日本は自画自賛症候群?:東京新聞とACジャパン「おとなもほめよう」と承認欲求と傷付くことへの不安

東京新聞の記事とACの広告:ほめるのは良いこと?悪いこと?

■自画自賛症候群

 近ごろ、本屋に立ち寄ると、気恥ずかしくなる。店頭に「日本人はこんなにすごい!」という「自画自賛本」が平積みにされているからだ。この国から「奥ゆかしい」とか「謙虚」といった感覚が急速に消えていっているように感じる。だが、そうした違和感を口にすると、どこからか「自虐だ!」という悪罵が飛んできそうだ。いったい、これは何の表れなのか。日本社会の美徳が崩れてはいないか。

出典:近ごろ日本を覆う「自画自賛」症候群は何の表れか:東京新聞2014.7.30

東京新聞のこの記事をもとに、ネッ上でも「自画自賛症候群」が、話題になり、先日8月12日のFM東京の報道番組『タイムライン』でも取り上げられました。

私も、「日本にあふれる自画自賛症候群への警鐘」とのテーマで、元経産官僚の岸博幸さんと15分ほど対談いたしました。今回は、番組内で話したことや、話しきれなかかった内容を、お送りしたいと思います。

■ACジャパン「おとなもほめよう」2014全国キャンペーン

大人になると子どもの時のようにはあまり褒められません。けれど、褒められるとやる気になったり、自信が持てたりします。それはきっと、自分の頑張りをちゃんと見てくれていた人がいるって気づくことができるからなのではないでしょうか。毎日「あたり前」に頑張っている大人こそ、もっと褒めようとシンプルなメッセージで訴えます。

出典:ACジャパン「おとなもほめよう」2014全国キャンペーン

ACジャパンも、テレビ、ラジオ、新聞広告で、「おとなもほめよう」というキャンペーンを行っています。

■なぜ「ほめる」ことが流行っているのか

日本人は、もともとあまりほめ上手ではありませんね。家庭でも、職場でも。昔はそれでもスムーズに進んでいたのでしょうが、近年は若者気質も変化しています。社会全体が変化しています。

学校でも、職場でも、ほめることが重視され始めています。

最初はちょっとてれくさいでしょうが、上手にほめ合うことが定着し、それが社内文化になって動労意欲とチャレンジ精神が増せば、良い効果を上げることもできるでしょう。

口でほめ合うだけではなく、ヤマト運輸の「満足ポイント制度」、ディズニーリゾートの「スピリット・アワード」、日本航空の「サンクスカード」など、様々な企業がそれぞれの工夫を凝らしています。

小学校でも、相手を傷つける「ちくちく言葉」ではなく、相手を思いやる「ふわふわ言葉」を使おうという指導があります。子どもたちが自然にやさしい言葉を使えるようになって、もっとのびのび活躍できようになれば、とても良いことでしょう。

■ほめることは、良いこと?悪いこと?

ほめる」ことは、もちろん良いことです。心理学では、人も動物も基本的には罰ではなくて「報酬」によって動くと考えられています。自虐よりは、ほめることの方が、よほど良いでしょう。

人は、努力が報いられる(適切な報酬が得られる)環境でやる気を出します。いくらがんばっても報酬が得られなければ、やる気は下がるでしょう。

しかし同時に、実はまったく頑張らなくても報酬が得られる状況でも、やる気は下がります。努力する必要がなくなるからです。ほめることも、幼児なら何でもほめてあげれば良いですが、青年がやたらとほめられれば、「バカにするな」と怒りたくなることもあるでしょう。

ほめるときには、タイミング良くほめることが必要です。

■自画自賛は良いこと?悪いこと?

「自画自賛」とは、自分で自分のことをほめること。本来は、自分の描いた絵は他人がほめてくれるのに自分でほめるという意味、手前味噌(てまえみそ)という意味になり、「うぬぼれ」というニュアンスが含まれます。

ほめることは良いことですが、自画自賛は、あまり良い意味では使われませんね。

自画自賛したくなる心理を考えると、子どもじみた万能感や、相手への甘え、あるいは自信のなさの裏返しなどが考えられます。

■承認欲求

もっともっと認めて欲しい」という承認欲求が強すぎるのではないかとの指摘もあります。人に承認欲求があるのは、当然です。自分の努力が認められないのは悲しいし、人に喜んでもらえるのが嬉しいのも当然です。

ただし、承認欲求が不健康に強すぎると、自分らしさありのままの姿を犠牲にしてでも、人に認めてもらおうとしてしまい、かえって不幸になることもあるでしょう。

■防衛白書、経済白書、首相演説でも、自画自賛的な表現がある?

防衛白書、経済白書、首相演説でも、自画自賛的な表現があるという意見もあります。これも、今の流行に乗ったとも言えるかもしれませんが、失われた20年ですっかり自信をなくした日本人を鼓舞する意図で使われている表現かもしれません。

おじさん達から見れば、若者たちに、もっとしっかりしろ、日本は良い国で、希望にあふれているぞと、ハッパをかけたくなるのかもしれません。

「戦後教育の中でなおざりにされてきた日本人としてのアイデンティティー育成」という発想もあるかもしれません(高校に「近現代史」新設 文科省検討 産経新聞 8月17日)。

■サッカーワールドカップ日本代表への賞賛

残念ながら惨敗したワールドカップ。日本のようにまったく勝てなかった国々の代表選手たちは、帰国を冷たく迎えられました。韓国では、ずいぶん手厳しい歓迎がされました。国によっては、出迎えのサポーターががほとんどいないところもありました。

ところが、日本では大勢のファンが熱狂的に出迎えて、「感動をありがとう」といったプラカードが見られました。選手達は、みんなうつむいて険しい表情だったのに。

帰ってきた選手を責めたり侮辱する必要はないでしょうが、この大歓迎には違和感をもった人も多かったようです。「自分たちのサッカー」ではだめだという批判もありました。

この歓迎ぶりを見ると、今の日本の「自画自賛」は、「自分で自分をほめる」というよりも、「自分たちで自分たちをほめる」ように感じられます。それは、自分が傷つけられたくないから、人も傷つけないと考えているからかもしれません。誰かをほめることで、自分のこともほめているのかもしれません。

■とてもやさしくなった日本人

かつての日本では、「ばかやろー! やめちまえ!」なんて言葉にあふれていました。この言葉は、本当に辞表を出せという意味ではなく、叱咤激励の言葉なのですが、今や禁句でしょう。

現代の日本人、特に若者たちは、前の世代に比べてお互いにほめあいます。とてもやさしい人たちに思えます。自分を肯定する、相手を肯定する、良い所をみつけてほめる。すべて良いことです。しかし中には、傷つくこと、傷つけることを、必要以上に恐れている人もいるように思います。

ほめ合うこともできる、同時に、はげしく議論を戦わせることもできることが必要ではないでしょうか。

■自信のない日本の若者

日本の子ども若者は、素晴らしい人たちです。他の先進諸国と比べれば、学力も高く、悪いこともしません。ところが、国際調査でいつも出てくる結果が、日本の若者の自信の低さ、自己肯定感の低さです。将来に希望のない若者が増えています。

やさしくほめ合い、時に大人から見れば、生意気に見える若者の、どこが自信がないんだと感じる中高年もいますが、日本の子ども若者の自己肯定感、自尊感情は、とても低いのです。

だから、その反動で、ありのままの姿で生きると歌う「アナと雪の女王」が大ヒットしたのかもしれません。

みんなの力で、日本の子ども若者の可能性を伸ばしたいと思います。

■自信のなさと自画自賛と謙虚

自信のなさが、高圧的な態度を生むことがあります。弱い犬ほどよく吠えます。プライドは高いが自信がない若者が、他者をバカにして歪んだ優越感を得ようとします。一方、自信のなさが、本当のやさしさではなく、傷の舐め合いのような奇妙なやさしさや、悪い意味の自画自賛を作り出すこともあるでしょう。

東京新聞は、謙虚や奥ゆかしさといった日本の美徳はどこに行ったと述べていますが、謙虚で謙遜な人は、自己肯定感が高い人なのです。奥ゆかしさとは、自分の価値を信じている人が、他人の価値をも重んじている態度なのでしょう。

自己肯定感が低い人は、謙遜ではなく自己卑下的な態度を取ってしまい、人々から嫌われます。

■優しさと厳しさで成長を

自己肯定感の高い人、つまりありのままを受け入れた人は、他者からの評価や傷つくことを恐れず、自分の力を試したくなります。他者からの批判も、挫折さえも、心のエネルギーとして、心のバネとして、さらに飛躍するのです。

自己肯定感(自尊感情)を高める方法の一つは、自分は頑張ることができる人間だという勤勉性の感覚を身につけることです。ちやほやされているだけでは、困難や逆境を乗り越えてこそ味わえる勤勉性感覚や達成感を得ることができません。

本当に疲れきっている人にとって、やさしい癒しは必要です。同時に、さらに成長していくためには、自画自賛から抜け出すことも必要ではないでしょうか。

アニメの「ドラえもん」は、自信のないのび太をほめて、認めて受けれて、傷つい心を癒します。同時にのび太を甘やかさず、冒険させます。そして、のび太が大人になったとき、ドラえもんは未来へと帰っていくのです(ドラえもんは、いつ未来に帰ってしまうのか:STAND BY ME:ドラえもん最終回問題への解答)。

私たちも、だれかの「ドラえもん」になりたいと思います。

人には、やさしさと共に、厳しさと冒険が必要なのです。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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