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災害発生と流言デマの心理学:西日本豪雨の被災地広島県警から:レスキュー隊姿の窃盗グループはウソ情報

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
広島県警犯罪情報官速報「デマ情報に惑わされないで」

< 災害発生時には、流言デマ、フェイクニュースが広がりやすい。だからこそ、緊急事態こそ、冷静な行動を。冷静なネット活用を。>

■西日本豪雨で大きな被害があった広島の県警がデマ情報注意喚起

■流言とは・デマとは

大きな災害が起きると、流言やデマが発生します。

流言とは、正確ではないのに、口コミを通して広がっていく「うわさ」のようなことがらです。流言は、だれかがわざと広げようとしているのではありません。

デマとは、「デマゴーグ」(人々をうまく扇動する政治家)からできた言葉で、誰かが意図的に本当ではないとわかっていて広げていくものです。

ただし、流言という意味でデマという言葉が使われてしまうこともあります。

熊本地震のときには、「ライオンが逃げた」という話が広がりました。

■災害発生と流言デマ

心理学の研究によれば、「流言デマ=重要性×曖昧性」と言われています。もしも本当にライオンが逃げ出したのなら、これはとても重要な情報です。さらに、災害発生時には、情報が混乱します。すぐに情報を確認することが難しくなります。市役所も警察も何も言っていないとしても、それはまだ情報をつかんでいないだけかもしれません。

また、人は不安になっているときには不安な情報を求めるという心理もあります(認知的不協和理論)。だから、不安な被災地では、不安な内容の流言デマが広がりやすくなります。

災害情報学の研究によれば、災害時のデマの特徴を次のようにあげています。

  1. 情報が極度に不足した状態で現れやすい。
  2. 被害や緊急対応を指示する内容が多い。
  3. 伝播速度が早い。

情報欲求の高まり、伝達欲求の高まり、不安感情の正当化、興奮状態によるチェック不足などが、災害発生時の流言デマを広げます(インターネットコミュニケーションとデマ(流言)・情報は次々変容する:Y!ニュース有料)。

■ネット、SNS時代の流言デマ

ネットやSNSが普及した現在では、流言デマの危険性はさらに広がっています。

現代において情報は力です。人は、情報を集めようとします。入手した情報は発信したくなります。善意で情報を伝えたい人もいれば、自分の力を示すために新しくて重要な情報をすぐに伝えたくなる人もいます(多くの現代人はそうかもしれません)。

こうして、昔の口コミとは桁違いのスピードと伝播力をもって、現代の流言デマは広がっていきます。

ただし、ネット上では、利益目的でフェイクニュースを作って流す人もいます。愉快犯、悪ふざけで、嘘情報を流す人もいます。さらに、善意で間違った情報を広げる人もいます。

先日の大阪地震のときには、「キリンが逃げた」とのデマが広がりました。本人としては「ライオンが逃げた」のパロディーなのかもしれませんが、災害発生時には笑えない行為です。「ライオンが逃げた」では逮捕者も出ているのに、なかなか学べない人達がいます。

(キリンではなくて、シマウマ?)

■正しい情報の迅速な発信

流言デマを防ぐ方法は、信頼の置けるところからの迅速な情報発信です。今回の広島県では、「レスキュー隊のような服を着た窃盗グループ」という情報が流れました。広島県警は「警察では、そのような事実は把握しておりません」と情報発信しています。

責任ある立場からの情報発信は、難しいものです。無責任な人が「ライオン逃げた」と情報発信することは簡単ですが、「ライオンは逃げていない」と警察や役所が情報発信するのには、事前の情報確認が必要です。

ライオンのいる動物園が一箇所だけで、すぐに連絡がつくのなら良いのですが、何箇所もあり通信手段も絶たれているときは、とても手間がかかります。

「○○線で脱線発生」といったうわさも、いつどこでという情報がなければ、全線を確認しなければなりませんから、時間と手間がかかります。

そうすると、「確認がとれていない」「把握していない」「証拠はない」といった表現にならざるをえません。この回りくどい言い方にイラつく方もいるのですが、そこは真意を(ニュアンスを)読み取りましょう。ケースバイケースではありますが、多くのケースでは「ない」という意味です。

もしも、確認は取れていないがその危険性がとても高ければ、「確認は取れていないが、十分に注意してください」といった表現をとるでしょう。

今回も、「レスキュー隊のような服を着た窃盗グループ」が実在する可能性は0ではないでしょう。でも、そんな誤情報が広がってしまえば、レスキュー隊の活動に支障が出かねません。それでは、とても困ります。

「『レスキュー隊のような服を着た窃盗グループ』はいないでしょう」というニュアンスは伝え、同時に災害発生時の犯罪に注意喚起し、また流言デマ拡散防止への協力をお願いする。今回の広島県警からの情報発信は、とても素晴らしいものだと思います。

■リツイートする前に

ネット上で情報を見たときに、飛びつきたくなる情報があります。すぐにリツイートしたいと感じる情報があります。とても面白かったり、自分の意見や感情とピッタリだったり、今の状況ならぜひ伝えたいと感じるものです。

でも、そんな時こそ、要注意なのでしょう。少し時間を使って調べると、その情報が自分に届くころには、その情報が流言デマなら流言デマのウソ情報であるという情報も、検索結果の少し下の方で見つかるでしょう。

緊急事態こそ、冷静な行動を。冷静なネット活用を。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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