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祝日に休めない労働者たち-19年5月の10連休案との関係で

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 政府では、2019年5月1日の新天皇即位に際して、同日を祝日とした上、現行の国民の祝日に関する法律3条3項の規定「その前日及び翌日が「国民の祝日」である日(「国民の祝日」でない日に限る。)は、休日とする。」を利用して、10連休とする案が浮上しているようです。それにより、新天皇の即位を祝おうとするものです。

 現在、同法により、4月29日(昭和の日)、5月3日(憲法記念日)が祝日と定められています。従って、5月1日を臨時の祝日とする特例法を定めれば、祝日の谷間の平日である4月30日(火)、5月2日(木)を休日とすることができるのです。一方、平成元年の例に倣い、5月1日を特例の休日とした場合は、上記3条3項が適用されないので、4月29日、5月2日は通常どおりの平日となります。

19年即位時、「10連休」に…政府が検討 読売新聞 12/6(水) 6:39配信

労働基準法での休日の定め方

 労働基準法では、使用者は労働者に対して週1回の法定休日を与えなければなりません(週休制の原則 労基法35条)。しかし、この休日が日曜日である必要はなく、一週間の間のどこかの曜日に休日を与えればよいのです。例えばサービス業で月曜日などが定休日になっている業種はその日が週休日となっている例が多いと思います。

 一方、労働基準法は週40時間労働制・一日8時間労働制の原則を定めています。一日8時間労働すると、週40時間の枠が5日で一杯となるため、法定休日を除いた残りの1日が法定外休日(所定休日)となります。

 現在、日本で週休二日制が広く導入されているのは、労働基準法における休日の定めに由来しているのではなく、同法の労働時間の上限に由来している訳です。なので、「一日の労働時間は6時間40分で、週6日が労働日(休日は週1日だけ)」という労働契約も、労働基準法違反にはなりません。

国民の祝日と労基法の休日は関係がない

 しかし、ここで問題となるのは、国民の祝日に関する法律に定められた「祝日」=「休日」と、労働基準法に定められた「休日」の関係です。実際、例えばゴールデンウィークに遊びに行ったとき、各所で働いている労働者は沢山おられます。結論を述べると、労働基準法35条と国民の祝日に関する法律は、両方が「休日」という言葉を用いていますが、相互に関係のない法律用語で、祝日=労働基準法の休日ではありません。

 実際は、祝日には官公署や金融機関が休みとなりますが、銀行が休みになるのは銀行法15条で「銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る。」とされているところ、同法施行令5条で、土曜日、国民の祝日に関する法律で定められた祝日=休日、12月31日~1月3日が銀行の休日とされているからです。官公署が休日なので、公立学校が休みになり、公務員に準じる形で労働条件が定められている労働者(かなり多数に上ります)も休日となり、国民全体として、休日の雰囲気になる訳です。

休日にならない人も沢山いる

 しかし、我が国で労働者の労働基準の最低限を画するのはあくまで労働基準法であり、同法と国民の祝日に関する法律が無関係である以上、週1日の法定休日を上回る休日は、あくまで労働者が勝ち取った権利なのです。具体的には、労働契約書や、会社の就業規則における休日の条項に「国民の祝日に関する法律で休日と定められた日」と書かれている場合や、そういう運用実態がある場合に、はじめて労働者の権利として「祝日」が本当の意味での休日となるのです。

 この点、実際には国民の祝日も関係なく労働日とされ、それについて代休もない事業所は多数あります。ハローワーク求人で、年間の休日数が105日前後以下となっている事業所です。いわゆるブラック企業といわれる企業の多くもその水準であることが多いです(ブラック企業ではその休日すら休めないことが多い)。1年間は365日であり、これは52週間と1日です。なので祝日を一切無視して週休二日制を貫くと105日前後の休日となるのです。

 一方、週休二日制に加え、公務員並みに祝日や年末年始が休みとなる事業所では、年間の休日数が120日前後となります(年により異なる)。祝日が休み(代休も含む)になるかは、ハローワーク求人票や労働者の募集広告における文字での記載に加え、この休日数の数字で見分けることができるのです。

 このような事業所で働いている労働者にとっては、祝日はかえって迷惑な存在になり得ます。例えば、接客業やそれに関連する業種の場合、普段より客数が増え重労働となる上、子どもの保育園や学校は休みとなるので、家族の面倒までみなければならないのです。

 (2017.12.6追記)さらに書くと、特に非正規労働者は、賃金形態が時給制や日給制である場合も多いので、勤務先の事業所(の正社員)が有給で祝日=休日となる場合でも、祝日が無給の休日になってしまい、大型連休=大減収になってしまう場合もあります。

有給休暇制度の拡充が重要

 新天皇の即位を国民で祝うのは重要ですが、このように、祝日に休めずに埋没し、あるいは無給で大型連休に放り出されてしまう労働者が多数いるのでは元も子もないように思えます。そして、そのことと関わらず、現状を改善する仕組みの整備が不可欠であるように感じます。方法はあり、有給休暇制度の拡充、有給休暇を取りにくい原因となる病休制度の拡充、使用者に対する有給休暇付与義務の導入などが重要です(労働者に権利を与えるだけでなく使用者にそれを与える義務を罰則つきで課してしまうのです)。実は、政府の「働き方改革」で有給休暇の付与義務の一部導入が検討されていますが、非常に不十分なものになっています。労働者がゆっくり休養できる環境作りは過労死防止、家庭生活の安定、景気刺激のためにも、急務であると考えます。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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