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【男子マラソン日本記録保持者】鈴木健吾、社会人3年目に飛躍を遂げた理由とは!?

和田悟志フリーランスライター
社会人3年目に日本記録を樹立した鈴木(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 今シーズンのロードレースシーズンも一区切り。

 2021年に創設されたジャパンマラソンチャンピオンシップシリーズ(以下、JMCシリーズ)も全ての対象大会を終え、昨年12月に結婚した鈴木健吾(富士通)、一山麻緒(ワコール→資生堂)夫妻がそろって男女の初代チャンピオンに輝いた。

 そして、夫婦共に、7月に開催されるオレゴン 2022 世界陸上競技選手権大会の日本代表にも決定した。

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 昨年3月のびわ湖毎日マラソンで2時間4分56秒の日本記録を樹立した鈴木健吾は、今年3月の東京マラソンでも、本調子ではないなか快走を披露。自身の日本記録に次ぐ、日本歴代2位のパフォーマンスとなる2時間5分28秒で走った。

 鈴木のこれまでのマラソンの戦績は以下の通り。

  • ①2時間10分21秒(2018年2月25日/東京マラソン19位)神奈川大4年時
  • ー DNS    (2019年3月3日/東京マラソン)社会人1年目
  • ②2時間11分36秒(2019年4月28日/ハンブルクマラソン13位)社会人2年目
  • ③2時間12分44秒(2019年9月15日/MGC7位)社会人2年目
  • ④2時間10分37秒(2020年3月8日/びわ湖毎日マラソン12位)社会人2年目
  • ⑤2時間4分56秒 (2021年2月28日/びわ湖毎日マラソン1位)社会人3年目
  • ⑥2時間8分50秒 (2021年10月10日/シカゴマラソン4位)社会人4年目
  • ⑦2時間5分28秒(2022年3月6日/東京マラソン4位)社会人4年目

 神奈川大学時代にはチームの大黒柱として活躍。箱根駅伝ではエース区間の2区で区間賞を獲得し、全日本大学駅伝では20年ぶりの優勝の立役者となった。

 ロードで抜群の強さを誇っていた鈴木は大学4年時に初マラソンに挑み、当時の学生歴代7位の好タイムをマークし、将来に期待を抱かせた。

 そんな鈴木も、社会人1年目はケガに苦しんだ。

 それでも、社会人2年目は、東京オリンピックの日本代表選考レースであるマラソングランドチャンピオンシップ(以下、MGC)の出場権をギリギリで獲得すると、MGC本番でも37km過ぎて先頭に立つなど見せ場を作った。

 五輪の切符には届かなかったものの、大器の片鱗は覗かせていた。

2019年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、終盤に見せ場を作った
2019年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、終盤に見せ場を作った写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 しかし、記録の面では、なかなか2時間10分を突破できず、鈴木自身、壁を感じたこともあった。

 MGCの次戦、マラソン4レースとなった2020年のびわ湖毎日マラソンは2時間10分37秒と、またもサブ10(2時間10分切り)はならず、初マラソンの自己記録さえも上回ることができなかった。

「何かを変えないと、マラソンで勝負していけない。やっぱり体が小さい分、筋力を鍛えていかないと、42キロという距離を走り切ることができない。ということで、スタッフやトレーナーの方に協力してもらいながら、自分に必要なウエイトトレーニングを考えてもらいました。

 上半身の肩周りだったり、お尻周りや前腿の周りだったり、全体的に強化していきました。

 マラソンを始めてから、ケガがちょっと多くなっているので、筋力の強化をしっかりしてパワーアップしていかないといけないと思っています」

 その成果について、鈴木は「まだ全然ものにできていない」と言うが、社会人2年目までと3年目以降のマラソンの記録を見れば明らかだろう。2時間10分の壁を破るどころか、一気に日本記録保持者にまで成長を遂げたのだから。

「マラソンっていう競技は、毎日の積み重ねの先に大きな結果があるのだと思っています。いきなり大きな結果が出るものではないと思うので、これからも毎日コツコツと積み上げていきたいと思っています」

 鈴木は言葉数が多いほうではない。だからこそ、その一言一言は、鈴木のこれまでの日々を思わせる重みがある。

厚底シューズも武器に

 さらに、体幹トレーニングや筋力トレーニングを行ってきたことで、鈴木はカーボンプレートを搭載した厚底シューズをしっかりと自分の武器にしている。

 鈴木が愛用しているのは、ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト% フライニットというシューズ。前足部にZoom Airユニットというテクノロジーが搭載されており、いっそう反発力に優れている。

 ちなみに、妻の一山も、鈴木と共に出場した東京マラソンで同シューズを履いて走った。

東京マラソンでも着用したナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト% フライニットを手にする鈴木(写真提供NIKE)
東京マラソンでも着用したナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト% フライニットを手にする鈴木(写真提供NIKE)

「すごく反発をもらえて、うまくキックできると、自分の走りに馴染む。自分の走りにフィットしている感覚があります」

 と、鈴木はこのシューズの印象を話す。

「ただ、反発をもらえる分、(足元を)コントロールすることも大事。そういう意味でも、筋力を強化することは必要だと思います。

 まずはシューズを履き慣らすことが一番大切。履いていくうちに、自分に何が必要か、体が分かってくる。それを、筋力トレーニングやジョギングで補っていけばいいと思います」

 練習ではレースと異なるシューズを履くことも、バランスよく鍛えるには大事だという。

「厚底のアルファフライだけでは鍛える部位が偏ってしまうので、少し薄いシューズだったり、ちょっと固めのシューズだったり、シューズを使い分ける必要がある」

 弱点を克服するのも、優れたギアを自分のものにするのも、まずは自分自身を知ることから。

 伸び悩んだ時期に自分自身と向き合い、必要なものを選択したことが社会人3年目の飛躍につながった。

※東京マラソン前後の記者会見、3月11日に行われたグループインタビューを基に構成しました。

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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