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天皇陛下退位「国民に感謝」:ゆく時代くる時代ハロー令和の時代

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
平成から令和へ:皇居二重橋(写真:松尾/アフロ)

■平成から令和へ

「退位礼正殿の儀」において、天皇陛下はおっしゃっています。

「天皇としての務めを終えることになりました」

「天皇としての務めを、国民への深い信頼と敬愛をもって行い得たことは、幸せなことでした」

「象徴としての私を受け入れ、支えてくれた国民に、心から感謝します」

天皇制、また天皇のあり方については、様々な意見があります。この天皇の代替わりの時も、双方の意見の人々が声をあげています。ただ、政治的な考え思想はともかくとして、「天皇としての務め」を31年に渡り見事に務められた陛下には、国民として感謝したいと思います。

■天皇とは

天皇家の長男として生まれたものは、天皇としての務めを負わなくてはならない。これは、大変なことです。職業も住所も結婚も、自分では決められません。また天皇は、天皇としての実力があれば掴めるものでもありません。

「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」(日本国憲法第一条)。

憲法にあるように、私たち国民が総意として認めなければ、日本の象徴としての天皇は成り立ちません。実際、戦後の一時期、昭和天皇は天皇制存続への不安を持たれたこともあると伝わっています。

象徴としての天皇を成り立たせ、その務めを支えるのは、国民の総意です。国民の総意とは、単に天皇制を認めるということではないのでしょう。今回の陛下のお言葉にあるように、今、天皇の務めを負っている個人を、日本の象徴として受け入れることなのだと思います。

では、どのような方なら、日本国の象徴として私たちは受け入れるのでしょうか。見た目の立派さでしょうか。風格や見識の高さでしょうか。それらのことも大切でしょうが、決定的なことではないでしょう。

最も大切なことは、天皇の務めを負う方の「国民への深い信頼と敬愛」なのだと、私は今回のお言葉から学びました。

天皇陛下は国民からの敬意を受けるべき方ですが、ただ単純に偉い方と考えてしまうと、国民が天皇陛下を敬愛するなら分かりますが、陛下が国民を敬愛するのは奇妙な感じがします。

憲法によれば、主権は国民にあるのですから、日本で一番偉いのは国民だとも言えます。総理大臣だって、選挙の時には国民に頭を下げ、お願いをするのですから。もちろん、政治家と天皇は違います。しかし単純に天皇家の方は偉い人で、他の国民は偉くない人としてしまうのは、人間は皆平等だとする現代社会の価値観と矛盾することにならないでしょうか。

「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。華族その他の貴族の制度は、これを認めない」(日本国憲法十四条)。

ここでは、難しい憲法論議や天皇制についての議論、天皇は国民なのかといった議論をしようというのではありません。

私たちは社長や校長や大臣を偉い人として尊敬し、従います。どの国でも同じでしょう。大統領にも国王にも敬意をはらい、偉いお坊さまやマザーテレサや法王にも、敬意を払います。オリンピックのメダリストにも、大相撲の横綱にも敬意を払います。

同時に、最下位だけれども最後まで一生懸命走り抜いた人にも、偉い人として敬意を払います。

辞書によれば、偉い人とは、品行や経歴や才能が立派な人、 地位や身分が高い人、程度がはなはだしい人とあります。天皇陛下は、このいずれにも当てはまるように思えますが、「国民への深い信頼と敬愛」こそが、最も素晴らしいことだと、今回思えました。

■象徴と愛と信頼、感謝と支援:新しい時代に向けて:ハロー令和

天皇は日本の象徴であり、日本国民統合の象徴です。象徴が象徴として存在するためには、みんながその象徴を認め、愛さなくてはなりません。たとえば、何かのマークとか、歌とかを、みんなが愛さなくては象徴にはなり得ません。

問題は、日本の象徴が人間だということです。天皇制や憲法への賛否はともかく、私たちに選ばれ、私たちのために重い責務を負っている人には、協力し支援していくことが必要でしょう。どんな偉い人にも、神聖にして侵すべからずとは思いませんし、健全な批判精神は大切ですが、敬意は必要です。

人はどのような人を愛するでしょうか。心理学の研究によると、第一印象では外見です。さらに何か特別な特質を持っている人は、素晴らしい人だと感じて愛します(ハロー(後光)効果)。しかし、最も決定的なのは、人は自分を愛してくれた人を愛するということです(好意の返報性)。

陛下は「国民への深い信頼と敬愛」と「感謝」の情を持ち、国民は、政治思想や個人的思いは別として「象徴としての私(天皇)を受け入れ、支えてくれた」。今回のお小束にあるように、この関係こそが象徴天皇としての基盤なのでしょう。

陛下が今回退位をご決断された背景には、体力的な衰えだけではなく、国民への敬愛の思いを表し続けることへのご不安もあったとの報道もあります。

天皇が日本と日本国民統合の象徴であり、それが信頼と敬愛と受容と支援によって成り立つのであれば、私たち国民同士も、国民と政治家も、社員と経営者も、親も子も、その関係を大切にしたいと思います。みんなが他人を軽蔑し、笑い者にし、寛容さを失った社会は、私たちの国にふさわしくありません。

心理学の研究によれば、互いに感謝し合い、「ありがとう」を言い合う社会こそが、幸福な社会です。

平成は戦争はなかったけれど、災害が多い時代だったと言われています。しかし、ただ災害が多かっただけではなく、多くの人に支えられ、私たちの絆によって災害を乗り越えた時代だったと、後世の人に評価されたいと思います。そして令和の時代は、今よりさらに愛と感謝と信頼に結ばれた時代にしていきたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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