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天皇杯「地域代表」のラスト1枠をめぐって 【3回戦】高知ユナイテッドSC vs FC徳島

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
天皇杯3回戦進出の高知ユナイテッドSC。「四国代表」を懸けてFC徳島戦に臨む。

■高知と徳島、それぞれが痛感する「全国の壁」

 11月11日、天皇杯JFA第100回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)3回戦の残り1試合が開催された。香川県丸亀市のPikaraスタジアムで、19時にキックオフを迎えるのは、高知県代表の高知ユナイテッドSCと徳島県代表のFC徳島。両者は昨シーズンまで四国リーグで優勝争いをする間柄であったが、昨年の地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)で2位となった高知は、今季から戦いの場をJFLに移している。

 現在、四国をホームタウンとしているJクラブは4つ。すなわち、徳島ヴォルティス、愛媛FC(以上J2)、カマタマーレ讃岐、FC今治(以上J3)である。県でいえば、徳島と香川に1つずつ、そして愛媛には2つ。四国で唯一、Jクラブ空白地帯となっているのが、高知県である。ようやく今年になって、全国リーグを戦うクラブが誕生したわけだが、高知にとってのJFLは想像していた以上に厳しいものであった。

 何しろ、今季初の勝利に要したのは10試合。意外にも、JFL4連覇中のHonda FCとのアウェー戦で、スコアは1−0だった。ホーム初勝利は、3日前に行われた、12試合目のMIOびわこ滋賀戦(3−0)。ようやくリーグ戦で2勝目を挙げた高知だが、それでも16チーム中最下位という状況に変わりはない。今季のJFLは、Jリーグと同じく降格はないものの、通常のシーズンであれば1年で四国リーグに逆戻りとなる可能性も、十分にあり得た。

 一方、対戦相手の徳島は、今治や高知が卒業した四国リーグでは無敵の存在。コロナ禍で半分となったリーグ戦7試合を全勝して、見事に初優勝を果たした。しかし、続く地域CLの1次ラウンドでは1勝2敗のグループ3位で終了。この天皇杯で敗れれば、徳島の今シーズンは終了する。JFLと地域リーグというカテゴリーの違いこそあれ、いずれも「全国の壁」を痛感した高知と徳島。四国を代表して4回戦に進出するのは、果たしてどちらになるだろうか?

徳島に先制された高知は、前半アディショナルタイムに田口遼(#7)のゴールで同点に追いつくことに成功。
徳島に先制された高知は、前半アディショナルタイムに田口遼(#7)のゴールで同点に追いつくことに成功。

■リーグ戦から中2日の高知、地域CLを終えたばかりの徳島

 讃岐がホームとしているPikaraスタジアムは、丸亀駅から在来線のバスで15分なので、それほどアクセスが悪い施設ではない。とはいえ、水曜夜のアマチュアクラブ同士の試合。加えてこの日は、J1が4試合、J2が11試合行われる。どれだけの集客があるのだろうと思ったら、公式入場者数はたったの202人。加えて声出しの応援は禁止されているので、3万人収容のスタジアムには、さながら無観客試合のような空気感が漂っていた。

 試合が始まってみると、高知の動きの悪さが目立った。直近の滋賀とのリーグ戦から中2日。西村昭宏監督は、ホーム初勝利の「いい流れを切らさないように」あえてメンバーの入れ替えを3人にとどめたが、キャプテンの横竹翔いわく「(前半は)球際とか、セカンドボールを拾うとか、基本的なことができていなかった」。そんな中、開始7分に失点。自陣でのクリアボールを松本圭介に決められ、カテゴリーが下の徳島が先制する。

 徳島のサッカーを見るのは、昨年の地域CL以来1年ぶり。その時から、丁寧につなぐサッカーをしていたのだが、今年は球際の強さと推進力が加わった。その後も高知は、しばらく受け身に回る展開が続いたが、前半アディショナルタイムに同点弾。左サイドからの平田拳一朗からのクロスに、赤星魁麻がヘディングで落とし、最後は田口遼が右足で押し込んだ。観客こそ少ないが、好ゲームが期待できそうな前半戦である。

 後半に入ると、目に見えて徳島の運動量が落ちていく。高知も連戦だが、徳島も3日前に地域CLを終えたばかり。しかも、3日間連続の過酷なスケジュールであった。相手のペースダウンを待っていたかのように、後半の高知は一気に試合の主導権を奪い返す。そして迎えた76分、赤星からの右からのクロスに、長尾善公の右足がジャストミート。これが決勝点となり、今季初の逆転勝利を収めた高知は、県勢初の4回戦進出を果たした。

高知の西村昭宏監督。試合後に「四国代表として、新国立に一歩でも近づけるように頑張りたい」と語った。
高知の西村昭宏監督。試合後に「四国代表として、新国立に一歩でも近づけるように頑張りたい」と語った。

■「四国代表として新国立に一歩でも近づけるように頑張りたい」

 試合後のミックスゾーン。今日の勝因について、高知の西村監督は「後半にボランチを2枚にして守備を安定させた」こと、そして相手の足が止まることを見越して「選手には『じっくりいこう』と指示した」ことを明かした。12月まで試合ができることについて問われると、「今年は100回記念大会ですからね」と感慨深そうに語り、「四国代表として目の前の試合を一戦一戦を戦って、(決勝が行われる)新国立に一歩でも近づけるように頑張りたいです」と結んだ。

 西村監督自身、天皇杯に深い思い入れがあるのは間違いない。現役時代、所属していたヤンマーディーゼルは1983年大会で決勝に進出したものの、入団3年目の西村選手に出場機会は与えられなかった。そして2001年大会では、セレッソ大阪の監督として国立競技場で元日を迎えたものの、清水エスパルスにVゴール負けで準優勝。それから20年近く経って、高知のクラブを率いて新国立を目指すことになるとは、当人も夢にも思わなかっただろう。

 かくして、アマチュアの48チームは8チームにまで絞られた。「地域代表」として列挙すると、以下のとおり。ラインメール青森(北海道・東北)、筑波大学(関東)、福井ユナイテッドFC(北信越)、Honda FC(東海)、アルテリーヴォ和歌山(関西)、福山シティFC(中国)、高知ユナイテッドSC(四国)、ヴェルスパ大分(九州)。カテゴリーの内訳は、JFLが4チーム、地域リーグが2チーム、都道府県リーグが1チーム、そして大学が1チームである。

 今後は4回戦(12月12日・13日)で4チームに、さらに5回戦(12月20日)に2チームに絞られる。アマチュアのみの天皇杯はここまで。12月23日の準々決勝ではJ2とJ3の1位チームが、27日の準決勝からはJ1の1位と2位チームが参戦する。これら「地域代表」のうち、Jクラブと対戦するのはどのチームだろうか。そこでもし、ジャイアント・キリングが起こったならば──。アマチュアチームにも、元日・新国立への道がぐっと開かれることになる。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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