「井手の里」にて名桜と歴史ロマン溢れる散策を
昨日、3月30日にソメイヨシノが満開となった京都。桜の名所が各地で賑わいを見せているが、今回はまだまだ知られざる京都府下の桜名所を紹介。
場所は井手町の玉川エリア。JR奈良線の玉水駅下車すぐに広がる玉川は、日本六玉川のひとつで、古来愛されてきた桜の名所だ。国道24号線から川の上流へ1.6キロの川沿いに、約500本のソメイヨシノがずらりと咲き競っている。
2022年の今年は、「井手町さくらまつり」が中止となったため、例年よりも人も少なくゆっくりお花見を楽しむことができるだろう。
上流から少し山手を歩くと出てくるのが、白鳳年間(672~685年)、橘諸兄により創建されたとされる曹洞宗の地蔵院だ。
参道には小野小町の墓もあり、南側の小山の中には、橘諸兄邸宅跡の石碑もあることから、この地域では、奈良時代から平安時代にかけて、文化の交流があったことがうかがえる。
小野小町の歌に、「色も香もなつかしきかな蛙鳴く井手のわたりの山吹の花」という句があり、『冷泉家記』に「小町69歳井手寺において死す」、『百人一首抄』にも「小野小町のおはりける所は山城の井手の里なりとなん」と記されている。
井手町では桜とともに、小町の歌にも歌われていた、「山吹」の復興にも取り組んでいる。
さて、今回の散策のハイライトと言っていい、地蔵院のしだれ桜は、円山公園のしだれ桜の先代の姉妹株であり、樹齢が約300年にも達する古木である。少々樹勢は落ちたとの話もあるが、見た感じは今年も堂々たる開花を見せてくれた。
ぜひ様々な角度から枝ぶりを楽しんでほしい。また寺院の裏側には墓地があるが、このエリアにもたくさんの桜が植えられている。
地蔵院の麓には井手寺跡もあり、奈良時代に聖武天皇の政権下で権勢を誇った橘諸兄の創建した寺院の跡地として整備されている。
玉川、地蔵院のしだれ桜とともに、橘諸兄や小野小町といった歴史上名を成した人物たちゆかりの井手の里、ぜひこの時期に訪ねてみてほしい。