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国民みんなに布マスク2枚を配る本当の理由:厚労省は宗旨替え?

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
安倍首相、緊急事態宣言発令の記者会見。首相はこの後マスクを外しています。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■全世帯に布マスク2枚

あまり評判は良くないようですが、そろそろ各家庭に届くようです。

安倍首相は、もちろん大いに意味があると述べています。

首相、布マスク配布は「合理的」 野党の対応遅れ指摘に反論

首相は、「急激に拡大しているマスク需要に対応する上で非常に有効だ。理にかなった方策だ」とおっしゃっています。

「拡大しているマスク需要に対応」。どういうことでしょうか。

■厚労省のこれまでの主張

厚労省は、コロナに関する「マスクについてのお願い」で以前から言っています。

「予防用にマスクを買われている方が多いですが、感染症の拡大の効果的予防には、風邪や感染症の疑いがある人たちに使ってもらうことが何よりも重要です」。

「使い捨てマスクがない時は代用品を使おう:ガーゼマスクやタオルなど口を塞げるものでも、飛沫(くしゃみなどの飛び散り)を防ぐ効果があります」。

「マスクは買い占めなくても大丈夫:風邪や感染症の疑いのある人にマスクを届けるために、必要な分だけ買うようにしましょう」。

このお願いのページでは、症状があってもなくてもみんなでマスクをしましょうとは勧めていません。

コロナ感染予防のために「国民みんなでマスクをしよう」とは主張せず、むしろ感染拡大のためには、本当に必要としている人にマスクを回そうと言っています。

それなら、各家庭に配るマスク2枚を本当に必要な人に配ったり、その予算を医療や福祉現場のために使った方が良いようにも思えます。

いつも全員がマスクをする必要はないことは、首相もご存知です。

緊急事態宣言を行った記者会見の場でも、首相は、十分記者との距離が取れているのでマスクを外しますとおっしゃっています。

それなのに、マスクを全戸配置です。

■マスクを全世帯に配ると決めた後の厚労省の主張

「みんなでマスクをしましょう」と、厚労省は勧めてきませんでした。しかし、政府は日本中にマスクを配ると決めました。

政府が決めたことを厚労省は否定できません。私が厚労省の担当者だったら、きっと頭を抱えていたでしょう。

厚労省は、主張をひるがえして、宗旨替えするしかないのでしょうか。ところが、賢い人は何とかするものです。

布マスクの全戸配布に関するQ&A

この布マスク全戸配置に関するQ&Aで、まず「問1 布製マスクを全戸配布する理由はどのようなものですか。なぜ2枚なのですか」の回答を見てみましょう。

「布製マスクは、使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用可能なマスクです。店頭でのマスク品薄が続く現状を踏まえて、確保の目途が立った布製マスクを、国民の皆様に幅広く、速やかに配布するために、日本郵便の配送網を活用し、全国の世帯に向けて、1住所当たり2枚ずつ配布することとしたものです」。

あれ?

ちょっと何言ってるかわかりません(サンドウィッチマン富澤)。

布マスクは確保できたし、洗えて繰り返し洗えるので、2枚ずつ配ります、という部分は分かります。

しかし、そもそもなぜ全世帯にマスクを配るのか、その理由は書いてありません。

症状がなくても、国民みんながマスクをすることが感染拡大予防には大切ですよ、と書いてあるのなら分かりますが。

ただ、そう書いてしまうと、これまでのマスクのお願い内容と矛盾しますから、さすがに書けないのでしょう。

あ、でも失礼しました。マスクの効果については、別の問いにありました。

次は、「問3 布製マスクに効果はあるのですか?」の回答を見てみましょう。

「布製マスクには以下のような効果があると考えています」。

1せきやくしゃみなどの飛散を防ぐ効果があることや、手指を口や鼻に触れるのを防ぐことから、感染拡大を防止する効果。

2マスクの着用により、喉・鼻などの呼吸器を湿潤させることで風邪等に罹患しにくくなる効果。

3洗濯することで繰り返し利用することができるため、店頭でマスクが手に入らないことに対する国民の皆様の不安の解消や、増加しているマスク需要の抑制により、医療機関や高齢者施設などマスクの着用が不可欠な方々にしっかり必要な量を届けるという効果。

なるほど。でも、

1飛散を防ぐ。そして手が口や鼻に触れるのを防ぐ。→これなら、タオルやバンダナを巻くだけでもいいですね。

2喉や鼻を湿らせて風邪などの予防。→これ直接コロナと関係あるのかな。

3国民の不安解消。国民のマスク需要を抑え医療機関などにマスクを届ける。→ああ、なるほど!結局これか!!

つまり、高機能マスクに期待されるような効果ではなく、タオルやバンダナでも良い程度の効果なのですが、むしろ心理的効果を狙っていると読めます。

私たちとマスク

コロナ騒動以前なら、普通に買えていた使い捨てマスク。そこには、高機能がうたわれていました。

「立体4層構造!」とか、

「細菌、ウイルスを含む飛沫、花粉、PM2.5、99%カットフィルター」とか。

それでも商品によっっては、正直に「マスクは感染(侵入)を完全に防ぐものではありません」とも書いてありましたが。

高機能のマスクは、まず本当に必要な人に届けたい。それ以外の咳やくしゃみの症状のない人は、ちょっと待って。マスクでなくても、タオルでもいいのだから。そう厚労省はお願いしたいのでしょう。

もちろん、コロナ以前のようにマスクが十分流通しているなら、誰が高機能のマスクをしても良いでしょう。でも、今は優先順位があります。

高機能マスクの必要性の低い人が、必要性の高い人からマスクを奪ってはいけません。そんなことをすると、地域全体、国全体の感染拡大の危険性が増してしまいます。マスクがなくて泣いている様々な病気の人や、困っている医療や福祉関係者を増やすことになります。

それでも、毎朝同じような人がドラッグストアの前に並び、マスクの買い占め買いだめ大量購入を続けています。

この行動を、何とかしなくてはなりません。

総理のおっしゃる「拡大しているマスク需要に対応」は、そういう意味なのでしょう。

厚労省もさすがです。政府の政策を否定せず、同時に前から言っていた医学的に正しいこととも矛盾しない、巧みな説明です。

ただ、高機能使い捨てマスクの大量購入を続けている人は、布マスクは2枚では納得しないでしょう。

それでもマスクがなくて不安でしょうがない人や、「みんなでマスク」という圧力に苦しんでいる人には、洗えるマスク2枚は助かるでしょう。

マスクを全家庭に配ることで感染予防ではなく、全家庭に配ることで国民を落ち着かせ、結果的に必要な人にマスクが行き渡ることで、感染予防、医療崩壊防止です。それが、政府の真意なのでしょう。

何だか厚労省や政府ににごまかされたような気もしますが、これでマスクの買いあさりが少しでも止まり、必要な人にマスクが届けば、結果オーライです。

マスク2枚の予算466億円が、その効果に見合うかどうかは、また別の問題です。この政策が本当に国民のためなのか、ただの点数稼ぎなのかも、また別問題です。

ただ本当は、私たち国民が、そして世界の人々が、最初から厚労省の「マスクについてのお願い」内容を聞いてマスクの買い占めなどしなければ、こんなひどいマスク不足は発生せず、マスクの高額転売も起こらず、466億円も必要なかったのでしょう。

〜分け合えば足りるのに、奪い合うから足りなくなる〜

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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