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「木造は弱い」常識は古い! 脱炭素で注目される木造マンションの実力と可能性

山本久美子住宅ジャーナリスト
5階建ての木造賃貸マンション「MOCXION](筆者撮影)

マンションと言えば、鉄筋コンクリート(RC)造。そう思う人が多いことでしょう。ところが、最近は木造のマンションやビルが増えているのです。見学した木造賃貸マンションを事例に、木造マンションの実力のほどを見ていきましょう。

■木はコンクリートより熱を伝えず、引っ張りや圧縮にも強い!?

たき火のイメージからでしょうか、燃えやすく折れやすい木は“弱い”というイメージを持たれがちです。ところが、木は建築材料としては、意外な実力の持ち主なのです。

まず、木は熱電度率が低い=熱を伝えにくいという性質を持っています。その断熱性はコンクリートの約10倍、鉄の約500倍で、断熱材に匹敵するほどです。

また、木は軽くて強いという性質もあります。鉄筋コンクリートは、引っ張りに強い鉄と圧縮に強いコンクリートの特徴を組み合わせた性質がありますが、重量があるので自身の重さが負荷をかけます。これに対して木は軽いので、重量を考慮した強度(比強度)で見ると、鉄の約4倍引っ張りに強く、コンクリートの約6倍圧縮に強い建築材料ということになります。

耐火性が最も気になる点ですが、木は燃えた部分が炭化層となり、酸素供給を阻むことで燃え進みにくくなります。表面は燃えても構造となる木は燃えない、という方法が可能です。

手前の「ふかし壁」が燃えても中心の構造壁は燃えない仕組みに(MOCXIONのサンプルを筆者が撮影)
手前の「ふかし壁」が燃えても中心の構造壁は燃えない仕組みに(MOCXIONのサンプルを筆者が撮影)

いずれも、技術開発によって、耐火性や耐久性、強度を引き上げる建材ができるようになっています。イメージよりも、木は強い建築材料なのです。

■木造マンション「MOCXION(モクシオン)」を見学

実際に竣工して入居者を募集している、木造マンション「MOCXION」を見学しました。このマンションの特徴は、鉄骨やRCと木材を併用した「ハイブリッド構造」ではなく、ハウスメーカーである三井ホームが、注文住宅のツーバイフォー工法で培った技術を活用した、木製パネルで建物を支える「壁式構造」であることです。

実際にマンションを見てみると、外観やエントランスなどでところどころに木を使って、木造マンションであることをアピールしていますが、部屋の中に入るとRC造りのマンションと変わりはありません。

MOCXIONの室内(最上階住戸を筆者が撮影)
MOCXIONの室内(最上階住戸を筆者が撮影)

建物の強度は、高強度耐力壁「MOCX wall(モクスウォール)」を開発したことがカギになっています。この耐力壁を、先端をスクリュー型にして釘頭を大きくした、揺れても引き抜きづらい釘(NX釘)で施工することで、少ない壁でも建物の強度を確保できるようしています。こうした技術開発によって、工期の短縮やコストの低減が図れるといいます。

高強度耐力壁「MOCX wall」。上部に置かれた青い釘(緑の釘が通常のもの)がスクリュー加工されたNX釘(MOCXIONのサンプルを筆者が撮影)
高強度耐力壁「MOCX wall」。上部に置かれた青い釘(緑の釘が通常のもの)がスクリュー加工されたNX釘(MOCXIONのサンプルを筆者が撮影)

また、見学時には、隣戸や上階から音がどう聞こえるかの実験もありました。

隣の住戸のテレビの音がどの程度聞こえるかを実験中(筆者撮影)
隣の住戸のテレビの音がどの程度聞こえるかを実験中(筆者撮影)

隣接する住戸の部屋の大音量のテレビ(ボリューム70)の音は聞こえず、上階の歩く音もほとんど聞こえないことを実際に体験しました。これは、制振パッドや吊り天井根太などで高い遮音性を実現した床、構造壁と切り離した自立壁による隣戸との境になる壁などの技術によるものです。

こうした最新技術を使うことで、住宅性能表示制度(統一された指標で住宅の性能を表示する制度)で「劣化対策等級」「断熱等性能等級」「一次エネルギー消費量等級」で最高ランクを取得しています。劣化対策等級の最高等級3は、建物を適切に維持管理すれば75~90年の耐久性があるということです。

この5階建てのマンションは、1階のみRC造、2階~5階が木造でできています。実は、すべて木造で建てることもできますが、コスト面から1階をRC造にしたのだそうです。というのも、建築基準法では「最上階から4階以内」は「1時間耐火構造」に、「最上階から5階以下」は「2時間耐火構造」にすると定められています。5階建ての場合、5階~2階は1時間耐火、1階は2時間耐火となり、1階を木造で2時間耐火にするよりもRCのほうがコストはかからなかったため、経済合理性で判断したということです。

こうして完成した木造マンションは、RC造のマンションと性能面で遜色はありませんし、コスト面でも、RC造で建てたら1割ほど高くなっただろうというように、低コストで建てることができています。マンションはRC造に限らず、木造で建てるという選択肢が広がっているわけです。

■脱炭素で注目される木造マンション

三井ホームが木造マンションに着目した理由は、「脱炭素」によって地球環境に配慮することです。木は鉄やコンクリートに比べて、製造時や加工時、建物建設時に必要とされるエネルギーが少なく、CO2の排出量が削減できるなど、脱炭素への効果が大きいといわれています。

政府も公共建築物の木造化を進めたり、「木造先導プロジェクト」に補助金を出すなどして、住宅や建築物の木造化を支援しています。技術開発が進むことで、中高層の木造の建物がますます建てやすくなっていくでしょう。

こうした状況を受けて、SUUMOなどのポータルサイトでは、木造賃貸住宅は“アパート”としか表記できなかったものを、「木造・軽量鉄骨造で、(1)3階建て以上の賃貸共同住宅、(2)住宅性能表示制度の劣化対策等級で3等級(最高ランク)」など、一定の条件を満たす場合に“マンション”として表記できるようにルールを変更しました。

住む人の意識も木造への関心が高まっています。「MOCXION」で来場者にアンケートを取ったところ、来場理由で1位だったのは、稲城駅から徒歩4分といった「立地」でしたが、2位は「木造のマンションに興味があったから」で約2割の人が回答したそうです。

三井ホームによると、木造マンションには、木材の確保や施工監理などの人材育成といった乗り越えなければならない課題も多いということですが、これから木造マンションへの関心が高まっていきそうです。

住宅ジャーナリスト

早稲田大学卒業。リクルートにて、「週刊住宅情報」「都心に住む」などの副編集長を歴任。現在は、住宅メディアへの執筆やセミナーなどの講演にて活躍中。「SUUMOジャーナル」「東洋経済オンライン」「ビジネスジャーナル」などのサイトで連載記事を執筆。宅地建物取引士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナー等の資格を持つ。江戸文化(歌舞伎・落語・浮世絵)をこよなく愛する。

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