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【加計学園問題】安倍首相の「再調査を指示するフリ」

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
国会で発言する安倍首相(写真:つのだよしお/アフロ)

学校法人加計学園(岡山理科大学)の愛媛県今治市への獣医学部新設をめぐる問題で、内閣府職員の発言として「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと記された文書が文部科学省内部で作成されていたことが最初に報道されてからすでに3週間ほどが経過し、その後、前川喜平・前文部科学事務次官がそれらの文書を「本物」と証言しました。ところが、読売新聞が5月22日、“独自の取材”に基づいて、前川氏が「出会い系バー」に通っていたという、本件と何の関係で何の意味があるのか分からない個人攻撃をし、その後、特に因果関係はないですが、読売新聞がオーナーとなっている球団が13連敗するほどの時間が経過しています。

この間、当然あったと思われる、この内部文書について、菅官房長官(政府)は、繰り返し、「確認できない」「信憑性がない」「出所不明」「文科省が適切に対応」などと言い続け、一方で、松野文科大臣は最近は、「文書が出所不明だから再調査しない」などと意味不明の発言を繰り返してきました。

しかし、ここ数日、国民世論の不信感を背景に、文科省の現役官僚が次々に内部文書の存在を証言し始め、菅官房長官の記者会見でも、米国ばり(というと言いすぎかもしれませんが)に、記者が舌鋒鋭い追及を始めたこともあり、ついに安倍政権は追い込まれて、再調査に至りました。ご丁寧に安倍首相から松野文科大臣に「徹底した調査を速やかに実施するように」という指示があり、それにより再調査する、という発表すらされたようです(バズフィード2017.6.9「【速報】加計学園「総理のご意向」文書、文科省が再調査へ 安倍首相は「徹底した調査を速やかに」と指示」)。

再調査は時間を掛けてするまでもない

しかし、政府が文科省の内部文書の存在を「確認できない」と言った後、文科省の官僚が上司に、内部文書は存在する旨報告した、と報道されており、内部文書の存在について言えば、再調査は今日(6月9日)の午前中には完了できるレベルでしょう。週末を挟む必要はないと思われます。

内閣府は再調査しない

そして、一方で、今日の午前中、以下のような報道がされました。

山本幸三地方創生担当相は9日の記者会見で、学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り「総理の意向」などと記載された文書に関し、国家戦略特区を担当する内閣府としては再調査しない意向を示した。「担当者に聞いて、全くそういうことはないと確認している」と述べた。

出典:内閣府は再調査せず 共同通信6月9日

安倍首相は、文科大臣に対しては、ご丁寧に事実関係の再調査を指示したのに、なお、ご丁寧に、内閣府には再調査を指示しなかったことになります。

核心に迫るために必要なこと

本件で問題となっているのは、安倍首相が規制緩和に名を借りて「腹心の友」に不当ないし違法な便宜を図ったのではないか、ということです。一方、文科省の内部文書や、前川喜平氏の証言は、この問題との関係では以下の意義があるように思われます。

画像

この図の(1)が証拠によって裏付けられた事実となり、かつ、政府自らが「日本再興戦略改訂2015」で掲げた獣医学部設置のための4要件が満たされないまま、安倍首相が議長を務める国家戦略特区諮問会議において、獣医学部の新設が認められたことになれば、安倍首相が不当ないし違法な便宜を図ったこと(安倍首相の言葉を使えば「働きかけた」)になる可能性が大きくなります。なお、そのこととは別に、現状でも、安倍首相には利益相反の問題があり、仮に違法性はなかったとしても、「腹心の友」が関わるプロジェクトを検討する政府の会議に議長として関わるべきではなかった、というそもそもの問題があります。

結局、今日(6月9日)の午前中の段階の安倍首相の指示は、「(3)については再調査するけど、(2)は再調査しないし、(4)については言及しませんよ」ということなのです。これでは「再調査を指示するフリ」をしているとしか評価し得ないし、安倍政権が、集団的に国民を欺いていることにならないでしょうか。

政府が(2)、(4)の事実について、第三者を入れた再調査を早急にすべきだし、国民に対して、獣医学部新設のための4要件をどのように満たしたのかも証明しなければならないでしょう。菅官房長官は(2)について、事実はない、と記者会見で繰り返し述べていますが、(3)について、客観的に虚偽の可能性が高い発言を、某球団が13連敗するほどの期間し続けた菅官房長官の発言など、もはや、紙くずほどの価値もないでしょう。

昨日、米国では、トランプ大統領によって解任された前FBIの長官が議会で証言し、トランプ大統領の、捜査妨害にあたる可能性がある発言があったことを証言しました。筆者は政権の中枢にいる官僚が現職の大統領の不正を証言する報道に接し、「これこそが民主主義である」と感銘を受けました。本件でも、上記(2)(4)の有無を証明するために必要なのは証言です。なお、言うまでもないですが、証言(特に偽証罪の制裁のあるもとでの証言)は、立派な証拠です。我が国も、前川喜平・前文部科学次官、当時の文科省高等教育課の内部文書起案者、和泉洋人・首相補佐官、藤原豊・内閣府審議官、木曽功・内閣参与(加計学園理事)らの証人喚問を実施し、図で「間接証拠」「推認」となっている部分や4要件具備の有無について、直接、証言をして頂く必要があります。直ちに実施すべきでしょう。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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