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安楽死、尊厳死、自殺:自ら死ぬことは許されるのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
私たちはそれぞれの人生を進んでいる。

■安楽死予告の女性死亡

インターネット上に自らの安楽死を予告していたアメリカ人の女性が、死を選択した。

医師が処方した薬を服用し、死亡したのは、脳腫瘍を患い、余命半年を宣告されていた29歳のアメリカ人女性ブリタニー・メイナードさん。人間の生と死をめぐる議論は、さらに広がるとみられる。

出典:「安楽死宣言」の米女性死亡 「尊厳を持って死ぬことを選ぶ」 フジテレビ系(FNN) 11月3日

以前から「安楽死」の予告をしていた女性が亡くなりました。自宅のベッドで、家族や友人に見守られてでの死だったと報道されています。この出来事は世界中に報道され、様々な意見が寄せられています。

安楽死に関連して、尊厳死とか自殺とか、さまざまな言葉が使われています。

■尊厳ある死・尊厳死とは

人には、どんな場合も、「尊厳ある死」が必要です。それが病室であれ、戦場であれ、どこであれ、尊厳ある死が必要です。「尊厳ある死」という意味の「尊厳死」であれば、大多数の賛同が得られるかと思います。しかし、いわゆる「尊厳死」については賛否両論です。何が「尊厳ある死」なのかは、人によって考え方が異なるからです。

戦場では、捕虜になるぐらいならと自ら死を選んだ日本軍兵士もいます。最後まではいつくばってでも生きようとして戦死した人もいます。アメリカ軍兵士なら、捕虜になったあとは、脱走計画を立てろと教育されていました。それは、敵軍を混乱させることにもなり、また生きる意欲にもつながるからです。

病室や自宅で亡くなるにしても、どのように亡くなるのが、本当に「尊厳ある死」なのかは、様々な意見があるでしょう。

日本尊厳死協会のQ&Aによれば、「尊厳死」について次にように説明しています。

「尊厳死とは、不治で末期に至った患者が、本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断わり、自然の経過のまま受け入れる死のことです。」

■尊厳死、安楽死、自殺

「日本尊厳死協会」は、かつては「日本安楽死協会」という名称でしが、1983年に「日本尊厳死協会」に改名しています。以前は尊厳死という言葉はあまり使われず、「安楽死」という言葉の方が一般的だったかと思います。

日本尊厳死協会では、安楽死と尊厳死の違いについて、公式サイトのQ&Aで、次のように説明しています。

「尊厳死は、延命措置を断わって自然死を迎えることです。これに対し、安楽死は、医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めることです。どちらも「不治で末期」「本人の意思による」という共通項はありますが、「命を積極的に断つ行為」の有無が決定的に違います。協会は安楽死を認めていません。」

一般的に行われている自殺予防活動等では、尊厳死、安楽死の問題はほとんど語られないかと思います。尊厳死安楽死問題とは別に、「自殺は止められるし、止められるべき死」として予防活動が行われています。

自殺は、心理学的に言えば「社会的に追いつめられた末の死」です。安楽死や尊厳死が、こんな死では困ります。

自殺予防活動に対しても、一人ひとりの意見を聞けば賛否があるでしょうが、公の場で自殺しても良いと語る人は、ほとんどいないでしょう。安楽死、尊厳死に関しては、公に語られる意見も様々です。

今回のアメリカ人女性ブリタニーさんのニュースに関しては、大手のメディアは「安楽死」という言葉を使っています。一部ネット上では「尊厳死」という言葉を使っているところもあって、やや混乱が見られます。

彼女のこうした決断を可能にしたのは、アメリカの5州(オレゴン、ワシントン、バーモント、モンタナ、ニューメキシコ)で成立している尊厳死法です。〜

しかしアメリカの場合は、今回メイナードさんが選んだような「命を短縮させる意図をもった積極的な安楽死」も尊厳死として認められているのです。これは延命措置を行わない、という行為とは明らかに違います。アメリカ人のなかにも、「安楽死は自殺ほう助ではないか」、「末期患者にかける医療費を節約しようとする悪意の法律ではないか」、という意見があるほどです。

出典:尊厳死を選んだアメリカ人女性は今?日本で尊厳死は認められるか Mocosuku Woman 11月1日

アメリカでは、尊厳死と安楽死をあまり区別しないこともあるようです。彼女と周囲の行動は、州内では合法ですが、今回の出来事に関してはアメリカでも様々な意見があるようです。

日本での言葉の使い方を用いれば、尊厳死ではなく安楽死かとも思うのですが、さらに安楽死の要件すら満たしていないという意見もあります。彼女は思い病気と苦しい症状を持っていたとはいえ、穏やかに世界に話しかける状態ではありました。日本でも、この状態での「安楽死」は、安楽死とさえいえず、単なる自殺幇助だという専門家のコメントも報道されています。

社会の中では、様々な人が生きています。若い人も、かなりの高齢者も。健康な人も、難病の人も、思い障害を持っている人も。人は、その時々に、自分の個性と能力を生かした「ウェルビーング」な状態になれるのではないかと、私は思っています。

ウェルビーイングは、自分の能力、自分らしさが、十分に発揮されている状態です。〜生活全般の「包括的適応」へつながる考えです。

ウェルビーイングとは、健康的に一生懸命がんばっている状態とも言えるでしょう。〜義務感や恐怖や不安からではなく、その時々に自分の能力を十分に発揮してがんがっている状態です。

出典:ウェルビーイングの心理学:Yahoo!ニュース個人有料「心理学であなたをあしすと」

苦しみの中にいる人に、それを実現しろとは言えませんが、でもたしかに実現している人はいるでしょう。

■死を選ぶ権利

医学が進んだ現代だからこそ難しい問題です。尊厳ある死は大切であり、「尊厳死」については様々な意見があり、尊厳死を考える際の「延命措置」や「終末期」が具体的に何を指すのかも微妙な部分があり、「尊厳死法案」にも様々な意見があるでしょう。

さて、一般論としての個人の意見ですが。

私は、自殺を予防したいと思います。

しかし、誤解を恐れずに言えば、人は自らの死を選ぶ権利は持っていると考えています。

自殺はとても残念な死だとは思いますが、自殺した人を責める気はありません。尊厳ある死のための法整備や議論、リビングウィル(生前に過剰な延命措置に対する意思を記録していく)の活動はもちろん大切だと思っています。

しかし、それでも私は言いたいと思います。

「私たちは自ら死を選ぶ権利を持ってはいても、その権利を行使しません。積極的に自ら死を選ぶ行為を選択はしません。」

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今回のことで、尊厳ある死についての議論が深まることを願っています。

今回の報道で、安楽死、尊厳死の誤解が広がったり、自殺が増えることなどがないように祈っています。

日本尊厳死協会

自殺予防総合対策センター

・NPOがんサポートコミュニティー

・NPOがん患者団体支援機構

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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