妄想性障害とは:淡路島洲本市5人殺害事件から
■淡路島5人殺害事件容疑者は「妄想性障害」?
5人が殺害された大量殺人事件です。事件の背景はまだ不明ですが、ネット上で奇妙な書き込みをしていたこと、そして「妄想性障害」と報道されています。
精神鑑定など受けていないのに「妄想性障害」という具体的な診断名が報道されているということは、犯行前の医師による診断が妄想性障害なのでしょう。妄想性障害だから危険な犯罪を犯すわけではありませんが、診断名が出ている状態なのに犯罪を止められなかったのは、とても残念です。
一つの病名と犯罪を結びつけることは、大きな間違いです。ただ、偏見を減らし、報道を理解するための知識は必要だと思います。
■妄想性障害とは
妄想性障害は、あまり知られていない病名でしょう。妄想といえば、統合失調症を思い浮かべる人も多いと思います。妄想はあるけれども、他の統合失調症の症状はない、また統合失調症の妄想ほどは訳のわからない妄想である場合が多いのが、妄想性障害です。
妄想には、被害妄想、追跡妄想、誇大妄想、微小妄想、嫉妬妄想などがあります。
中年期に発病しやすい病気で、妄想は体系的であり、一つの世界観を持っていたりすることもあります。知的水準が下がることも、人格が崩壊することもありません。
妄想はあるものの、他の問題はないので、社会生活を普通に送ることもあります。ただ、その妄想のために、クレームの電話などをしばしばするようになれば、トラブルが起きることもあるでしょう。
治療を受けて、数ヶ月で妄想が消えていくこともあります。
■妄想と犯罪
妄想が犯罪に結びつくことは、残念ながらあります。被害妄想や恋愛妄想による犯罪例などがあります。
1999年に発生し、5人が死亡した「下関通り魔事件」では、一審では妄想性障害との精神鑑定結果が採用され、責任能力はあるものの、その力が弱っている心神耗弱状態とされました。しかし、最高裁では認められず、死刑が執行されています。
2008年に発生し2名が死亡した「元厚生事務次官宅連続襲撃事件」は、「愛犬のあだ討ち」が動機であり、弁護側は妄想性障害を主張しましたが、裁判では完全に責任能力がありとされ、死刑判決がでています。
このような事例はあるものの、妄想性障害と犯罪とを単純に結びつけることは間違いだと思います。ほとんどの患者は、殺人はもちろん、傷害事件も起こしていません。
■類似事件の防止のために
引きこもり状態の人、精神疾患の人が起こす犯罪はたしかにありあす。しかし、ほとんどの人はそんなことはしません。実際以上に危険視してしまうことは、防犯上、むしろ逆効果でしょう。
周囲からの偏見が強くなることは、家族が社会全体から引きこもることにつながります。病院へ行くことや、支援団体に相談に行くこと、地域の協力を得ることがさらに難しくなってしまうのです。
犯罪を犯せば、その責任に応じて制裁を受けるのは当然です。被害者を保護しなければなりません。しかし、危険性がある人を全員隔離することはできません。
警察や司法の力だけではなく、医学的治療と社会からの支援が、防犯につながるでしょう。