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「自転車安全文化」を作ろう:改正道交法を活かすために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
警視庁のポスターより

■改正道交法が施行・・・しかし実態は

6月1日、改正道交法が施行されました。自転車も、「交通の危険を生じさせる違反」をして、3年以内に2回以上摘発されると「悪質自転車運転者」とされ、講習を受けなければいけません。この自転車安全講習は、3時間ほどかかり、講習料は5700円(標準額)です。講習を受けなければ、5万円以下の罰金です。

「交通の危険を生じさせる違反」とは、信号無視、一時不停止、歩行者用道路徐行違反(歩道を普通のスピードで走る)、酒酔い運転、道路の右側通行、そして安全運転義務違反などがあります。スマートフォンを見ながら運転して事故を起こせば安全運転義務違反でアウトです。

(補足6/11.23:55.イヤホン自体は摘発の対象外のようです。外の音がまったく聞こえないようなものはだめです。ただし、たとえば神奈川県道路交通法施行細則第11条では、「大音量で、又はイヤホン若しくはヘッドホンを使用して音楽等を聴く等安全な運転に必要な音又は声が聞こえない状態で自動車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。」とあります。)

テレビのニュースでは、施行後に取締りを受ける自転車の様子が報道されていました。しかし、みなさんの町の実態はいかがでしょうか。

千葉市で10日、横断歩道を渡っていた77歳の女性が、19歳の少年が乗った自転車にはねられ死亡しました。少年はイヤホンを耳につけて運転していて、赤信号無視をしていた可能性もあるということです。~

~少年はイヤホンを両耳につけて自転車を運転していたうえ、「下を見て運転していた」と供述しているということです。

出典:イヤホンつけて運転の自転車にはねられ女性死亡 TBS系(JNN) 6月11日

このニュースにつけられたコメントを見ても、多くの人が違反が減った実感はないと語っています。あるコメント投稿者は、事故のあった道を通っていて、改正道交法施行前も施行後も、変わらずに多くのひどい違反自転車が走っていると述べていました。

■取り締まり・罰則強化か

こんな状況でまず思うのは、取締りと罰則の強化です。しかし、どこまで自転車取締りに人員を回せるでしょうか。また、講習時間が倍になったり、罰金が倍になったからといって、どこまで違反を減らせるでしょうか。2倍ではなく10倍にすることも考えられますが、法的には他の違法行為とのバランスも考えなくてはならず、この問題だけ極端な厳罰化はできません。

そして現在でも、ひとたび人身事故を起こしてしまえば、請求される賠償額は自動車運転者と同じで1億円近い場合もあります。それでも、危険な自転車運転はなかなか減りません。

■人はなぜ違反行為をするのか

交通事故は、人間のミス(ヒューマンエラー)によっても起こります。とても注意して自動車や自転車を正しく運転していても、ミスによって事故が起きることもあります。

しかしミスではなく、意図的な違反行為(不安全行動)によって事故が起きることもあります。人はなぜ、そんなことをするのでしょう。安全が脅かされるにもかかわらず、意図的なルール違反が行われるのは、心理学的には次のような理由が考えられます。

  • ルールに同意できない、意味がないと感じる。
  • ルールを守るデメリットが大きい。ルール違反の結果得られるメリットが大きい。
  • みんなが平気でルール違反をしている。
  • 違反しても罰を受けないか罰が小さい。
  • ルール違反が習慣化している。

自動車の運転でも見られることですが、自転車の運転では、自転車も危険な乗り物だと感じられず、さらに多く見られることでしょう。

■自転車安全文化・スマホ安全文化を

法律だけで人の行動は変わりません。取り締まりも罰則も必要ですが、限度があります。自転車運転の危険と責任をきちんと認識し、警官がいないところでも、安全運転ができなければ困ります。

スマホの使い方も同じですね。「ながらスマホ」は自転車や自動車はもちろん歩行中も危険だとみんなが感じ、恥ずかしい行為だと感じて、安全に使えなければ困ります。

法律をきっかけに、大人も子どもも考え方や行動、態度をかえて、私たちみんなで「自転車安全文化」を作っていきましょう。スマートフォンを使いながらの運転はもちろんダメです。「スマホ安全文化」も作りましょう。

交通安全のためには、安全教育が必要です。子どものころからの歩行者としての安全教育、自転車の安全教育が、自動車の安全運転ドライバーを作ります。また自動車を運転するようになると、自転車の危ない乗り方がとても目に付きます。そこに気づいた大人たちが、正しい自転車の乗り方を示し、子どもの教育をしましょう。

法改正は、私たちの考えと行動を変える良い機会です。報道も増え、話題にも上がります。罰則も強まりました。それなのに、たかが自転車と考えて、結局「みんなが平気でルール違反をしている」ことになってしまったら、ますます意図的違反者が増る悪循環におちいりります。そんなことにならないように、家庭で、学校で、職場で、教育を進めましょう。

今が、「自転車安全文化」を作るチャンスです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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