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マスクがコンビニにいつも並ぶ時が品薄解消

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト
マスク(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの日本での感染者が確認されてから、およそ5カ月が経った。6月に入った現在も、我々のもっとも身近な小売業といえるコンビニでは、店頭にマスクが並んでいることは少ない。偶然見かけることはあっても、常時陳列とはほど遠い状況であるといえよう。

 マスクはあるところには、ある。街を行けば、個人が経営する洋品店や、時には飲食店の店先で積まれたマスクを見かけることがある。その大半は日本の有名メーカーの製造ではなく、中国製の箱入りマスクであることが多い。5月頃から出回っていたこうした中国製マスクは、もう値下げが始まっている。

東京・新大久保は、中国製マスクの取り扱いが早くから行われてきたエリアだ。韓流ショップが並ぶその土地柄、中国から輸入できるルートを確立している店が多いのだろう。私が定期的に視察に訪れて確認したところでは、4月半ばまでは50枚入りの価格が3000〜3500円前後だった。それが今では1400円代まで値下がりしている。韓流エリアとはまた別の、通称「イスラム横丁」ではなんと900円で販売されているものもあった。

イスラム横丁マスク販売の様子(筆者撮影)
イスラム横丁マスク販売の様子(筆者撮影)

◆マスクの質は…

 すべてを同一に論じるつもりはないが、こうしたマスクは、コロナ禍まで製造していなかったメーカーが新規参入で作っている場合が多い。品質面には不安が残る。具体的には、

・BFE(バクテリアろ過率試験)3・0um

・VFE(生体ウイルス遮断効率試験)0・1~5・0um

・PFE(ラテックス微粒子遮断効率試験)0・1um

の三大品質基準がクリアされていない、もしくは日本衛生工業連合会の「全国マスク工業会マーク」が付いていない商品が多い。マスク不足がいわれた当初こそ、消費者は不安心理からこうしたマスクに手を伸ばしたが、やがてモノを見る目も厳しくなり、マスクは売れなくなった。基準がクリアされていないので、大手小売業でも採用されない。結果、在庫過剰となって日に日に価格が下がり、現状は薄利での販売が常態化するまでになってしまった、というわけだ。

◆新大久保のコンビニになら…?

 では「マスク余剰」となっている新大久保であれば、他のエリアと違い、コンビニでもマスクが売られているのではないかーーそんな仮説を立て、6月10日、JRの新大久保駅東口から明治通りまでにのある大手コンビニ7店舗をチェックしてみた。

 駅から通りまではおよそ750メートル。自粛期間が明けたことで、街そのものは以前の視察時より活気を取り戻しつつあった。マスクを取り扱う韓流ショップもいくつかあるが、やはり皆、素通りしていく。

 結論からいうと、コンビニでマスクが売られていたケースは、「ファミリーマート新大久保1丁目店」の「ベストフィットマスク50枚入り」2500円と「ミニストップ新大久保店」の「不織布三層マスク5枚入り」350円のみだった。いずれもコロナ禍前にはコンビニで取り扱われていなかったメーカーの商品である。ミニストップのマスクは本部推奨ではなく店舗の独自判断で、採用されたマスクと推察される。依然として、ユニチャーム、アイリスオーヤマ、玉川衛材、興和の大手メーカーや各コンビニのPB商品など、品質基準をきちんとクリアした商品の品薄は解消されていないことが分かる。

新大久保コンビニ購買商品 (筆者撮影)
新大久保コンビニ購買商品 (筆者撮影)

コンビニの大手3社の全国店舗数は、セブン-イレブンが約2万1000店、ファミリーマートが約1万6600店、ローソンが約1万4400店あり、小売業の中でもコンビニは圧倒的な存在感を示す。それゆえに、全店舗に安定供給を行うのが難しく、消費者にしてみれば最も身近なコンビニにモノがないと「品薄」を強く感じることになる。

マスクと合わせてコロナ禍の品不足が指摘されたトイレットペーパーがまさにそうだった。3月初めのパニック購買騒動は記憶に新しいが、この時も普段トイレットペーパーのあるコンビニに「ない」のを見て、消費者は焦りを募らせ、騒動を加速させた側面がある。そして収束後、4月上旬頃にはドラッグストアなどの店頭にトイレットペーパーが並んでいたのに対し、コンビニには入荷されるようになったのは、遅れること4月下旬になってからだった。これを見ても安定供給の難しさがお分りいただけるのではないか。

マスクに限らず、品薄の舞台装置になりがちなコンビニ。コンビニに常に商品が並ぶようになって初めて、本当の意味で「品薄」が解消されたといえるだろう。指標のひとつになりうる。

◆状況は改善しつつある

 もちろん、コンビニ側の企業努力も無視してはならない。関係者に聞くと、大手コンビニの場合、品薄が言われ出して以降も、週に2〜3回は各大手メーカーの商品が累計5〜10個程度、納品されていたという。だが入荷後に即完売してしまうため、多くの消費者は「マスク品薄のお詫び」の貼り紙のある空棚しか見なかったのではないだろうか。また、幅広いお客さまに少しでも目に触れるよう、納品回数を週1回に絞り込み、20個以上を納品するように切り替えたチェーンもある。

現在、品薄のピーク時に比べ、メーカーから各コンビニへの納品数は1.2倍程度となっている。各店舗の完売スピードも徐々ではあるが遅くなっているようだ。国内のマスク生産数も、昨年の「年間約11億枚」から「月産8億枚」まで増加している。金融相場のごとき「マスクバブル」の主原因となった原材料・メルトブロー不織布の価格も値下がりしてきたとの中国報道もある。マスクが足りない状況そのものも解消されつつあるのは間違いない。

筆者は洗って使えるためアベノマスクを2日に1回利用している。首都圏の電車内では、アベノマスクはあまり見かけないものの、約10〜20%が使い捨てマスク以外を使用しているように見受けられる。夏に向け何度でも洗える布マスクも発売が相次いでおり、布マスクの着用率があがり、コロナ第2波が来なければ、使い捨てのマスクがコンビニに並ぶ日も近いかもしれない。そんな日が早く来ることを切に願う。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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