに前方を見ると、はっきりとは見えないまでも、真横あたりまでの様子が目に入ってくる。しかし子どもの視野はおおむねおとなの60%程度と言われている。信号のない交差点に立ち、道路の向こう側に渡ろうとしていると仮定してみよう。おとなは左右から走ってくるクルマが視野に入るので、クルマが通り過ぎて安全を確認してから渡ることができる。しかし子どもは視野が狭いので、道路の向こう側しか見えない。一度左右を確認したとしても、視野が狭いために近づいてくるクルマが見えず、「大丈夫」と判断して道路を渡ってしまう。その行動は、「飛び出し」「不注意」に見えるので、保護者が「あぶない!右左をよく見なさい!」と子どもを叱ることになってしまう。

 子どもの視野を体験することができる「チャイルドビジョン」というツールがある。これは、4歳から6歳頃の幼児の視野を体験することができるもので、東京都のホームページから無料でダウンロードすることができる。チャイルドビジョンを組み立てたら、子どもの背の高さくらいまでしゃがみ、チャイルドビジョンを顔に当てて周囲を見回してみよう。その視野の狭さに驚くのではないだろうか。(ただし、チャイルドビジョンを使用した状態での屋外歩行や遊具の使用、また、お子さんに使用させることは危険を伴うので禁止)。

 

 子どもには、左右をよく見るだけでなく、自動車・自転車を運転する人の目を見て「わたしはここにいます」「これから渡ります」という意思を伝えるよう指導してほしい。運転する人と目が合い、クルマが停止したら、はじめて道路を渡ることができるということを繰り返し伝えてほしい。

火災、やけどを予防するために

電気ストーブや石油ストーブは使わない

 暖房器具のうち、電気ストーブや石油ストーブは、倒れた時、また、上から紙や衣類が落ちてきた時に引火して燃え上がることがある。子どもが慌ててタオルなどで火を消そうとして、火がタオルに燃え移ったり、カーテンに燃え移ったりすると火災につながる。子どもだけの時は、これらの暖房器具は使わず、エアコンや床暖房などを使用する。オイルヒーターも安全性という意味では良い製品だが重量があり、倒れた時に子どもの身体、特に手足の打撲や骨折といった事態になるので、他に安全な暖房器具がある場合は使わない方が良いだろう。

住宅用火災警報器の設置

 この機会に、設置されていることを確認し、電池が切れていないかをチェックする。

火を使わない、高温調理はしない

 子どもだけしかいないときは、ライターを使ったり、花火など火を使うことは禁止する。日頃から、お湯を沸かす、簡単な加熱調理をするといったことをしている子どもであっても、保護者が長時間家を空ける場合は、裸火を扱わない。食品を加熱する際は、極力電子レンジを使うようにしてほしい。

転落を予防するために

転落の危険がある場所には近づかない

 幼児の場合と違い、小学生の転落は、遊びの中で発生することが多い。高いところに登る、高いところから飛び降りる、または屋根から屋根に飛び移るといった遊びをしていて足を踏み外して転落するケースが見られる。保護者や子どもの努力だけでこれらを予防することは難しいが、一度子どもと一緒に自宅の内外を歩き、万が一転落した場合に重大な傷害を負うことが予想される箇所には「近づかない」ということを指導する。

食品による窒息を予防するために

食べている時は、遊ばない、急がない、ふざけない

 学童期の子どもの食品による窒息は、不適切な行動によって発生することが多い。食べ物を上に放り投げて口に入れる、早食いを競う、よく噛まずに飲み込む、食事の最中に椅子から飛び降りたり転がったりする、テレビや動画を見ながら食事をして驚いたり大声で笑ったりする−このような行動により、食べ物が喉に詰まって窒息状態になることがある。これらについては、なぜそのような行動が窒息という命の危険につながる事態になるのかを、保護者からきちんと説明する必要がある。

 

 下記は主に乳幼児の窒息を予防することを目的に作られた動画だが、メカニズムは学童でも同じなので、一度お子さんと一緒に見ることをおすすめする。

窒息事故から子どもを守る」政府インターネットテレビ

家具などの転倒を予防するために

家具は固定しておく

 大きな地震が起きた場合、また子どもがふざけて、あるいは意図せず強くぶつかって家具が倒れてくることがあるので、家具や大型テレビは壁に固定しておく必要がある。すでに対応している家庭が多いと思うが、今一度確認してほしい。

学童保育の場での事故を予防するために

 狭い空間に、年齢層が異なる就学児がたくさんいると、事故が起こりやすい。座り机で絵を描いていると、けんかしている子どもたちがなだれ込んできてぶつかる、「あっちに行ってよ」と振り上げた鉛筆が寄ってきた子どもの頬に刺さるなど、ふだんは起こらないような事故が発生する。このような事故を予防することは難しいが、今回のような感染症対策においては「濃厚接触」を避けることが有効なので、指導者には子ども同士が接触する機会を減らすような工夫をお願いしたい。

 以上、主に小学校低学年の子どもがやむを得ず留守番をすることになった場合や学童クラブ等に行く場合に想定される重大な傷害を予防するために知っておきたい情報を示した。十分な内容ではないが、参考にしていただければ幸いである。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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