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漫画家佐渡川準さん自殺報道:自殺連鎖と夏休みの子ども自殺予防

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
夏休み。子どもの心を不安定にする報道をしないでほしい。(写真 pro foto)

■漫画家・佐渡川準さん自殺か 代表作「無敵看板娘」

13日午前5時ごろ、茨城県利根町中谷の利根親水公園で、東京都小金井市、漫画家佐渡川準(本名・川人睦〈むつみ〉)さん(34)が、首をつった状態で死亡しているのを発見された。通りがかった男性(60)が110番通報した。茨城県警取手署は現場の状況から自殺とみている。

出典:Y!ニュース:朝日新聞社 8月13日(火)18時20分

漫画家佐渡川準さん:新人漫画家賞受賞、『週刊少年チャンピオン』『無敵看板娘』にて連載デビュー。現在同雑誌にて『あまねあたためる』連載中。その他の作品として『無敵看板娘N』『PUNISHER』『ハンザスカイ』など。

■漫画家佐渡川準さん自殺報道

週刊漫画雑誌に連載中の現役漫画家、佐渡川準さんの「自殺報道」が流れています。代表作『無敵看板娘』はアニメ化もされています。多くのファンが楽しんだことでしょう。Yahoo!のトップページに載るほどの話題です。マンガファン、アニメファン、この雑誌を読んでいる子どもたちには、大きなショックでしょう。

佐渡川準著『無敵看板娘 』1 (少年チャンピオン・コミックス)
佐渡川準著『無敵看板娘 』1 (少年チャンピオン・コミックス)

動機など詳細については不明です。心からお悔やみを申し上げます。

ただ、有名な方の自殺報道は、個人的な出来事では済みません。特に子どもにとっての有名人の自殺です。配慮が必要でしょう。子どもの自殺は、統計上の数で言えば大きな数字ではありません。しかし、未来ある子どもの自殺は、何としても防がなくてはなりませんし、周囲にとても大きな衝撃を与えます。

■自殺連鎖

大きな自殺報道、センセーショナルな自殺報道の後は、連鎖するように自殺が増えることがあります。不用意な自殺報道は控えなければなりません。

心理学の研究、自殺予防の研究によれば、詳しすぎる自殺方法の報道、自殺現場などを繰り返し報道する、自殺の動機を単純化した報道、自殺を美化するような報道は、自殺連鎖を生みかねません。大きな自殺報道をするときには、同時に自殺予防に関する情報も報道すべきです。

自殺された方と似ている人、自殺報道によってショックを受けている人は、特に要注意です。

■子どもの自殺

子どもは、大人から見ると些細な理由で自殺を試みます。

小さな理由で、衝動的に、確実な方法で自殺を試みるのが、子どもの自殺の特徴です。思春期の子どもたちは、影響を受けやすいのが特徴です。心が不安定になるのが、思春期です。

前から悩んでいる子ども、熱烈なファンでショックを受けている子は、みんなで見守りましょう。一声かけましょう。「自殺予防」はとても大切ですが、自殺予防と難しく考えなくても、ちょっと注意して見守る、一声かけることが、結果的に自殺予防につながります。

「死にたい」「消えたい」「やめたい」「遠くに行きたい」「自殺はなぜわるいの?」「人はどうして生きなきゃいけないの?」。このような言葉は、自殺のサインと考えましょう。

ただ、サインはなかなかわかりません。特に子どもの場合は。だから、目をかけ、声をかけましょう。

(佐渡川準さんも、8月11日までツイッターへの投稿を続けていますが、ここから何かのサインを感じとることは、ほとんどできないでしょう。)

■騒ぎすぎず無視もせず:「君は大切な子」と伝えよう

はっきりと自殺のサインを出してくれれば、当然きちんと対処すべきです。ただ、よくわからないときが多いでしょう。たしかに、大人がヒステリックに騒ぎすぎることは、子どもとの信頼関係にひびを入れるでしょう。

しかし、騒ぎすぎより悪いのは、無視することです。ネガティブな発言、死や命に関する質問は、自殺のサインになり得ます。またもちろん、そうでないことも多いでしょう。でも、自殺のサインではないとしても、子どもは何かを感じているからこそ、あなたにそんな言葉を投げかけています。

どうぞ、無視しないで下さい。「無視」ではないけれど、どうしたら良いかわからなくて、結局見て見ぬふりをしてしまう大人もいます。特別な言葉など考えなくて良いと思います。何でもいいすから、ともかく、一声かけましょう。「君を見ているよ」というメッセージを届けましょう。「君は大切な子どもだよ」と、みんなで伝えましょう。

■夏休みだからこそ

今は夏休みです。子どもたちも家にいて、テレビを見ています。漫画家佐渡川準さんの死に、ショックを受けている子もいるはずです。ファンの思いは、他の人にはわからないほど熱烈です。子ども、思春期の子なら、なおさらです。

番組制作者、記事の執筆者には、特段の配慮をお願い申し上げます。

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いのちの電話

NPO法人 国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター

自殺予防総合対策センター

こども110番

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『たいせつなきみ』(絵本) マックス・ルケード著 いのちのことば社

『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』 碓井真史著

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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