『半沢直樹』倍返しを真似ず戦う姿勢に学ぼう:人間関係に正しく勝つ心理学的方法
■ドラマ『半沢直樹』:倍返しだ!・最終回に向かって10倍返し、100倍返しだ!
TBSのテレビドラマ『半沢直樹』(主演:堺雅人)が絶好調です。番組は、選挙と世界陸上による2回の休みを乗り越え、視聴率30パーセントを越え、第9話(9/15)の平均視聴率が35.9%、瞬間最高視聴率はついに40.1%を記録しました。
主人公半沢直樹も、屈辱的な土下座を乗り越え、上司からの攻撃をはねのけ、倍返し、10倍返し、最終回(9/22)の100倍返しへと、期待は高まります。
今や、NHKの『あまちゃん』と並んで、ひとつの社会現象。ロケ地も大賑わいです(「半沢直樹」ロケ地が観光名所化 ウハウハ来客1・5倍返し)。最終回の視聴率もどこまでいくか、気になります。
とは言うものの・・・
■「半沢直樹」原作者「半沢の真似はしない方がいい」
もちろん、これはドラマだと視聴者はわかっています。ドラマでは、正義の味方は必ず勝ちます。しかし、現実はドラマのような幸運はなかなかありませんし、私たちは半沢直樹のように完璧にはできません。
「半沢の真似はしない方がいい」のは会社だけではなく、どの人間関係でも同じでしょう。
■攻撃は本能。でも倍返しは人間特有
動物も攻撃はします。しかし動物の本能的な攻撃は、必要な分だけの攻撃をします。なわばりを荒らすものがいれば、攻撃をして追い出しますが、さらに追いかけて攻撃し続けることはしません。そんなことをしてなわばりを留守にすれば、他のものになわばりを取られるかもしれませんし、必要以上に追いかけて自分がケガをすれば、自分の命に関わります。だから、不必要な攻撃はしないのです。
でも、人間は違います。やられた悔しさから、「倍返し」を考えてしまいます。そこで古代の「ハムラビ法典」では、倍返ししないように、「目には目、歯には歯」と、倍返しではなく、やられたぶんだけやり返して終わるように定められました。
■威嚇の効果:ゲーム理論
動物でも、かみつくぞと牙をむせるだけで相手が逃げてくれれば一番です。人間も「倍返しだ」と威嚇して、悪者が意地悪してこなければいいですね。でも、心理学の「ゲーム理論」の研究によれば、互いに相手を強く威嚇し続け、自分だけが得をしようとすると、結局両方とも上手く行かなくなる「共貧状態」に陥るとされています。
やられたらやり返す「しっぺ返し」戦略は、状況によっては上手く行きますが、相手よりも高得点をとることは、なかなか難しいようです。
また会社としては、その個人だけが儲かっても仕方ありません。会社全体の利益となり、同時に正しくがんばった人が利益を得られるような、協調的人間関係、ルール作りが必要でしょう。
■倍返ししようとすると
侮辱された、いやみを言われた、怒鳴られた、ひどいことをされたとき、私たちは仕返ししようとします。しかし、あなたを攻撃してくる人は、実に巧みです。上手です。悪口やいやみの名人です。言い返そうとしても、逆にもっとひどい、失礼なことを言われて、やられます。
そこで、やられないように「倍返し」をするとどうでしょう。たぶん相手からは、4倍返しです。たとえ、今回5倍返しぐらいでやっつけたとしても、相手は善人ではないので落ち込んだり反省したりしません。恨まれるだけです。次の機会に、相手から10倍返しされるでしょう。
10倍返しされないように、相手を失脚させ、追い出せればよいのですが、それが上手くいくのは、ドラマの世界です。あなたは、その嫌な相手と付き合い続けます。10倍返しでやられます。
それならこちらも10倍返しでやっつけようとするとどうなるでしょう。悪口には悪口、いやみにはいやみ、罠には罠といった具合に相手と戦い続けるとどうでしょう。正義の味方としてかっこよく戦い続けられれば良いのですが、たぶん周囲から見れば、似た者同士の醜い争いに見えるでしょう。
あんなに軽蔑していた嫌な相手と、同じような人間になってしまいます。
■正しい人間ほど傷つく:相手にギャフンと言わせようとして
傷つくのは、いつも正しい善人です。私が、詐欺師で人をだまそうとしてだませなくても、私はそれほど傷つきません。次のカモを探すだけです。ところが、私が善人で正しい人で、世のため人のため、会社のために、一生懸命がんばっているのに、認められず、かえってひどい目にあったりしたらどうでしょう。激しく傷つきます。猛烈に怒りたくなります。この強い怒りは、心理学的に見れば、悲しみの爆発、「自己愛憤怒」です。
正しい人、賢い人ほど、悪い相手を「ギャフンと言わせたい」と願います。それはかなり強い心の誘惑です。相手にギャフンといわせれば、自分の心は癒されますし、それこそが会社のため、みんなのためであり、それこそが正義です。
けれども、相手はしぶとい。あなたのは違って、平気で嘘もつくし、上にこびるし、卑怯だし、それなりの力や器用さも持っています。善人のあなたが戦うには分の悪い相手です。
何とかしなくてはいけないのですが、冷静さをとりもどしましょう。正面衝突はさけましょう。賢く対応しましょう。あなたの正しさは、見る人が見ればわかります。
「わかってくれている人がいる」と言う感覚が、人に癒しを与え、勇気を与えます。孤独に戦ってはいけません。同じ土俵では戦ってはいけません。正面きって戦ってはいけませんが、負けてしまっても困ります。負けてしまわないように、共感してくれる仲間を作り、時間をかけて改善を図りましょう。
半沢直樹も、悪に巻き込まれて悪人にはなりません。仲間を大事にして戦います。ただ、現実はドラマよりも時間がかかるのです。
■半沢直樹から学ぶこと
小説やドラマから感銘を受けても、そのまま真似する人はいません。子どもがスーパーマンのように屋根から飛び降りては困ります。でも、主人公の勇気と正義の心、ドラマの精神は学べるでしょう。
半沢の不正と戦う姿勢、人間関係を大切にする仕事ぶり、冷静な判断、綿密な計画、大胆な行動、ドラマのままに真似するわけではありませんが、学ぶことはたくさんありますね。
「お前だって変わってないよ。一生懸命戦ってるじゃないか。肩書きや居場所が違っても、お前はお前だ。」(8月25日放送第6話)
戦いを忘れてしまった私たちに、自分らしさを失ってしまった私たちに、半沢は勇気を与えてくれます。
現実の世界で人間関係に勝つとは、相手をギャフンといわせることではありません。あなたの誠実さ、まじめさ、明るさなど、あなたらしさを失わないことなのです。やられてもやり返さずに勝つ方法を学びましょう。困った人と上手く付き合い、悪者に負けず、みんなが幸せになるためには、あの手この手が必要ですね。
そして現実にはなかなか見られない、時代劇的な勧善懲悪のストーリーは、私達の気持ちを癒し、スッキリさせてくれます。
がんばれ! 僕らのヒーロー、半沢直樹!
*最終回を視聴しての補足(9/22.23:00)
テレビドラマTBS日曜劇場『半沢直樹』は、復讐の物語ではなく、許しの物語でした。でも、その許しは優しい許しではなく、冷静な大人の許しでした(続編がとても楽しみです)。
*『半沢直樹』最終回視聴率発表をうけての補足(9/24.19:00)
TBS日曜劇調『半沢直樹』最終回は視聴率42.2%の驚異的な記録を残し、今世紀最高視聴率である『家政婦のミタ』(40.0%)超えを果たした。
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