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紛争地の性暴力、伝わらないのは資源の必要国のマスコミが報じないからでは?

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
ノーベル平和賞授与が決まったコンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師(写真:Shutterstock/アフロ)

 富山県立山町在住のアフリカ文学研究者・村田はるせさん(55)は毎月1回、富山市中心部のイベントスペースで「クスクス読書会」という勉強会を主宰し、アフリカ文学や絵本を通じてアフリカの現状を紹介している。ノーベル平和賞受賞者が発表された10月5日も、読書会は開催されていた。偶然にも、取り上げていたのは、コンゴ民主共和国(以下、コンゴと表記)で性暴力被害者のケアを続けてきたデニ・ムクウェゲ医師(63)。武装勢力や兵士による性暴力被害、コンゴの現状などは、日本にはなかなか伝わってきていない。ムクウェゲ医師のこれまでの功績とは? 数年前からフランス語圏のメディアを通じて、同医師の活動を、追ってきた村田さんに聞いた。

村田さんは全国各地でアフリカの現状を文学や絵本、映画などを通じて紹介している(筆者撮影)
村田さんは全国各地でアフリカの現状を文学や絵本、映画などを通じて紹介している(筆者撮影)

紛争地での性暴力とは?

 ――過激派組織「イスラム国」(IS)の性暴力を告発したイラクの宗教的少数派ヤジディー教徒、ナディア・ムラドさん(25)とともに、ムクウェゲ医師へのノーベル平和賞授与が決まりました。この方の活動に、以前から注目しておられたそうですね。

 内戦下のコンゴ東部で被害者女性のために病院を創設し、コンゴで起きている武装勢力や兵士による性暴力被害の惨状を訴えてきました。2008年には国連人権賞を受賞しています。数年前からフランス語圏のニュースなどを読んでいて、「こんな人がいるんだ」と関心を抱き、その活動に関する情報を集めてきました。

 ――性暴力被害といっても、アフリカの詳細な現状は日本には伝わってきていません。どんなことが起こっているのでしょうか?

 コンゴはもともと、ベルギーの植民地でした。レアメタルの産地である東部エリアは「宝の山」と言われています。この地域では資源を奪い合う紛争が絶えず、ずっと混乱の中にあり、危険なのでジャーナリストもなかなか入って行けない。もちろん、私も行ったことはありません。そこに住む女性は、組織的な性暴力の被害にさらされていると報じられてきました。

テロリズムとしての性暴力

 多くの国で性暴力被害はあります。日本でも。暴力的な手段で性的欲求を満たそうとする行為は罪深いですが、コンゴではテロリズムとして行われている。性器に銃弾が撃ち込まれたり、膣と肛門がつながるほど切り裂かれたり……。紛争地では女性が性暴力によって命まで奪われたり、妊娠・出産できない体になるまでに痛めつけられたり、エイズウイルス(HIV)の感染が広がったりしています。被害を受けた女性はもちろん、その家族の苦しみも計り知れないものです。

 武装勢力は、資源のある土地に住む人々に、肉体的・精神的に徹底したダメージを与えてコミュニティーごと追い出してしまう。そんな争いが続いています。コンゴではこれまで、数十万人以上の女性が性暴力被害を受けたと言われています。

 また、アフリカではもともと、レイプの被害者女性が泣き寝入りせざるを得ない状況もある。性的暴行を受け、生き延びることができたとしても、差別されたり、さげすまれたりして生きていかねばなりません。

この夏開催された本に関する催しで、自身が翻訳したアフリカの絵本について話す村田さん(筆者撮影)
この夏開催された本に関する催しで、自身が翻訳したアフリカの絵本について話す村田さん(筆者撮影)

アフリカの女性を理解したい

 ――村田さんは青年海外協力隊員としてニジェールにいたころ、同僚であるアフリカ人女性の考えや行動を深く理解することができなかったため、その心情を知りたいと文学を研究するようになったそうですね。

 ニジェールの女性は、夫の都合で離婚されたり、シングルマザーになったりと、いろんな問題を抱えていました。アフリカの児童文学を研究していると、紛争に巻き込まれる少年兵や少女の物語もあります。母子が安心して生活を営み、子どもが学んだり、遊んだりしながら伸び伸びと成長していく環境とは、ほど遠い国も少なくない。紛争が続くコンゴ東部もそうだと思います。

 ――クスクス読書会ではムクウェゲ医師に関する報道や、活動を描いたドキュメンタリー映画『女を修復する男』(ティエリー・ミシェル監督、2015年製作)を紹介してくださいました。作品についてどんな感想をお持ちですか?

 ムクウェゲ医師は4万人以上の性暴力被害女性の治療をしてきました。暗殺の危機にさらされ、一時は家族とともにヨーロッパへ逃れましたが、1人で戻ってきてケアに当たっている。ムクウェゲ医師の「大変な目に遭った女性が手術を受けて目を覚ましたとき、真っ先に子どもの心配をする姿に心打たれる」という言葉には深く共感します。

探さなければ分からない事実

 ――ムクウェゲ医師とムラドさんのノーベル平和賞授与が決まったことにより、紛争地の性暴力被害という問題がクローズアップされていますね。

 ムクウェゲ医師の存在は、探さなければ分からない情報から知り得た事実でした。どうしてでしょうか? 紛争の火種となっているレアメタルは、液晶テレビやパソコン、自動車などの製造に不可欠な素材です。だから、「先進国とその国のマスコミは、都合の悪いことに目をつぶって報じないのではないか」と考えずにはいられません。

 また、紛争地を取材するジャーナリストは多くが男性でしょうから、婦人科の病院を訪ね、女性の生殖器の治療について立ち入ったことは聞きにくい。性暴力被害女性が置かれた現状を知る機会は、これまで、ほとんどなかったといえるでしょう。

「携帯電話などの製品を作るために不可欠な鉱物を巡って、コンゴでは多くの人が命を失っている。レイプがコストの安い『戦争の武器』として使われている」と危機を訴え続けてきたムクウェゲ医師の言葉に、しっかりと耳を傾ける時期が来ていると思います。

    ◇       ◇

 村田さんは10月7日に日本を出発し、25日まで西アフリカのベナンを訪問するとのこと。今後もアフリカのさまざまな現状について、実際に目にしたことや、現地のマスコミが報じる情報を、私達に伝えてくれることを願っている。

アフリカについて紹介する村田さん(筆者撮影)
アフリカについて紹介する村田さん(筆者撮影)

 村田 るせ(むらた・はるせ) 千葉県出身。富山県立山町在住。95年から2年間、青年海外協力隊でニジェールに派遣され、保育士として働いた。帰国後、富山大や東京外国語大大学院でアフリカ文学を専攻、同大地域文化研究科博士後期課程修了。主に西アフリカのフランス語圏の絵本を紹介する活動を続けている。コートジボワール出身の作家・ヴェロニク・タジョさんの絵本『アヤンダ おおきくなりたくなかった おんなのこ』(ベルトラン・デュボア絵、風濤社)を翻訳、出版した。「クスクス読書会」主宰。

※村田さんについては、こんな記事も書いています。

コートジボワールの作家の絵本を翻訳した富山在住・村田さん アフリカ文学への思いとは?

・日本語版

https://news.yahoo.co.jp/byline/wakabayashitomoko/20180502-00084721/

・英語版

https://yjcorpbyline.tumblr.com/post/178905934938/murata-a-resident-of-toyama-translated-a-picture

※映画『女を修理する男』予告編

https://www.youtube.com/watch?v=HNkuhVkbZ1A

※村田はるせさんの活動を紹介するウェブサイト

http://ehonmurata.septidi.com/aboutme#container

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・Webメディアで執筆。ニュースサイトは医療者向けの「m3.com」、動物愛護の「sippo」、「東洋経済オンライン」、「AERA dot.」など。広報誌「里親だより」(全国里親会発行)の編集にも携わる。富山を拠点に各地へ出かけ、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療・介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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