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ロンドンマラソン上位独占! ナイキの“新厚底シューズ”が鮮烈デビュー

山口一臣THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)
ロンドンマラソン2019で優勝したエリウド・キプチョゲ選手のゴールシーン

「走るたびに優勝」がもう5年も続いている!

 もはや手がつけられないというのは、こういうことを言うのだろう。ケニアのエリウド・キプチョゲ選手(34)のことだ。4月28日のロンドンマラソンで“また”優勝したのだ。しかもタイムは2時間2分37秒という、自らが持つ世界記録に次ぐ世界2位の記録である。キプチョゲ選手にとってロンドンマラソンはこれで4年連続の優勝! マラソン自体は2014年04月のロッテルダムマラソン以来、なんと10連勝! 走るたびに優勝というパターンがもう5年も続いているのだ。まずは、同選手の過去の戦績を振り返ってみよう。

2013年05月 ハンブルグマラソン(2:05:30)優勝

2013年09月 ベルリンマラソン(2:04:05)2位

2014年04月 ロッテルダムマラソン(2:05:00)優勝

2014年10月 シカゴマラソン(2:04:11)優勝

2015年04月 ロンドンマラソン(2:04:42)優勝

2015月09月 ベルリンマラソン(2:04:00)優勝

2016年04月 ロンドンマラソン(2:03:05)優勝

2016年08月 リオデジャネイロオリンピック(2:08:44)優勝

2017年09月 ベルリンマラソン(2:03:32)優勝

2018年04月 ロンドンマラソン(2:04:17)優勝

2018年09月 ベルリンマラソン(2:01:39)優勝 ☆世界記録

2019年04月 ロンドンマラソン(2:02:37)優勝

見るだに美しいキプチョゲ選手のランニングフォーム@ロンドンマラソン
見るだに美しいキプチョゲ選手のランニングフォーム@ロンドンマラソン

 要は、2013年のベルリンマラソン以外はすべて優勝なのである(!)。筆者は昨年11月に来日したキプチョゲ選手にインタビューする機会を得た。強さの秘密は、決められた練習計画をストイックにこなすことだと言っていた。年に2回ピークをもっていくようにメニューを組み立てる。ここ数年は4月のロンドンと9月のベルリンがターゲットレースになっている。上のリストを見ればお判りいただけるが、その言葉どおり、きっちりすべてで優勝している。まさに、有言実行なのである。

(参考記事)“世界最速の長距離ランナー”キプチョゲ選手の練習方法が非常に参考になる

男子も女子もナイキの“厚底”一色だった

 そしてもうひとつ、「手がつけられない」ことになっているのが、一昨年の発売以来、マラソン界を席巻し続けているナイキの“厚底シューズ”である。ランナーの常識を覆すことで結果を出し続けてきたナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%についてはたびたび記事にしているが、このロンドンマラソンは実は、大会3日前に発表されたばかりの同シューズの後継である「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」のデビュー戦でもあったのだ。

(参考記事)マラソン界の常識を覆した革命的シューズ「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%」の実力

(参考記事)東京マラソン2019上位エリート選手の7割がナイキの“厚底シューズ”を履いていた!

レースの3日前に公式発表されたナイキの新兵器、ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%。鮮やかなライトグリーが特徴だ
レースの3日前に公式発表されたナイキの新兵器、ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%。鮮やかなライトグリーが特徴だ

 結果は、優勝したキプチョゲ選手以下、なんと男子の上位5人の選手全員がこの“新厚底シューズ”を着用しているということになった。それだけではない。女子の優勝選手は“旧厚底”のヴェイパーフライ4%を、2位、3位の選手は“新厚底”のヴェイパーフライ ネクスト%を履いていた。男女とも、まさにナイキの“厚底”で上位独占だったのだ。

男子の上位選手すべてがナイキの“新厚底”を履いていた!
男子の上位選手すべてがナイキの“新厚底”を履いていた!

【男子着用シューズ】

1位 エリウド・キプチョゲ(2:02:37) ◎

2位 モジネット・ゲレメウ(2:02:55) ◎

3位 Mule Wasihun(2:03:16) ◎

4位 トラ・シュラ・キタタ(2:05:01) ◎

5位 モー・ファラ―(2:05:39) ◎

【女子着用シューズ】

1位 ブリジッド・コスゲイ(2:18:20) 〇

2位 ビビアン・チェルイヨット(2:20:14) ◎

3位 ロザ・デレジェ(2:20:51) ◎

◎=新厚底、〇=旧厚底

女子の足元にもライトグリーンの“新厚底”がしっかり目立つ
女子の足元にもライトグリーンの“新厚底”がしっかり目立つ

コースレコードや自己ベストを次々と更新

 このうち、キプチョゲ選手は自身が持つロンドンマラソンでのコースレコード(2016年)を28秒短縮し、2位のゲレメウ選手は1分5秒、3位のWasihun選手は1分21秒も自己ベストを更新した。このクラスの選手が1分以上も自己ベストを更新するというのは並大抵のことではない。やはり、ナイキの“新厚底”が威力を発揮したということか。

 いずれにしても、4月25日の世界同時発表→27日のデビュー戦というナイキのプロモーションは、またしても大成功してしまったわけだ。まさに「手がつけられない」状況だ。このまま一強が続くのか? 他のメーカーの奮起に期待したいところではある。

 さてそんなわけで、ナイキの回し者(笑)としても、この“新厚底”について解説しておかなければなるまい。まず押さえておきたいのは、この“厚底シリーズ”はもともとキプチョゲ選手のために開発されたものだということだ。それまで上級ランナーのシューズは軽さを追求するため、“薄底”が常識だったが、キプチョゲ選手らから「クッショニングを重視した、脚への負担が少ないシューズが欲しい」という要望を受け、“厚底”への転換が構想された。

“新厚底”はソールの厚さがさらに増した

 ナイキは「軽さ」と「クッション性」を両立させるため、ミッドソールに航空宇宙産業で使う特殊素材に由来するフォーム(ズームX)を採用する。さらに、「推進力」をつけるため、特殊素材の間に反発力のあるスプーン状のカーボンプレートを挟み込んだ。フォアフット(前足部)で着地すると、このカーボンプレートがググっと屈曲して、元に戻ろうとする力が脚を前へ推し進め、「シューズが勝手に走ってくれる」という感覚が生まれる。これが“速さ”の秘密である。

(参考記事)記録を伸ばす革命的シューズ「ヴェイパーフライ4%」 ナイキが明かした「厚底」の秘密

“新厚底”はこの基本テクノロジーはそのままに、ミッドソールをさらに厚くした。前足部で4ミリ、ヒール部で1ミリ、フォームの量をアップし、ミッドソール全体を15%増量させた。その結果、オフセット(ヒール部と前足部のソールの厚さの差)が11ミリから8ミリに抑えられ、“旧厚底”に比べて「加速力、推進力が増し、着地から足が地面を離れるまでのスピードがアップした」(開発担当者)という。ここがいちばんの大きな違いだ。

“旧厚底”からさまざまな部分がアップデートされ、進化している
“旧厚底”からさまざまな部分がアップデートされ、進化している

ランニング効率は5%以上アップの例も!

 ソールが厚くなって重さを増した分、アッパーの軽量化によってシューズ全体の重量は変わっていない。“旧厚底”で人気だったフライニット素材は水分を含みやすい欠点があった。昨年のボストンマラソンのレース中に雨でシューズが重くなったというアスリートからのフィードバックを受けて素材を替えた。これによって水分吸収率が7%改善されたという。また、一昨年のベルリンマラソンで雨の中を走ったキプチョゲ選手のリクエストに応えて、よりグリップ力の強いトランクションパターン(靴底のデザイン)に一新された。

 モー・ファラ―選手の強い希望で足の繊細な部分への圧迫を防ぐために、シューレース(靴ひも)を中心から少しずらした位置に配置するなど、細かい改善点・進化点は他にもいろいろあるようだ。

シューレースが中心部より微妙にずらしてあるのがわかる
シューレースが中心部より微妙にずらしてあるのがわかる

 ヴェイパーフライ4%は、それまでナイキで最速だった「ズームストリーク6」と比較してランニング効率が4%アップしているという意味で命名された。フルマラソンを同じタイムで走ると約4%少ないエネルギーで走り切れることが実証されている。“新厚底”は発表前、マニアの間では「5%」になるのではないかと噂されていたが、結局、数字は入っていない。

「パフォーマンスがアップしているのは事実ですが、アスリートによって5%以上という結果が出たり、4%台に留まっていたりなので、数字を入れることはふさわしくないと判断しました。過去と比べるのではなく、未来へ向かうという意味で“ネクスト%”になった」(開発担当者)のだという。

 耐久性については、「200マイル~250マイルを推奨していますが、250マイルを超えてもエネルギーリターン(反発力)はあまり落ちない」(開発担当者)という。250マイルは約400キロだ。レース用の“一張羅”と考えれば、十分だろう。日本での発売は7月、価格は2万9700円(税込み)の予定だという。ロンドンマラソンの上位独占で、またもや人気沸騰することだろう。

ゴールシーンの全景。足元にはしっかり“新厚底”が輝いていた(写真はすべてナイキ提供)
ゴールシーンの全景。足元にはしっかり“新厚底”が輝いていた(写真はすべてナイキ提供)
THE POWER NEWS代表(ジャーナリスト)

1961年東京生まれ。ランナー&ゴルファー(フルマラソンの自己ベストは3時間41分19秒)。早稲田大学第一文学部卒、週刊ゴルフダイジェスト記者を経て朝日新聞社へ中途入社。週刊朝日記者として9.11テロを、同誌編集長として3.11大震災を取材する。週刊誌歴約30年。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。2016年11月末で朝日新聞社を退職し、東京・新橋で株式会社POWER NEWSを起業。政治、経済、事件、ランニングのほか、最近は新技術や技術系ベンチャーの取材にハマっている。ほか、公益社団法人日本ジャーナリスト協会運営委員、宣伝会議「編集ライター養成講座」専任講師など。

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