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大学講師、情緒不安定な女子学生の要求で全裸に:パーソナリティの偏りと人間関係の歪み

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(イメージ写真)

■大学講師、女子学生の要求で全裸に

大学構内で全裸になった男性講師のニュースで、続報がありました。

学長名で出された報告によると、講師は同大学の女子学生(21)と学内で顔を合わせた際に口論となり、「私に信じてほしいならば、ここで裸になってくれ」と要求されたことから、その言葉に従ったという。講師は独身で、半年ほど前から女子学生の親の同意の下、生活をともにしていた。

講師によると、女子学生は日頃より情緒不安定な面があり、感情が高まると突発的にどんな行動を取るか分からないことを知っており、素直に裸になった。

出典:大学講師、女子学生の要求で全裸に スポーツ報知 1月10日(土)

上記の記事に、Yahoo!オーサーコメントを書きました。

大学側の説明を聞いても、なお不明点は多い。想像できる一つのパターンとしては、次のようなものがある。

「女子学生は、能力もあり魅力的だとしても、パーソナリティの偏りなど何らかの原因により「日頃より情緒不安定」だった。このようなタイプの人は、しばしば甘え、暴力、自殺のほのめかしなど様々な方法で周囲を激しく振り回す。男性講師は、恋愛感情や彼女を守ろうとする思いから、これまでかなり無理な要求にも応じてきたが、今回とうとう破綻してしまった。」

真相は不明である。しかしいずれにしても、病んでいたのは二人の人間関係だったとは言えるだろう。男性講師による行動の動機は、善意だったかもしれない。しかし、「日頃より情緒不安定」な人を支えるためには、要求に従うだけではなく別の方法があったはずである。

(碓井真史2015/01/10 )

大学のホームページには、次のような説明もありました。

この学生は日頃より情緒不安定な面があり、当該講師の言葉によると、感情が高まると突発的にどんな行動を取るか分からず、彼女の言う通りにしないと収まらないということを経験的に知っており、その言葉に従ってしまったということです。

出典:本学非常勤講師による不適切な行動について(報告)大正大学2015/01/10

■極端なわがまま、トラブルメイカー:パーソナリティ障害

今回の事件の詳細は、不明です。女子学生のことも、大学が発表ししている以上のことはわかりません。ただ一般論ですが、世の中には極端な人々がいます。

人には様々な個性があり、それは良いことです。気が長くても短くても、にぎやかでも静かでもOKです。しかし、個性の範囲を超えたパーソナリティーの偏りを持つ人もいます。

たとえば、「パーソナリティ障害」と言われるパーソナリティの極端な偏り、歪みがあります。パーソナリティ障害にも、いくつものパターンがありますが、その中に、極端なわがまま、トラブルメイカーに人もいます。

「障害」という名前がついているとはいえ、一目で分かるものではありません。むしろ、能力が高く魅力的な人々もいます。しかし、心の底に強い不安、「見捨てられ不安」を持つ人がいます。

このために、様々な方法を使って人を操ろうとする人がいます。この人たちは、悪人ではないのですが、結果的にトラブルメイカーになってしまいます。

■男性講師はなぜ全裸になったのか

女子学生は魅力的だったのでしょう。二人は同居しています。あるいは、男性講師は何とか彼女を守ろうとしたのかもしれません。今回の件は詳細は不明ですが、しかしここまで大きく報道されなくても、似たようなケースはあります。

常識的には、言うことが聞けるわけがない無茶な要求です。でも、想像してください。あなたが無茶な要求を受ける。あなたは、その人のことを心配し、友人や家族や恋人として何とかその人を守りたいと考えている。その相手が言います。「言うことを聞いてくれなかったら、自殺する」「街で体を売る」「家をメチャクチャにしてやる」。実際に自殺未遂をしたり、暴力をふるうこともあります。

あなたは、「好きにしろ!」と言い放てるでしょうか。

■困った人を支えるために

今回の男性講師の行為を、仕方がなかったと認めるつもりはありません。結果的に、世間を騒がし、周囲の人にショックを与え、大学に迷惑をかけました。また女子学生にも関係者にも、良いことはありません。

一般論論ですが、パーソナリティ障害の人に振り回される人は、たいてい善人です。今回の男性講師も、評判の良いまじめな人だったようです。「見捨てられ不安」が強いタイプのパーソナリティ障害を持つ人は、悪意はありません。見捨てられないために、何とか相手に捨てられない方法を考えているのですが、それでも不安が消えないために、無茶なことを言ってくるのです。

その要求全てに答えることが良いのではありません。そんなことを続けて、気力が続かなくなったり、今回のように破綻してしまえば、結局は相手を助けることにもならないからです。

このような人々をつぶそうとして問題を悪化させるのも、逆に奴隷化して要求に従ってしまうのも、歪んだ人間関係です。

「最初はあなたが我慢と努力をかさね、何とか上手くいくかもしれません。しかし、疲れます。あなたが倒れれば、相手も倒れます。境界性パーソナリティーの人を助ける最も良い方法は、「普通の人間関係を長く続ける」です。」(「パーソナリティ障害の人とのつきあい方」:Yahoo!ニュース個人有料「心理学であなたをアシスト!:人間関係がもっと良くなるすてきな方法」)

20世紀は自分を責めるタイプの神経症(ノイローゼ)の時代でしたが、21世紀は周囲を巻き込むパーソナリティ障害の時代かもしれません。パーソナリティ障害を理解し、共に生きていく方法を学ぶことは、これからの私達の課題なのかもしれません。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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