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山に生えているキノコを食べないで!

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
ドクツルタケ:毒を持っているか見た目にはわからない(写真:yamaoyaji/アフロイメージマート)

行楽シーズンの注意

残暑厳しいですね。暦の上では既に秋のはずなのですが…。これから涼しくなることを願うばかりです。

さて、秋といえば行楽シーズンです。コロナリスクを低くするためにも、3密が避けられるハイキングに出かけたり、山でキノコ狩りをしたりと、いろいろ計画を立てている人も多いでしょうか。以前、山でキノコ狩りをした一家が毒キノコに当たって、一家揃って嘔吐下痢で救急搬送されてきたことがありました。毒キノコなんてスーパーマリオでしか聞いたことない人もいるかもしれません。でも、自然界にいくらでも存在する意外とありふれたものです。厚生労働省の「過去のキノコを原因とする食中毒発生状況」によると、毎年50~100名程の患者がおり、死亡例の報告もあります。日本全国で毒キノコによる中毒の報告がありますが、特に報告が多いのは長野県、東北地方、北海道など、野生のキノコを食べる習慣が盛んな地域です。そして患者数が多いのは圧倒的に9月から11月です。多くの人がキノコ狩りに出かけるからでしょう。

厚生労働省HPより 毒キノコへの注意喚起
厚生労働省HPより 毒キノコへの注意喚起

中毒症状

きのこ毒による中毒は、その作用別に消化器障害型、神経障害型、原形質毒性型の3つに分類されます。

消化器障害型

食べて数十分から数時間程度で嘔吐下痢や倦怠感などの症状を呈します。主にツキヨタケ、クサウラベニタケの2種類で、これらできのこ中毒の半分ほどを占めるとされます。

神経障害型

副交感神経刺激、副交感神経麻痺、幻覚作用など、様々なタイプのものがあります。特に幻覚作用のあるものは、マジックマッシュルームとして有名になりました。

原形質毒性型

この仲間は特に致死率が高い毒です。ドクツルタケなどに含まれるアマニタトキシンが代表格です。節食から半日までに激しい嘔吐と腹痛、下痢が生じ、数日後に肝障害や腎障害を起こし、死に至ります。火を通しても毒素が分解されないので、加熱調理してもダメです。

医師も困るキノコ毒

僕も残念ながらキノコ博士ではありませんので、写真を見せられて「これ毒キノコかもしれないんですけど」なんて言われても、困ってしまいます。同じ種類のものでも、地域や季節で外観が異なる場合もあります。携帯電話でタイトル画像にあるドクツルタケらしき写真を見せられても、それがドクツルタケかどうかわかりません。ごめんなさい。我々としては、最悪なキノコを食べてしまったものと想定して治療にあたり、都度生じる症状に対して対応していくしかありません。嘔吐下痢だったら点滴治療を行い、腎臓が悪くなるようであれば透析も視野に入れながら治療を行うことになります。キノコ毒に対しては特効薬みたいなものはありませんから、毒性成分の特定はあまり意味を為しません。また、何種類かのキノコを食べていたら、毒性成分の特定も困難になります。

お願い

山で採ってきた食材を食べた後に体調が悪くなったなら、ぜひその旨をお伝えください。キノコが原因になるかもしれませんし、キノコ以外にも毒性を持つ植物はたくさんあります。例えば、先日岡山県ではニンニクと間違えて自家栽培のスイセンの球根を食べて食中毒になったというニュースがありました(ニラと間違えて葉を食べられることも多いです)。毎年多くの方が救急搬送されており、毒キノコとその他有毒植物を合わせ、平成18年から27年までの10年間では、患者数2,453名、死者13名と報告されております。

厚生労働省のホームページでは、有毒植物による食中毒について、食用と確実に判断できない植物は、絶対に採らない、食べない、売らない、人にあげないようにしましょうと啓発しています。厳密に言えばキノコは植物ではありませんが、キノコも同じです。食べて大丈夫なキノコを教えてくださいと言われても困難ですので、とって食べないでくださいとしかお願いができません。ぜひ、健康的で楽しい秋にしてください。

参考文献

山浦由郎. 日本における最近のキノコ中毒発生状況. 中毒研究. 2013 26:39-43

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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