日本一高額な2700万円の霊柩車 富山の会社がベントレーを改造
「ベントレーの霊柩車、仕上がりました。ぜひ見に来てください」。葬儀用車両製造会社・カワキタ(富山)の河村賢整社長(60)から今年の2月上旬、連絡をいただいた。英国の高級車ベントレーの主力車種「フライングスパー」をもとに造ったという。価格は車体そのものが2000万円で、改造費が700万円の計2700万円。全国霊柩自動車協会に確認したところ、「バブルの時代にはあったでしょうが、ここ十数年では最高額」とのこと。「日本一ゴージャスな霊柩車」は、どのようにして造られたのか?
カワキタでは、ベンツ、クライスラー、ボルボ、クラウンなどあらゆる車種を改造して霊柩車にしている。エンジンや各種機器は、もとの自動車の部品をそのまま生かす。例えばプリウスは、車体を真っ二つに切って、長さ2.1メートルの棺が入るように前後に伸ばして鉄板を補い、塗装した後、上部に革をはるなどして装飾する。もとの車両の特徴と、葬儀業者の要望をすり合わせ、好みの形に改造して仕上げるので、ほぼオーダーメイドとなる。これまでは2016年に手掛けたレクサスが1650万円で最高額だった。
ベントレーの場合は、後部座席とトランクの上のルーフを切断し、後部座席を除いて棺が入るスペース(棺室)を設けた。ルーフをかぶせた後、テストをして安全性を確認する。走行テストをパスしたら、外側を塗装して装飾、必要な機器を取り付けて内装を整え、約3か月かけて完成となる。
社長に「本当に切るんですか?」
高級車を解体することから始まる霊柩車造り。万が一、切断で失敗すれば大きな損失となる。2000万円のベントレーにカッターを当てた心境はどうだったのだろうか? 車体班長の長田晃さん(42)に聞いてみた。
「いつも通りやりました。あまり深く考えると、切れなくなっちゃうので……。思わず社長に『本当に切るんですか?』と聞いてしまいました。すると、『俺が責任を取る』と。とはいえ、声が震えていました」
最終的な完成形は頭の中にある。どこをどう切るかを見極めるのが改造のポイントだ。長田さんは富山県内の高校を卒業後、岐阜県内の短大に進み、整備士の資格を取得した。就職したのは大手自動車メーカーのディーラーで、13年間にわたって車検やメカニック整備を担当した。その後3年間、町工場で輸入車の電装を手掛け、CADを学ぶために職業訓練校にも通った。自動車の改造に必要な工程を多角的に学んだ経験が、霊柩車造りに生かされている。
車体に磁石を当て鉄の部分を確認
長田さんによると、近年の高級車はアルミ素材が多く用いられている。しかし、改造を施すのに適しているのは鉄素材が使われている部分である。アルミは切断するのも、切断した後の処理も難しく、特殊な技術と機材が必要となる。ベントレーもアルミ素材が多く使われているため、車体のいろいろな部分に磁石を当てて鉄が使われている箇所を確認してから作業に入った。
切断した車両をつなげて、走行に耐える自動車を再構築するのだから、高い安全性が求められる。改造した後、走行テストを行い、国が求める強度を備えているかどうかを、厳重にチェックする。
ちなみに、破格の霊柩車をオーダーしたのは葬儀業者・熊木式典(埼玉)の熊木雄太郎社長(45)である。ベントレーを選んだ理由を聞いてみると、「以前はクライスラー300Cを改造した霊柩車を使っていて、よく『ベントレーですか?』と言われたので、次はこれにしようと思いました」とのこと。大きなモデルチェンジがなく、長年にわたって使い続けても古びた印象を与えないことが決め手らしい。
「霊柩車が日本一高額であることに、こだわっているわけではありません。私たちは『日本一の葬儀屋』を目指しており、霊柩車も真心を込めたサービスの一環に過ぎません。ベントレーをお願いするにあたり、葬儀用車両製造会社は全国にあるので、何社かに打診しましたが尻込みされました。そんな中、カワキタがチャレンジに名乗りを挙げてくれたのです」
こだわりの葬儀屋・熊木式典の要望に応えて、葬儀用車両製造会社・カワキタもこだわりの技術を発揮したというわけだ。
高級志向、利便性などニーズはさまざま
近年は家族葬が普及し、葬儀は小規模化が進んでいる。一方で、「終活」をする高齢者や遺族の要望は多様化し、葬儀業者もそれに応えようと努めている。必然的に、葬儀用車両も多彩になった。かつて一般的だった「宮型」の霊柩車は減少し、リムジン型が主流に。色は黒だけでなく今回のベントレーのような白やシルバーも人気を集めている。ワゴンを改造した搬送車や、親族とご遺体を一緒に搬送するバス型の霊柩車も普及してきた。高級志向、利便性など霊柩車へのニーズはさまざまである。
「日本一ゴージャスな霊柩車」も選択肢の一つ。人生の終わりに、こだわりの技術が詰まった最高級車・ベントレーの乗り心地を確かめてみてはいかがだろうか?
※写真/カワキタ提供、長田さんのみ筆者撮影
※「カワキタ」のホームページ