妄想を持つ人との付き合い方:困っている人々を助けるために

(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

妄想を持つ人は、自分では真実と思いながら、自分と周囲を傷つけ続けます。必要なのは、私達の理解と支援です。

■妄想とは

妄想とは、誤った思い込みです。みんながありえないと考えることを、強く信じるのが妄想です。何となくそのような気がするのではなく、本人としては事実です。現実的ではないのに、本人は強い確信を持ち、周囲から説得されても訂正できないのが妄想です。

一般の会話で使われる「こうなるといいなあ」という意味の妄想と、精神医学で使われる妄想とは意味が違います。

「宝くじが当たる気がする」「僕はあの子に好かれている気がする」というのは妄想ではありませんがけれども、本当は違うのに「私は天皇家の人間だ」と信じて、誰に説得されてもその考えを変えなければ、妄想ということになります。

どう考えてもありえない妄想もあれば、事実であってもそれほどおかしくはない妄想内容もあります。

たとえば、「スカイツリーから電波が出て僕の脳をコントロールしている」という妄想もあれば、客観的には何も起きていないのに「近所の人みんなが私を攻撃してくる」とか、何の証拠もないのに「夫が浮気している」という妄想を持つときもあります。

夫が浮気しているような気がするのではなく、その人の心の中では、明らかに「夫は浮気している」のであり、他の人が「そんなことはない」と言っても、まったく考えは変わりません。

妄想には、次のような様々な種類があります。妄想の内容は多様です。

  • 被害妄想:他人が自分に悪意を持っていて、自分は被害を受けていると思い込む妄想。自分は、苦しめられ、追跡され、妨害され、だまされ、盗聴され、嘲笑されているなどと思い込む。
  • 監視妄想:誰かに見張られ監視されていると思い込む妄想
  • 操られ妄想:電波やテレパシーで自分が操られていると思い込む妄想。
  • 関係妄想:自分とは関係ないことを、自分と関係あるように思い込む妄想。
  • 恋愛妄想:相手から自分は愛されていると思い込む妄想。
  • 罪業妄想:自分はとても悪い人間だと思い込む妄想。
  • 心気妄想:自分が病気だと思い込む妄想。
  • 貧困妄想:自分はとても貧しいと思い込む妄想。
  • 宗教妄想:自分は宗教的に特別な人間だと思い込む妄想。
  • 誇大妄想:自分がナポレオンだったり、皇室の人間だったり、正義の味方だなどと思い込む妄想。

いったん妄想を持ってしまうと、他のこともその妄想にそって理解します。みんなが敵だと思い込めば、全てのことが私への悪意と感じます。夫が浮気していると確信すれば、夫の様々な行動が浮気の証拠に見えます。他の人が見れば、ぜんぜん証拠になっていないと思うことまで。

■妄想が生まれる病気

様々な病気で妄想が生まれます。

統合失調症の妄想は、普通の人から見ると了解不可能な妄想を持つことがあります。「全国民が私を見張っていて、毎日のテレビニュースで私のことを言っている」といったものです。了解不可能とは、「そういうふうに感じることって、あるよね」とは思えないことです。

統合失調症でも、妄想型の統合失調症では、他の心の症状は少なく、妄想が主な症状になります。現実的な妄想内容のときもあります。

うつ病で、妄想を持つこともあります。自分の家には全くお金がないとか、子どもの人生はもうおしまいだとか、現実にはそんなことはないのに、そう思い込むこともあります。

妄想性障害は、統合失調症でもうつ病でもなく、妄想だけがあるという精神疾患です。他の面では待ったく問題がなく、ただ妄想だけを持っています。

以前私の講演会場でお会いした方は、「若者の脳にはチップが埋め込まれている。これを取り除かなければ少年犯罪も少年の自殺もなくならない」とおっしゃっていました。日常生活はだぶんまったく問題のない方です。

私に、大量の資料を送ってきて、何とかしてくれと依頼してきました。そのために努力していないことを強く責められました。資料の内容の一つひとつは正しいものです。ただ、「若者の脳にはチップが」という結論は間違っているのですが。

また、妄想性パーソナリティー障害は、妄想性障害よりもさらに現実的にも十分ありうる内容を妄想的に信じ込んだりする人々です。とても疑い深くて、人の善意を信じられない人とも言えます(妄想性パーソナリティ障害の人が妄想性障害になることもあります)。

■中高年になって不思議なことを言い始めたり、周囲とトラブルになる人々

それまでは問題なく人生を生きて来た評判の良かった人が、中高年になってから、突然問題を起こすことがあります。おかしなことを言い始めたり、近所から苦情が来ることもあります。

たとえば、近所の人みんなが私に嫌がらせをするなどのことを言い始めます。最初に話を聞くと、本当にそんなことが起きているとも思えます。でも、よく話を聞くと、とてもそれが事実とは思えない内容を話しはじめます。たとえば、通りすがりの人も含めて全ての人が私に嫌がらせするといった話です。

本人はとても悩み苦しんで、どうにかしようとするのですが、その言動によって、かえって近隣とのトラブルにもなります。

このような場合に考えられることの一つは、認知症です。ただし、認知症だと生活の様々な面で問題が起きるでしょう。

次に考えられるのが、統合失調症や妄想性障害による妄想です。妄想型の統合失調症や妄想性障害は、中高年になってから発病することもあります。いずれにせよ、必要なのは叱責や説教、説得ではなく、治療です。

社会的な力を持った人だと、ご近所トラブルではすまない大きなトラブルを起こしている人もいるでしょう。

■インターネットと妄想

以前であれば、妄想話を聞くのは周囲の人だけでした。けれども、現代ではブログやツイッターなどネットで情報発信ができます。その結果、混乱がさらに広がることがあります。事実無根の内容で責められる人もいれば、後になって本人が苦しむこともあります。

似たような妄想を持った人同士がネットで交流し、互いの妄想がさらに強まることもあります。

こういった内容をアップすると、「お前は何もわかっていない! 私達は本当に日本中から(ある組織から)集団ストーカー行為を受け、電波攻撃を受けているのだ!」といったご意見をよくいただきます。

■妄想のある人との付き合い方

誰かが奇妙なことを言って来たとき、まずは本当かもしれないと考えます。でも、しばらく話を聞いて、やはり現実ではないと判断できれば、その妄想に振り回されないようにしなくてはなりません。

ただ、すぐにわかる妄想内容なら良いのですが、事実か妄想か調べないとわからないものもあります。妄想の中に、一部事実が入り込んでいると、さらにわかりにくくなります。

妄想なのに、周囲が妄想だとわからずに話の内容に乗ってしまうと、妄想はさらに強くなることがあります。

一方、妄想だとわかって「それは妄想だ!」などと頭ごなしに否定すると、相手との人間関係が悪くなったり、強く反論されかえって妄想が強まることもあります。

妄想だと判断しても、本人の悩み苦しみを否定せず、共感的に接する必要があります。妄想の内容には付き合いませんが、その人が困っていることには付き合い、相談にも乗りましょう。そして、治療へとつなげましょう。

■妄想で困っている人々の助け方

全国には、困っている人がたくさんいます。妄想ではなくて実際の被害を受けて困っている人もいれば、病気である妄想で困っている人もいます。

誰かが、しっかり話を聞く必要があります。その人たちは、恐れています。人間不信になっている人もいます。その方との人間関係を修復し、適切な支援を行う必要があります。本当に困ったことが起きているなら、現実的に支援しましょう。病気なら治療につなげましょう。

妄想の対象になって困っている人もいます。好かれていると思い込まれたり、なぜ攻撃してくるのかと責められたりもします。事実無根の内容で侮辱されることもあります。「宇宙人が~」という内容なら周囲もすぐに妄想だと思いますが、いやがらせとか、不倫だといったことは、周囲も現実なのか妄想なのかわからないこともあります。

心の病についての知識がないために、妄想なのに妄想とわからず、問題が解決しないこともあります。心の病への偏見差別の思いを持ち、妄想を持っている人を「電波」などと言って揶揄し、困っている人たちをさらに追い詰めることもあります。

やたらと人を病人扱いしてはいけませんが、心の病について語ることがタブー視される社会では、心の問題で困っている人を助けることは難しいでしょう。

精神疾患についての基礎的な知識を持つこと、偏見差別に縛られないこと、そしてその方に寄りそい支援をすること。また妄想の対象にされた人や妄想のせいで責められている人のことも支えること。これが、妄想で困っている人々を助けるための一歩なのだと思います。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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