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タリバン幹部に日本から独占インタビュー 「われわれはアフガニスタン国民から支持を得ている」

山田敏弘国際情勢アナリスト/国際ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

8月15日、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが、アフガニスタンの全土が「支配下に入った」と声明を発表した。そしてタリバンの共同創設者のアブドゥル・ガニ・バラダル師が大統領宮殿に入ったと報じられ、タリバン側によれば、数日以内にアシュラフ・ガニ大統領を辞任させた上で政権移行が行われるという。

これまでタリバンは、カタールの首都ドーハでアフガン政府と交渉を続けていた。タリバン上層部は、アフガニスタンの政権のことを「カブール政権」と呼んでいる。

今年、アフガニスタンの情勢が大きく動いたのは、アメリカのジョー・バイデン大統領が、アフガニスタンから米軍とNATO部隊の完全撤退を発表した4月。以降、タリバンが攻勢を始め、瞬く間に、ほぼ全土を手中に収めた。

そして先日から、米政府はカブールの米大使館から米国人の国外退避を始めた。大使館が支配されることを恐れ、内部にある機密情報もすべて廃棄する指示を出していた。すでにカブールが陥落するのは時間の問題だった。

筆者が先日話を聞いた米専門家は、アフガニスタンの治安当局や軍は、米軍がいなければタリバンとは戦えないと見ていた。

事実、米軍撤退が進むにつれ、アフガン政府はタリバンの攻勢に太刀打ちできなくなり、政府側の部隊は戦う意欲すらなくなっていった。多くのアフガン部隊員は敵前逃亡し、戦うことすらしなかったし、タリバンに加わる者もいた。

そんなことから、どんどん国土を支配された。この米専門家は「タリバン政権が復活したら国際テロ組織アルカイダも復活するだろう」と指摘する。

タリバン側は米軍などを侵略者と見ており、20年にわたって彼らを追い出すために戦ってきた。そして米軍が国を去る以上、それ自体がタリバンの勝利であり、8月いっぱいで米軍がいなくなれば、アフガニスタンの紛争は国内問題となる。米軍が戻ってくることがない以上、あとはタリバンの思うままになるだろう。

また、これからアフガニスタンに入っている米軍関係者などは侵略者とみなされ、自爆テロなどで攻撃にさらされると見られている。米軍に裏切られたと見るアフガン部隊の関係者らもこれからますます反米になっていくはずだ。そもそも、20年も戦って勝てなかったタリバンと戦うために米軍が再びアフガニスタンに戻るのは今のところ考えにくい。

長期的に見れば、アフガニスタンにはテロリストが戻ってくると見る向きもある。ある元米情報機関幹部は少し前の筆者との会話で、「アメリカの敗北を祝うために世界中のテロ集団が集まる可能性もあるでしょう」と言っていた。

筆者は先日から、カタールでアフガン政府と交渉を続けていたタリバン側に接触し、タリバンの関係者に独自取材を行っていた。そしてタリバン幹部への単独インタビューを行うことに成功した。

タリバンのアフガン政府との交渉チームのメンバーであるスハイル・シャヒーン氏は、筆者のインタビューにこう語る。

「われわれとカブール政権との交渉は続けられている。平和的な合意や解決を目指して交渉を行っている」

筆者が、「とはいえ、タリバンは暴力によって領土を支配している」と聞くと、「いや、暴力行為は私たちも望んでいない。それはわれわれの方針ではない。平和的な合意を求めてドーハで交渉しているのだ。私たちは約10年前の2013年にここドーハに政治部門のオフィスを開設した。平和的な解決ができる場合のみ、合意にいたるだろう」と言う。

そしてそもそも、米軍が去ることになって、カブール政権がタリバンの支配地域を攻撃し始めたことが今回の混乱の始まりだとも主張した。

彼らはアフガニスタンをどんな国にしたいのだろうか。そう問うと、シャヒーン氏はこう言った。

「私たちはすべてのアフガニスタン国民に政府と関与してもらいたい。皆が参加できる政府にしたい。アフガニスタン政府に全ての国民を受け入れてもらいたい」

さらに筆者は、アフガン国民がタリバンのことをどう見ていると思うのか、と聞いた。

「私たちはアフガン国民から支持を得ている。アフガニスタンの国民から支持を得ることなく、20年間も米兵やNATO部隊と戦い続けることができるはずがない」

シャヒーン氏は、米軍など侵入者たちから自由を得るために戦ってきたことが国民のためだったと強調した。「何十万というわれわれの同胞の命が自由を得るために犠牲になった」

もうひとつ、シャヒーン氏はアフガンの女性の権利についても言及し、「女子の教育、女性の仕事も当然、保障する。今も何も変わらない」と述べている。

インタビューはさらに続いたが、アフガニスタンの情勢が大きく動いたため、第一報として、インタビューの一部をお送りした。

続報とインタビューの続きは今後お届けしていく予定である。

国際情勢アナリスト/国際ジャーナリスト

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。 *連絡先:official.yamada.toshihiro@gmail.com

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