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「自分の中の常識を覆すことができた」女子1500mの田中が五輪初挑戦で8位入賞の快挙

和田悟志フリーランスライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

出場自体が快挙だったが、8位入賞を果たす

 8月6日夜、女子1500m決勝で田中希実(豊田織機TC)が8位入賞の快挙をなし遂げた。

 女子1500mがオリンピックで実施されるようになったのは1972年のミュンヘン大会からだったが、この種目に日本人が出場すること自体、田中と卜部蘭(積水化学)が初めて。五輪出場自体が快挙だが、田中は予選、準決勝と勝ち上がり、決勝のスタートラインに立った。

 しかも、田中は1500mで自らの日本記録を予選、準決勝と立て続けに更新し、4日の準決勝では史上初の3分台(3分59秒19)に突入。今年7月に樹立した日本記録(4分04秒08)をこの五輪期間で5秒も更新した。

 1500m決勝は、予選、準決勝までと同様に積極的にレースを進めると、ラスト500mまでは先頭集団に食らいつき、8位入賞を果たした。日本の女子選手がトラック種目で入賞したのは、1996年のアトランタ大会以来のことだった。

 記録も、再度の日本記録更新はならなかったものの、準決勝に続き3分台をマークした。

 そんな快挙を成し遂げたのにもかかわらず、レース後、田中がインタビューで最初に口にしたのが、今回の反省と次回への課題だった。

「予選、準決勝ほどラストが動かなかった。自分にとってハイペースで入った分、そこをもっと楽に入れたら勝負できるんじゃないかと思いました」

 喜びももちろん口にしたが、決して浮かれることなく、田中は次を見据えていた。

決勝でも世界の強豪相手に終盤まで食らいついた
決勝でも世界の強豪相手に終盤まで食らいついた写真:ロイター/アフロ

ハードなスケジュールをこなす準備を進めてきた

 この決勝のレースが、田中にとってオリンピック4レース目。

7月30日に5000m予選、8月2日に1500m予選、4日に1500m準決勝、6日に1500m決勝と、ほぼ1日おきにレースがあり、フル稼働だった。

 オランダのシファン・ハッサンのように、1500m、5000mに加え、7日夜の10000mと3種目に出場する“超”が付くほどタフな選手もいるが、田中もなかなかのタフぶりだ。

 もし5000m予選を突破していたら、8月2日は、モーニングセッションで1500m予選、イブニングセッションで5000m決勝と、朝も夜もレースに臨んでいたはずだったが、こんなハードなスケジュールをこなすつもりで、田中は準備を進めてきていた。

 今年6月の日本選手権では、800m、1500m、5000mの3種目に出場したが、これも東京オリンピックを見据えてのこと。大会最終日には、800m決勝を走った40分後に、5000mに出場するという離れ業もやってのけた。しかも、1500mは優勝、800mと5000mは3位と、きっちりと結果も残している。

 また、今年に入ってからはとにかくレースに出まくった。特に3月中旬から5月中旬にかけては毎週のように試合を転戦。ほとんどの週末は、土曜、日曜と2日連続でレースに臨んでいた。

 こんな取り組みができたのも、昨年12月の日本選手権でひとまず5000mの五輪切符を手にしていたからだが、田中は疲労を抱えながらも、“昨年度の自分を超える”をテーマに自らを追い込み、五輪の準備を進めてきた。

女子中長距離で日本勢が力を発揮した

 今回の東京オリンピックは、田中のみならず、女子中長距離での日本勢の奮闘が印象的だ。

 6日までに行われた女子中長距離種目には、1500mに田中、卜部、5000mに田中、廣中璃梨佳(日本郵政グループ)、萩谷楓(エディオン)が出場したが、なんと全員が自己記録をマークしている。

 秋冬の好条件が整った記録会ならともかく、蒸し暑い真夏の東京で、なおかつ、五輪という大舞台において、だ。

 また、記録だけでなく、1500mで田中が8位入賞したほか、5000mでも廣中が決勝に進み9位と、これまでなかなか戦えずにいた種目で結果を残した。廣中もまた、5000m決勝で、福士加代子(ワコール)の記録を16年ぶりに塗り替え14分52秒84の日本記録を樹立している。

 メダル獲得のような大きなトピックではないものの、これは快挙といっていい。

廣中も5000mで歴史を作った
廣中も5000mで歴史を作った写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

常識を覆す挑戦は続く…

 田中は1500mと3000mの日本記録保持者で、5000mと800mも日本歴代トップ10に入る好記録を持つ。また、10000mも今年1月に31分59秒89とまずまずの記録で走っている。新谷仁美(積水化学)のもつ日本記録からは1分40秒離れているものの、スピードに加え、連戦をこなすスタミナをも備えた田中が10000mに本格的に参戦しても、十分に世界と戦えるのではないだろうか。

私見だが、10000mでも世界で戦う田中の姿を見てみたい。

 ひとまずは田中の東京オリンピックは終わったが、3年後のパリに向けてどんな進化を遂げていくのか、今後も楽しみだ。

「自分の中の常識を覆すことができた」

 田中はそんな言葉を口にしていたが、これからもまだまだ驚かせてくれるに違いない。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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