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自転車イヤホン禁止は誤解?やっぱり注意される?:子どもに安全運転をどう教えるか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)

■自転車でイヤホンは禁止?

道交法が改正されました。「交通の危険を生じさせる違反」をして、3年以内に2回以上摘発されると、講習を受けなければならなくなりません。けれども、簡単には事故は減りません。「イヤホンつけて運転の自転車にはねられ女性死亡」(TBS系(JNN) 6月11日)といった事故も発生し、大きく報道されました。

この記事を読むと、イヤホンをつけて運転するという危険な違反をしていたというニュアンスが伝わってききますね。

■自転車イヤホン禁止は誤解? いややっぱり注意される?

ところがYahoo!ニュースがこの記事の関連ページとして紹介したページには、2種類ありました。

一つは、「改正道交法「危険行為」には含まれず」の見出しで、

「6月から自転車イヤホン運転禁止」の誤解 警察に問い合わせ殺到」(THE PAGE 6月4日)。

この記事では、「警視庁の交通相談センターに問い合わせると、「今回、安全講習の対象となる14の危険行為に、自転車のイヤホンは含まれない」と、明確な答えが返ってきた。〜ネット上での誤解の広がりやすさ、その危うさを浮き彫りにした」とありました。

ただし、この記事でも、各都道府県ごとに定める「道路交通規則」によって禁止事項の詳細は異なること、また外の音が聞こえないようなイヤホンの使い方は道路交通規則が禁じるとあります。

もう一種類が、「危険と見なされれば取り締まられる」の見出しで、

「自転車走行中でも片耳イヤホンならセーフ」は本当? 警視庁に聞いてみた」(ねとらぼ6月4日)

この記事も警視庁に問い合わせた結果が紹介されています。

「東京都の場合ですが、結論から言うと、イヤホンが両耳か片耳かは関係ありません。片耳でも注意を受ける可能性は十分にあります」。「東京都では原則、この『必要な音や声が聞こえているかどうか』(以前からある道路交通法第70条)を基準に取り締まっています。イヤホンが両耳か片耳かで判断することはありません」(警視庁 交通相談コーナー 担当者)

ややこしいですね。

■法律では・規則では

道交法では、自転車のイヤホン=危険行為「安全運転義務違反」=安全講習ではありません。でも、もちろん危険な運転はいけませんから、都道府県の道路交通規則に基づき注意をされることはあるわけです。

道交法の「安全運転義務違反」も、細かい具体的な規定はありませんので、その時々なのでしょう。法律はなかなか厄介で、明確に何かを具体的に禁止するのは、難しいものです。また具体的にあげているもの以外なら、全部OKになってしまうのも現実的ではありません。

■イヤホンはなぜ危険か

大人も危険な運転をする人がたくさんいますが、青少年の乱暴な運転も目立ちます。子どもたちは、運転に自信があります。一時停止などの知識を知らない子もいます。とつぜん猛スピードで飛び出してくる子どもの自転車があります。

自転車は、自動車よりもずっと視野が広く、静かなので周囲の音もよく聞こえます。見通しが悪くても音が聞こえなければ、安全だと判断して飛び出す場合もあるでしょう。

両耳に入れたイヤホンから大音響の音楽が流れていて、周囲の音が聞こえなければ危険なのは言うまでもありません。そうでなくても、小音量でも、片耳でも、はやり危険です。周囲の音が聞こえないわけではありませんが、聞こえにくくなります。音は聞こえていても、何の音なのか聞き分けにくくなります。

もちろん安全確認は目視が原則ですが、自転車の運転者(特に青少年)は、目と耳と総合的な判断を行っています。

自動車のドライバーも、スピーカーで音楽を聴くのは良いけれども、イヤホンを使うのは危険と感じて、普通は使用しないでしょう。

■子どもへ伝えるべきこと

子どもの自転車安全教室は、以前から開かれていました。ただ、主な目的は被害防止でしょう。今回の合高法改正によって加害防止も教えていきましょう。自転車は人にぶつかれば危険な乗り物です。また、「自転車が絡んだ事故の9割が自転車側の違反」という報道もあります(富山チューリップテレビ 6月4日)。

今回せっかく大きく話題になっていますから、自転車も車両として守るべきルールがあるとしっかり教えましょう。

また自転車は、自動車よりも、「意図的な違反」による事故が多い乗り物です。知らないで違反するだけではなくて、知っていて車道の右側通行をしたり、信号無視をしたりします。安全運転の大切さを伝えたいと思います。

口で教えるだけでなく、見本となる自転車運転を示しましょう。「お説教よりも見本を見せる方が効果的です」(子どもや部下を教育する「言葉」よりも効果的な方法:モデリングの心理学:Yahoo!ニュース個人有料)。

■子どもに自転車イヤホンをどう教えるか

読売中高生新聞」6月12日号では、「身近な自転車、どう付き合う?」「悪質運転 法律厳しく」という自転車関連の記事が載っていました。

この記事では、信号無視や一時停止違反など道交法での「講習の対象となる危険行為14項目」が紹介され、中高生がやりそうな「安全運転義務違反」がイラストで描かれています。

・スマホをいじる

・傘をさす

・二人並んだ並走運転

・二人乗り

そして

・イヤホンで音楽

です。

あれ?イヤホンは安全運転義務違反にはならないのではないの?と思ってよく見たら、イラスト全体の上にこう書いてありました。「事故を起こすと違反の可能性のある例」。

イヤホン自体が無条件に安全運転義務違反になるわけではありませんが、たしかに事故を起こせは違反の可能性があります。子どもたちが起こしそうな危険な運転に対して、法的に厳密な解説をするよりも、こちらのほうがずっと現実的でしょう。

いまがチャンスです。子どもと大人が協力して、「自転車安全文化」を作っていきましょう。

*関連ページ

「自転車安全文化」を作ろう:改正道交法を活かすために

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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