「映画参加者人口」コロナ前から30%減、データでみる映画市場の現在

(写真:PantherMedia/イメージマート)

世界に先駆けて復興していたが

日本の映画興行市場は、世界各国の映画興行市場と比べるといち早く盛り返していた。昨年6月、欧米で映画館の閉鎖が続くなか日本ではいち早く営業が再開され、秋には『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』があらゆる記録を塗り替える奇跡の興行となった。しかし現在は、延長された緊急事態宣言下で、映画館は地域によって座席販売数や営業時間の制限を受けており、復興は足踏み状態となっている。

新型コロナウイルスの影響を受けて市場が変動するなか、一般の人々から成る映画市場の構造の変化をマーケティングリサーチデータを用いて棚卸を行った。それを踏まえ、映画興行の復興とさらなる発展について考えたい。

減少が続く「映画参加者人口」

過去1年間に1本以上映画館で映画を見ると回答した割合を「映画参加率」、またそう回答する人の規模を「映画参加者人口」と呼ぶ。この値が下がり続けている。全国に住む15歳から69歳の男女の中でこの「映画参加率」は、2020年初頭から5月まで30%台で推移していたが、その後一貫して減少し、今年の5月時点では23%まで落ち込んだ。

全国に住む15歳から69歳の「映画参加者人口」では、新型コロナウイルスの影響が出てきた2020年3月と直近の2021年5月を比べると30%減少している。

劇場での映画鑑賞は、習慣性のある消費行動である。そのため、映画ビジネスでは作品の興行収入ポテンシャルや作品認知度、鑑賞意欲度を測るために、「過去1年間に映画館で映画を1本以上見た人」を市場の母体としておいて分析することが多い。そして現在、この母体の規模が減ってきているということだ。

危機意識の高いシニア層の参加率減少が続く

「映画参加者人口」を性年代別でみると、男女ともに50代、60代は一貫して減少している。一方で、男女ともに10代から40代までは下げ止まっているほか、女性10代など、上昇している年代もある。若い人ほど再び映画館に足を運んでいるが、一方で新型コロナウイルス感染に対する危機意識の高いシニア層が下がり続けていることが分かる。

「映画館好き」も減少

「映画参加者人口」を映画館での鑑賞本数別にみると、1年間に1~2本映画館で鑑賞するライト層だけでなく、3本以上鑑賞するミドル層、ヘビー層も減っている。営業時間の短縮や自粛意識により、見る作品を選別せざるをえないことに加え、ハリウッドメジャースタジオの作品を中心に大作の供給本数が少なくなったことも影響しているのだろう。

ジャンル別では、「アニメをよく見る」は踏みとどまり「映画参加者人口」の中で大きな存在に

ジャンル・タイプ別に「映画参加者人口」の中での鑑賞選好(そのジャンルをよく見る、その映画のタイプをよく見る)人の割合の推移をみると、全体的に減少傾向にあるが、アニメは伸びている。邦画、洋画、アニメというくくりで比べると、「映画参加者人口」内での鑑賞選好度合いは、コロナ前は邦画、洋画、アニメの順だったが、いまは邦画、アニメ、洋画の順番だ。

ただし、「映画参加者人口」自体が減少している点に注意したい。「映画参加者人口」内では割合が増えていても、絶対数としては、アニメも昨年1月と比べると14%減少していると推計される。

市場の大きな変化を踏まえた復興

今後、ワクチンの浸透や感染拡大抑止が成功すれば、「映画参加者人口」が減少しているシニア層の意識も変わり、全体の巣ごもりからの「解放」感から、映画館に行ってもよいと思う人も増えるだろう。そして、延期されていた大作が公開されていけば、人々は劇場に向かうはずだ。

しかし、コロナ禍で生活習慣や映像視聴行動にも変化が見られるなか、既述のとおり、「映画参加者人口」の規模は減少しており、構造も変化している。市場を元通りにするためには足が遠のいた人にも戻ってきてもらうことが必要だが、一つの作品での成功では足りず、継続的に取り組まねばならない。総興行収入が400億円を超えて歴代1位となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』をもってしても、減少傾向にあった「映画参加者人口」は増加に転じてはいない。個別の作品に限らない、そしてジャンルを問わない多くの作品群全体の継続的な動きが必要だ。

「作品を映画館で鑑賞する価値」の訴求

どうしたらよいか。

市場を形成するのはよい作品の存在である。何よりも面白い映画があることが重要だ。しかし、市場環境は大きく変化したので依然として同じままではもとには戻るのは難しい。家で映画やドラマを見る体験ももちろん素晴らしいもので、コロナ禍を経て確実により多くの人がより楽しんでいる。

したがって映画館ならではの体験価値を訴求することが足が遠のいた人への後押しにおいてはより一層重要だ。言い換えると、映画作品を見るだけでなく、映画館でその映画を見る体験の価値が、その作品を求めている人にしっかり伝わること。

昨年12月に実施したアンケート調査で「営業再開後の鑑賞者が感じる映画館で映画を見ることの価値」について尋ねたところ、「大画面と音響による迫力」「没入感・映画に集中できること」「特別感・一体感」「雰囲気」などが挙げられた。これらが鑑賞者にとっての映画館ならではの体験価値だ。

映画館ならではの感動は作品ごとに違う

また、その作品が映画館で「どう映えるか」は作品ごとに異なる。そのため、その映画を映画館で見ることで、どのような映画館ならではの価値が生じるのか、きめ細かく伝える必要があると考える。「広大な原野の美しい風景の中で静かに暮らす人々を描いたヒューマンドラマ」と「モンスターやヒーローが活躍するアクションスペクタクル」、いずれも映画館鑑賞ならではの付加価値があったとしても、それは同じ内容ではないだろう。

その映画を映画館で見ること「ならでは」の価値は、映画館で劇場予告編を見れば自明だ。しかし、多くの人はスマホなどの小さな画面でその映画について知り、予告編を見る機会が増えている。であれば、どう映画館でこそ「映える」のか、より一層明確に伝える必要が出てくるのではないか。

映画ファンの感動が力に

産業はサービス提供者とサービスの価値を享受する双方で成り立つ。サービスを享受する側、映画産業の場合は映画ファンも、市場に変化をもたらす力を持っている。少し足が遠のいた映画ファンも映画館で映画を見て、作品体験のみならず、映画館体験も含めた何が感動をもたらしたのかについて思いを馳せて共有すれば、その感動の共鳴と共振が映画産業の力になる。

「映画館ならでは」の喜びはどういう点なのかを改めて実感したなら、それを広めていくことが未来につながる。こういった動きが一つの作品に限らず、すべての作品、すべての映画館に必要だ。このことが映画興行の復興にとどまらない、更なる発展につながると考える。

資料:営業再開後の鑑賞者が感じる映画館で観ることの価値(自由記述抜粋)

出典:新型コロナウイルスの影響トラッキング調査 第9回調査(2020年12月5日実施)

大画面と音響による迫力、臨場感

  • やはり映画館の画面で迫力の音で観れたのは嬉しかった(男性40代)
  • 映画館での利用はスクリーンが大きく音も臨場感溢れてそこでしか味わえない(男性50代)
  • やはり大スクリーンと大音量での映画鑑賞は最高である。 サラウンドでの音の広がり・臨場感はホールで鑑賞する以外になかなか味わえない(男性50代)
  • 大迫力の画面と音響は、映画館でしか味わえない大きな魅力で、DVDも買うけれどやっぱり映画館でもみたい(男性15-19歳)
  • 臨場感が感じられて大きいスクリーンで見ることでお金を払う価値を感じて満足(女性60代)
  • 大画面、やっぱりテレビや動画では味わえない(女性40代)
  • 大画面と大音量で全身で映像を感じることができるのは、やはり映画館ならではだと感じた(男性20代)

没入感・集中できる

  • 日常から解放されて、ストーリーに没頭出来る(女性50代)
  • 現実から離れて映画の世界だけに入り込める(女性15-19歳)
  • 映画館ならではの大画面や音響で作品の中に入り込める感覚になれる(女性20代)
  • 世界観に入り込める(女性30代)
  • 作品に集中でき何より音響がいいので家で同じ作品観るのとは全然違う。 ストレス解消にもなると改めて感じた(女性50代)

非日常感・一体感

  • イベントとしてたのしめる(男性40代)
  • 非日常的時間を過ごせる(男性60代)
  • 非日常感があって、大切な時間(女性30代)
  • 知らない人たちと一緒に観るなんとなくの一体感と場の空気。 音や映像の迫力で気持ちが入り込みやすい(女性40代)
  • テンションが上がる(女性15-19歳)

場の雰囲気

  • 独特の雰囲気(女性50代)
  • 映画館特有の雰囲気(男性15-19歳)
  • 雰囲気が好き(女性15-19歳)
  • 雰囲気を楽しめる(女性40代)

その他

  • 大きなスクリーンでポップコーンを食べながらリラックスして見られる(女性15-19歳)
  • グッズが売ってる(女性20代)
  • 入場者特典をもらえる(女性20代)