『平和をまとった紳士たち』(1)ファッションで非戦思想を貫くサプールのメッセージ

(写真:茶野邦雄)

平均月収3万円といわれるコンゴ共和国で、生活を切りつめて手に入れた月給の数ヶ月分にもなる高級ブランドスーツに身を包んで街を練り歩き、帽子・ステッキ・パイプなどの小道具を使って優雅にポーズを決める「サプール」。最近では写真家の“SAP CHANO”こと茶野邦雄氏の写真集『THE SAPEUR コンゴで出会った世界一おしゃれなジェントルマン』と大丸松坂屋百貨店で開催予定のサプール写真展『平和をまとった紳士たち』が話題を呼んでいる。今、注目が集まりつつある彼らのファッションと思想について取材した。

●平和を纏ったジェントルマン

(写真:茶野邦雄)
(写真:茶野邦雄)

サプール(SAPEUR)は、独特のファッションと思想を持った人々を指す言葉で、フランス語の「Societe des ambianceurs et des personnes elegantes」の頭文字を取ったものだ。日本においては「おしゃれで優雅な紳士協会」と訳されて紹介されることが多い。日本においても室町時代の「ばさら」や戦国以降の「かぶき」など華美なファッションで反骨精神を表す文化があったが、サプールとは大きく異なる。サプールはとにかく「非戦」「非暴力」の思想なのだ。大切な服を着ていれば、喧嘩はしない。格好良ければ注目されるから、それに見合った振る舞いをする。だから、おしゃれは平和に直結するというのだ。

(写真:茶野邦雄)
(写真:茶野邦雄)

そんな平和的でお洒落な紳士をコンゴ人達は尊敬し、子どもたちの憧れになる。娯楽の少ないコンゴの子どもにとって、サプールは近所のヒーローだ。だからこそ、ファッションだけでなく、思想や立ち居振る舞いまで厳しい規律ができる。しかし大事なのは、その規律を楽しんで守っていることだ。長い植民地支配や内戦を経験したコンゴでは、好きな色を着ることや奇抜なファッションは「自由」の象徴でもある。その自由を守るために当然、相手のことも尊重する。サプールの思想に嫉妬はない。もしセレモニーなどにただ目立ちたいだけの偽物サプールが紛れ込んでいても争ったり排除したりしない。子どもたちに見せたい姿を体現する。まさに生き様で教育をしているのだ。

●内戦と貧困の中で培われた非戦メッセージ

(写真:茶野邦雄)
(写真:茶野邦雄)

サプールの歴史はまだ90年ほどだが、すでに二代、三代と受け継がれているサプールもいる。サプール歴が長く、皆から尊敬を集めるサプールは「大サプール」と呼ばれる。写真集をきっかけに茶野氏と親交を深めた大サプールのセヴラン氏は、度々来日してサプールの思想を日本にも広めたいと意気込む。

1997年に勃発した内戦時、略奪を恐れたセヴラン氏は、逃げ惑う人々を尻目に庭に穴を掘り、お気に入りのスーツや靴、ベルトをシーツに包んで埋めた。すぐに戻れると思っていたセヴラン氏だったが、戻ることができたのは1年以上経ってからだった。ボロボロに朽ちてしまった洋服やアイテムを掘り起こしながら、平和を守り、人道的・経済的・物質的に何も残すことのない戦争には絶対に反対するという、サプールの使命を再確認したという。

「軍靴を響かせて行進するのではなく、ブランドスーツを着て軽やかにステップを踏むことこそ、平和の尊さ、サプールの喜びなのです」

●大丸の心意気

大丸の創業は1717年(享保2年)にさかのぼる。「先義後利」という荀子の言葉を理念に据えた大丸は「日本一の呉服商」に成長、1837年(天保8年)の大塩平八郎の乱では、豪商が軒並み襲われる中、「大丸は義商なり、犯すなかれ」と焼き討ちを免れたという。長年社会性を重んじ、日本で初めて海外デザイナー(クリスチャン・ディオール)と独占契約をするなど国際的な活動を果たしてきた大丸が、ファッションによる「平和の使者」であるサプールを日本に紹介する意義は大きい。

(写真:茶野邦雄)
(写真:茶野邦雄)

大丸は今までも『戦争展』や『次世代へのメッセージ 平山郁夫展』など、平和を訴える取り組みに力を入れてきたが、自らの出自であるファッションと平和をダイレクトに結びつけたイベントは例を見ない。ファッションの哲学に「平和」が加わることで、その歴史はますます物語性を帯びてくる。創業300周年を迎える大丸が記念企画として開催するのがサプール写真展『平和をまとった紳士たち』。この企画は茶野氏の写真を中心に、アンバサダーとしてファッションデザイナーのドン小西氏、トークセッションにはアフリカを中心に活動する写真家ヨシダナギ氏が参画、ゲストとしてセヴラン氏も来日予定だという。9月7日から9月18日までの大丸心斎橋店を皮切りに、9月13日から名古屋松坂屋、9月28日から大丸東京店、10月18日から大丸札幌店を巡回する。ファッションを平和の文脈で語り楽しむことをトレンドにできるか、期待が高まる。

■関連リンク

サプール写真展『平和をまとった紳士たち』オフィシャルサイト