水害と逃げ遅れとパニックの災害心理学:命を守る行動を:正常性バイアスの心理
今年も、各地で豪雨のニュースが続いています。今日(7.28)も、”山口・島根、経験のない大雨 気象庁「命を守る行動を」””東北~西日本 引き続き大雨警戒 月曜は特に北陸を中心に”と報道されています。危険からは逃げなければなりません。しかし、水害は逃げ遅れの出やすい災害です。
パニックと逃げ遅れ
災害発生時には、よく「パニック」が話題になります。たしかに、落ち着いて逃げれば大丈夫なのにパニックでけが人が出たら大変です。しかし、実際はパニックによる被害者よりも、逃げ遅れによる被害者の方が多いのです。
人はなぜ逃げ遅れるか
コスト
災害は怖いですが、でも、人間このままで良いならこのままが良いと思うものです。なぜなら、逃げるには「コスト」がかかるからです。コストとは、お金のことだけではありません。逃げるには、手間もかかるし、体力もいります。逃げることに恐怖や不安を感じることもあります。
コストが大きいほど、避難行動は遅れがちになります。
高齢者は、体力の衰えなどから、避難が大変になります。高齢者だけでなく、赤ちゃんがいる家庭や障害をもつ人がいる家庭などは、同様に避難のコストが高くなり、避難が遅れやすくなります。
正常性バイアス
あなたの会社や学校で非常ベルがなったとき、あなたはどうしますか? すぐに冷静で迅速な避難行動の準備を始めるでしょうか。いえ、たいていは様子を見るのではないでしょうか。非常ベルは誤報も少なくないからです。ビル火災はめったに起きません。自分のいる場所で、大きな災害など起きないだろうと人は思ってしまうのです。
体の病気などもそうですが、たいていの人は、多少の異常を感じても「きっと大丈夫」と思います。物事は正常に進んでいると、人は思いたいのです。実際は危険を示すことを見聞きしたり、感じたりしても、そんなはずはないだろうと、偏った(バイアスのかかった)見方をしてしまうのです。
楽天的な考え方自体は、たいていは良いのですが、本当の危険が迫っているときには要注意です。
水害の特殊性
伊豆大島で火山の噴火があったときには、見事な避難行動が見られました(1986年)。関係者一同の努力の賜物ですが、同時に、危険がわかりやすいこともあったでしょう。島中から噴火を始めた三原山が見えました。
これにくらべると、水害は本当に身近に迫らないとわかりにくいものです。東日本大震災のときには、津波がすぐそこに迫っているのに気づかない人々がたくさんいました。
洪水も同様です。水害は、気づきにくい災害なのです。
大雨の中で避難するのもコストが高くなります。ずぶぬれになるのは嫌ですし、豪雨の中を歩くのは危険もあります。実際に避難の最中に命を落とした方もいらっしゃいました。そう思うと、必要な避難も遅れがちです。
それでも例年水の被害があるような地域は、すばやい避難もできるでしょう。しかし、今まで経験をしたことがないような豪雨、記憶に残る限り初めての水害といった地域では、正常性バイアスが働き、避難が遅くなるでしょう。
水害は逃げ遅れが出やすい災害だとまず理解することが、適切な災害対策につながるでしょう。
災害弱者
避難するのに苦労が多い人は、災害弱者です。取り残されやすくなります。赤ちゃんをかかえて、遠慮して避難所に行かない人もいます。自分はここで死ぬ、家から離れたくないと語る高齢者もいます。
心理学の研究によれば、高齢者は五感が弱っているために危険を察知しにくいという面もあります。また、テレビが見えなくなれば、インターネットも使えず情報にアクセスできない高齢者もいるでしょう。視覚障害、聴覚障害、外国人も、情報が遅れがちです。
強者が弱者を助けましょう。(みんなが慌てふためいているとき、高齢者の一言でみんなが冷静さを取り戻したといった例もありますが。)
命を守る行動を
何がその時にもっともふさわしい行動かは、簡単には判断できません。気象庁が発表しているように、「これまでに経験のないような大雨になっている。命を守る行動を取ってください」。パニックにもならず、逃げ遅れることもないように。
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