元少年A公式ホームページ「存在の耐えられない透明さ」全文を読んで:酒鬼薔薇事件は今も続いているのか

(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■酒鬼薔薇事件の元少年A、ホームページ開設

3日前の9月7日(月)に、ある雑誌記者さんから「元少年Aがホームページを開設しようとしている」と聞きました。本人の確認は取れているとのことでした。そのページを見てコメントをするために、ホームページのURLを聞きました。ただし、雑誌の発売日9/10まで口外しないほしいと依頼されました。

私が聞いているところでは、元少年は、週刊新潮、週刊文春、週刊女性セブンの3誌に、ホームページ開設の情報と、そして幻冬舎社長の見城徹氏に対する怒りの長文の手紙を出していました。

発売の前日。雑誌の「早刷り」を見て、私のコメントを見た複数のメディアの方から、取材を受けました。雑誌記事に関するこららのメディアからの報道は、雑誌発売日の朝になるようです。メディアの方々から、ホームページのURLを質問されましたが、情報元の雑誌編集部が明らかにしていないものを、私から話すことはしませんでした。

平成9年に神戸市須磨区で発生した連続児童殺傷事件の加害者の元少年が、自身の公式ホームページ(HP)を立ち上げたと、10日発売の週刊文春や週刊新潮が報じる。

出典:神戸連続児童殺傷の「元少年A」HP開設、自身のプロフィル掲載 週刊誌報道:産経新聞 9月10日

9月10日発行各誌の見出し

週刊新潮「文字数2万3000字!週刊新潮に届いた元「少年A」からの奇っ怪な手紙」

週刊文春「ついに酒鬼薔薇聖斗の正体を見た! 少年Aから本誌への手紙」

女性セブン「元少年Aから本誌に届いた憎悪と自己愛の長文手紙と戦慄の全裸自撮写真」

■元少年Aからの手紙

彼は、彼の著書「絶歌」の原稿を最初に持ち込んだ幻冬舎社長の見城徹に対して、怒っていました。見城氏がメディアの取材に応じて嘘をついた、彼に裏切られたと2万、A4用紙20枚に及ぶ手紙をつづっていました。

しかし、彼が怒っている見城氏の言動は、常識的には些細なことです。彼の中には、鈍感さと敏感さが共存しているように感じます。そして、何に敏感に反応し激しい感情を持つのかが、とてもわかりにくいように思えます。

■元少年A公式ホームページ「存在の耐えられない透明さ」開設の理由

「最後に、重要なお知らせです。いろいろ思うところがあり、急遽ホームページを開設しました。~まだ立ち上げたばかりで方向性も何も決まっていませんが、今後はこのホームページを基盤に情報発信をしていく所存です」。  元少年A

彼は、中学生の時から今に至るまで、表現への切望があるように思います。事件(神戸連続児童殺傷事件)のとき、彼は犯行声明文を出し、さらに、「酒鬼薔薇」(さかきばら)という自分の名前の読み方に関して、新聞社に怒りの手紙を出しています。

「絶歌」によると、彼は学校の中で最下層にいる存在であり、みんなに忘れられるような生徒だったと語っています。まさに「透明な存在」です。その少年が、事件によって、今度は「モンスター」とされます。しかし、彼はライオンのような存在ではありません。透明な存在も、モンスターも、本当の彼の姿ではありません。

(「絶歌」で描かれている少年Aのイメージは、あくまでも彼の主観的なイメージです。別の第三者によるルポタージュを読むと、また違ったイメージを持ちます。)

彼は、自分自身を表現したかったのでしょう。それが、「絶歌」であり、今回のホームページ「存在の耐えられない透明さ」ではないでしょうか。それは、目立ちたい有名になりたい褒めてもらいたいといった自己顕示欲とか、承認欲求といった言葉でも表しきれません。単にお金のためなどの、打算的な思いだけとも考えられません。表現することは、自己の存在証明のようでもあり、切実な欲求なのだと思います。

同時に彼は用心もしているようです。ホームページは、海外サーバーからの発信のようです。

■違和感

トップページには、プロフィールがあります。それは、とても客観的であり、他人事のようであり、本当に一瞬別の人が書いたのかと思ってしまったほどでした。

それは、「絶歌」の中でも見られます。この本の中で、彼は少年法の解説をします。それが、他人事のように感じられ、冷静に淡々と描かれた内容は、正しい内容ですが、周囲をイラつかせるでしょう。

■ギャラリー

「ギャラリー」には、彼の書いた絵や、自分自身がモデルとなった写真がでています。多く登場する題材は、ナメクジです。人に嫌悪感を与えるナメクジ。もしかしたら、ナメクジは彼自身の象徴なのかもしれません。

絵や写真からは、彼の悲しみや祈りの思いを感じます。また彼自身のボディを使った作品は、強くなりたい思いも感じます。

ただし、かなり気持ちの悪い絵や写真もあります。少年時代に書いた「バモイドオキ神」のような雰囲気も感じます。

彼の写真作品に使われた題材の一つが、ナメクジです。作品のメイキングには、ナメクジがたくさん登場します。かなり不快感を感じさせる写真です。ただ、彼はそれをたんたんと紹介しています。

このような画像が読者に不快感を与えること、そしてそんな画像をアップしている自分自分への評判が悪くなる可能性があることなど、彼はあまり気にしていないようです。

■レビュー

「レビュー」ではいくつかの本が紹介されています。「ひげよ、さらば」は印象的です。物語の主人公(ネコ)と共に無理心中しようとする老婆に、彼は自分の祖母を重ねます。祖母は、彼にとって優しく愛してくれる存在だったはずなのですが(私は彼のレビューを読んだ後、「ひげよ、さらば」を購入しました)。

佐川一政氏の著作もレビューされています。佐川氏は、ヨーロッパで女性を殺害した後でその肉を食べた事件で有名です。逮捕後、責任能力なしで措置入院し、後に日本に帰国して、執筆活動などを行っています。お笑い芸人との共演もあります。

元少年Aにとって、佐川氏は一つのモデル、手本のように感じます。しかし同時に反面教師のようです。佐川氏のように自由な執筆活動を行いたいが、しかし笑い者などには決してなりたくないと感じているようです。

■元少年Aの過去現在未来:彼はまた犯罪を犯すのか

著作「絶歌」の発行、そして今回のホームページ。これらの被害者遺族の神経を逆撫でするような行為から、「彼は全く反省していない」と語る人もいます。そう感じられるのも、もっともです。ホームページの中には、今日現在遺族への謝罪の言葉は見当たりません。

たしかに、これらの執筆は、被害者のための行為ではありません。自分自身の強い欲求からの行為でしょう。その上で、何か社会の役に立てばという意識もあるようですが。

ただ、彼の反省の弁も嘘ではないと思います。彼は彼なりに深く反省し後悔していると思います。ただ、それでも彼の常識や感覚が、一般の人とはずれているのだと思います。

そのずれは、あまり変わっていないのでしょう。表現したい強い欲求も同じです。その意味では、今もなお「酒鬼薔薇事件」は終わらずに続いているようにも感じます。

しかし、彼の犯行の主因となった、「性的サディズム」(誰かを苦しめることで性的快感を感じる)は、寛解(かんかい:とりあえず改善)しているように思えます。それが当時の医療少年院の判断でしたし、もし彼が今も殺害への欲求を強く持っているなら、打算的な計算などせず、それを表現するような気もします。

犯行当時の彼とは違い、今は人の優しさも彼なりに感じ取れるようになっているようです。

プロの犯罪者は、生活のために犯罪を続けます。しかし普通の犯罪者は違います。特に少年犯罪者はそうです。心理的な病理があったとしても、その他の様々な不幸な要因が重なり合って、犯行に及んでいます。これまでも、少年時代に猟奇殺人事件を起こして、成人後もまた同様の猟奇殺人を犯した例を、私は知りません。

ただ、本の発行とホームページの開設、メールアドレスの公開によって、様々な意見が彼に押し寄せていると思います。それは覚悟の上での行動だとは思いますが、彼が不安定にならないか心配です。

彼には、サポートチームが付いているようです。彼はそこから離れたい思いもあるようですが、ぜひ必要なサポートは受けて欲しいと思います。

安定した精神状態で、心からの贖罪の思いを深めながら、日常生活を送って欲しいと願っています。

(また、ご遺族の心はもちろん、一部から彼がヒーロー視されないか、さらに彼のご家族のことも、心配です。)

*ホームページが更新されました(10/13)。

元少年Aに出したメールに返信が来た:贖罪と更生の深さを考える:HP「存在の耐えられない透明さ」の更新

■関連ページ

元少年A『絶歌』神戸連続児童殺傷事件:質問疑問に答える:出版は正義に反する。しかし内容は心に迫る:Yaoo!ニュース個人(碓井真史)

神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)の犯罪心理学:こころの散歩道(事件発生当時に書かれた記事。)

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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