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全国に残る「開かずの踏切」、なぜ生じるのか、なぜ解消できないのかを考える

梅原淳鉄道ジャーナリスト
京浜急行電鉄空港線に存在した国道15号の踏切。開かずの踏切として有名であった(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

2019年に最も話題となった鉄道の出来事とは

 平成から令和へと改元された2019年の鉄道の話題を振り返ると、やはりというか自然災害に関する出来事が多かった。なかでも台風19号による豪雨で千曲川が決壊し、JR東日本長野新幹線車両センターに留め置かれていた新幹線の車両が冠水した事象は記憶に新しい。事故も起きており、なかでも特に世間の関心が高かったものは次の2件である。

 一つは6月1日に横浜シーサイドラインの新交通システム、金沢シーサイドラインの起点、新杉田駅*で起きた鉄道人身障害事故だ。折り返しの際に無人運転の車両の向きが変わらなかったため、車両は車止めに向けて走って衝突し、15人が負傷(うち3人は重傷)している。

*当初公開時は誤って「終点、金沢八景駅」と記してしまいました。正しくは「起点、新杉田駅」ですので、おわびして訂正します。また、ご指摘いただいた読者の方に感謝申し上げます。

 もう一つは9月5日に京浜急行電鉄の本線の神奈川新町駅近くの神奈川新町第1踏切で起きた列車脱線事故だ。快特列車がこの駅を通過した直後に該当の踏切でトラックと衝突し、8両編成の快特列車のうち1両目から3両目までが脱線した。この事故でトラックの運転手が死亡。国土交通省の運輸安全委員会によると、快特列車に乗車していた乗務員、旅客の負傷者数は現在の「確認中」だという。

 いま挙げた2件の事故は数多くのテレビ番組で放映されていたことを覚えている方も多いであろう。僭越ながら、筆者(梅原淳)もいくつもの放送局を掛け持ちして事故のあらましを解説したり、事故の原因や再発防止策などについての見解をコメントさせていただいた。

テレビ局が2019年に最も関心を抱いていた鉄道のテーマは何か

 そうした中、2019年にテレビ局が最も関心を抱いていた鉄道の問題は何であったか。それは「踏切」であったというのが筆者の印象だ。踏切に対するテレビ局の関心は想像以上に高い。12月(27日時点)だけでもコメント11回のうち4回は踏切がテーマであった。

 2019年に何度踏切について語ったかは定かではないが、聞かれる内容はほぼ一貫して「開かずの踏切」だ。具体的には「開かずの踏切とはどういうものを指すのか」「なぜ存在するのか」「どうすれば解決するのか」の3点に集約される。ここで詳しく説明していきたい。

開かずの踏切とは何か

 文字面から遮断機が降りたままになりやすい踏切の通称のように思われがちだが、実は国によって定義されている。1時間当たりで遮断機が降りている時間が40分以上となる踏切を開かずの踏切という

 国の基準によると、踏切は警報機が鳴り始めてから遮断機が閉まるまでの時間は15秒を、遮断機が閉まってから列車が到達するまでの時間は20秒をそれぞれ標準とするように決められている。

 編成を組んだ列車の長さが200m、速度を時速60km、踏切の幅を8mと仮定すると、列車が踏切を通過する時間は約12.5秒となる。列車が踏切を通過してから遮断機が上がるまでの時間は5秒ほどと考えると、1本の列車が通過するために踏切を横断できなくなる時間は20秒+12.5秒+5秒から37.5秒だ。現実には列車が踏切に到達するまでの時間はもう少し余裕があるので、1本の列車が踏切を通り終えるまでの時間は45秒程度と考えるとよいだろう

 大都市圏の通勤路線では、ラッシュ時間帯にだいたい2分から3分までの間隔で列車がやって来る。仮に3分間隔、つまり1時間当たり20本の列車が運転されているとしよう。複線と呼ばれる2本の線路に1時間当たり40本の列車が運転されているならば、踏切を渡ることのできない時間はちょうど30分となる

 ここまでであれば開かずの踏切とはならない。しかし、双方向の列車が踏切上または踏切の近くですれ違うとなると、片方の線路を行く列車が通り過ぎても遮断機は上がらず、45秒の2倍の90秒よりもさらに長い時間待たされるケースも生じる。また、ラッシュ時間帯には先行の列車との距離が短いため、どうしてもノロノロ運転となりがちだ。踏切の遮断機はおおむね列車と踏切との間の距離を基準に作動するので、長い時間遮断機が降りたままとなってしまう。結局、遮断機が降りている時間が10分程度余分に延びることも多くなり、開かずの踏切が出現するという次第だ。

開かずの踏切は何カ所あり、どこの鉄道の何という路線に多いのか

 国土交通省が2016年6月17日付けで公表したところによると、開かずの踏切の数は全国で532カ所に上るという。2016年度末の時点で踏切の数は3万3735カ所であったので、割合自体は1.6パーセントと低い。

 開かずの踏切の数を都道府県別に見ると、東京都が245カ所と46パーセントを占めている。多い順に並べると次の通りになる。

2位:大阪府 96カ所

3位:神奈川県 73カ所

4位:埼玉県 51カ所

5位:兵庫県 29カ所

6位:愛知県 12カ所

7位:福岡県 8カ所*

8位:広島県 4カ所

9位:奈良県 3カ所

10位:千葉県、三重県、京都府 各2カ所

ほか北海道、宮城県、新潟県、岐阜県、鳥取県の5道県はいずれも1カ所で、他の30県には開かずの踏切は存在しない。

*2020年2月19日記 当初公開時は福岡県に存在する8カ所の開かずの踏切を見落とし、都道府県別のランキングに福岡県を入れておりませんでした。おわびして訂正するとともに、ご指摘いただいた読者の方に感謝申し上げます。

 鉄道会社別では合わせて22社に存在し、1カ所の踏切を鉄道会社2社で使用しているところが7カ所あるので、延べ539カ所となる。多い順に挙げると

1位:西武鉄道 81カ所

2位:JR東日本 77カ所

3位:東武鉄道 69カ所

4位:京王電鉄 65カ所

5位:JR西日本 56カ所

6位:阪急電鉄 37カ所

7位:近畿日本鉄道 30カ所

8位:東急電鉄 25カ所

9位:小田急電鉄 24カ所

10位:相模鉄道 21カ所

11位:京阪電気鉄道 14カ所

ここまでの11社が2桁だ。以下、

・JR九州 8カ所

・京浜急行電鉄、阪神電気鉄道 各7カ所

・京成電鉄、名古屋鉄道 各5カ所

・JR東海 3カ所

となる。1カ所のみは、JR北海道とJR貨物、南海電気鉄道、新京成電鉄、大阪外環状鉄道の5社だ。(大阪外環状鉄道とは、JR西日本が列車を運行しているおおさか東線の線路の持ち主である)

 路線別も見ておこう。開かずの踏切は合わせて59路線にあり、1カ所の踏切を2路線で使用しているところがやはり7カ所あるので、延べ539カ所となる。数の多い順に10路線を紹介しよう。

1位:西武鉄道 新宿線(西武新宿~本川越間47.5km) 52カ所

2位:JR東日本 東海道線(東京~熱海間104.6kmなど) 49カ所

3位:東武鉄道 東上本線(池袋~寄居間75.0km) 38カ所

4位:京王電鉄 井の頭線(渋谷~吉祥寺間12.7km) 33カ所

5位:京王電鉄 京王線(新宿~京王八王子間37.9km) 32カ所

6位:東武鉄道 伊勢崎線(浅草~伊勢崎間114.5km) 30カ所

7位:西武鉄道 池袋線(池袋~吾野間57.8km) 29カ所

8位:小田急電鉄 小田原線(新宿~小田原間82.5km) 24カ所

9位:相模鉄道 本線(横浜~海老名間24.6km) 21カ所

10位:JR西日本 阪和線(天王寺~和歌山間61.3kmなど)、阪急電鉄 神戸線(大阪梅田~神戸三宮間32.3km) 各17カ所

 路線にわざわざ距離まで載せたのは「開かずの踏切密度」が実感できるようにと考えてのことだ。一見してわかるとおり、4位の井の頭線では12.7kmに33カ所というのであるから、開かずの踏切は平均すると385mおきに存在する。他の路線も開かずの踏切は都心部に集中しているので、路線を区切ると密度は相当なものとなるであろう。いずれにせよ、沿線にお住まいの方々の悲鳴が聞こえてきそうな話だ。

開かずの踏切が存在する理由

 開かずの踏切は多数の列車が通過することが原因で発生する。路線別で1位となった西武鉄道の新宿線の状況を2013年11月に調査したところ、ラッシュ時間帯となる朝7時37分から8時36分までの1時間に下落合駅から高田馬場駅までの都心方向だけで26本の列車が通過し、合わせて5万2697人の旅客が列車に乗車していたという。

 この結果、たとえば新宿線で最も都心に近い位置にある開かずの踏切、高田馬場第2号踏切(高田馬場~下落合間)では朝のラッシュ時に1時間当たり49分もの間、遮断機が降りていて通ることができない。先に1本の列車が踏切を通る際におおむね37.5秒を要すると記した。新宿線では双方向で52本の列車が通るので、遮断機が降りている時間は理論上は32分30秒となるが、列車どうしのすれ違いや先行列車に近づいてノロノロと走るために16分30秒も延びている。

 テレビ局の人たちからよく聞かれるのは、列車の運転時刻や本数を決める際にできる限り開かずの踏切とならないように工夫していないのかというものだ。結論から言うと、列車ダイヤは踏切の都合など反映されずにつくられている。そもそも、列車が踏切に到達する時刻は決められていないので、考慮しようもないのだ。仮に開かずの踏切が生じないようにと、列車の本数を抑えて運転したとすると、多くの路線でラッシュ時の混雑はいっそう激しくなってしまう。鉄道会社は旅客や貨物を輸送することを主たる業務としている事業者であるから、混雑を放置できない。

 「なぜ開かずの踏切がこれだけ多いのか」という質問もよくあるが、これは日本の都市の発展形態から言ってやむを得ないであろう。

 国土交通省によると、2013年度末の時点で東京23区には620カ所の踏切があったそうだ。いっぽうでアメリカ合衆国のニューヨークには48カ所、イギリスのロンドンには13カ所、フランスのパリに至っては7カ所しか存在しないのだという。

 現在の東京23区に鉄道が敷かれた明治期から大正期にかけては自動車による交通は未発達で、線路と交差する道路の幅も歩行用に毛が生えたような狭いものが大多数、しかも通行量も少なかった。となると、わざわざ立体交差で鉄道を敷かなかったのも理解できるであろう。

 欧米の他の都市でも自動車による交通は鉄道よりも後に発達した。だが、馬車による交通は古くから盛んで、鉄道が敷かれた当初から立体交差としないと支障を来すと考えられた。19世紀に開業した鉄道を見ると、高架橋は少ないものの、築堤の上に線路が敷かれ、ところどころで立体交差となっているケースが多い。

開かずの踏切の解消法は

・多額の資金と時間とを要する立体交差

 開かずの踏切をなくすための根本的な解決策は立体交差化だ。線路が高架橋であるとか地下のトンネルを通れば、開かずの踏切の状態をはじめ、列車と自動車とが衝突したり、歩行者が列車に触れて死傷する事故も皆無となる。

 しかし、立体交差とするには多額の費用と長い時間とが必要だ。京浜急行電鉄は本線の梅屋敷~六郷土手間の4.7kmとそして空港線の京急蒲田~大鳥居間の1.3kmと、京急蒲田駅を中心とした合わせて6.0kmの区間で、それまで地上に敷かれていた線路を高架橋に移した。

 幹線道路の第一京浜国道こと国道15号や環八通りこと環状第8号線の踏切を含む28カ所の踏切を取り除くために要した費用は1892億円に上る。1カ所の踏切をなくすために68億円、線路1kmを高架橋とするために実に315億円を要した計算だ。建設費が高いと話題に上る整備新幹線でさえ、1km当たり100億円もあれば完成してしまうのだから、大都市での鉄道の整備がいかに大変かがわかるであろう。

 鉄道会社はこれだけ高額な建設費を自社だけではとても負担できない。このため、道路の改良という名目で沿線の自治体が大多数を負担する。負担割合は自治体が90パーセント、鉄道会社が10パーセントであったが、財政難の折、近年では高架橋の下を商業施設として収入を得る場合、鉄道会社は最大で17パーセント分を負担しなければならない。

 いっぽう、京急蒲田駅を中心とした立体交差事業は1999年3月に都市計画が決定され、2001年12月に着工、全列車が高架橋を走るようになったのが2012年10月であった。都市計画の決定から開かずの踏切の解消まで13年7カ月ほど費やしたが、これでもまだ標準的なほうだ

 小田急電鉄の小田原線の東北沢~世田谷代田間の立体交差に至っては、都市計画が決定されたのが1964年12月、着工が2004年9月、全列車が地下のトンネルを走るようになったのは2018年3月であった。つまり、都市計画の決定から開かずの踏切が解消されるまでに何と53年4カ月も要したのである。当初は高架橋で計画された立体交差事業が沿線の住民からの強固な反対運動を受けて地下のトンネルへと変更されたとはいえ、半世紀以上も費やした事実は変わらない。まさに気が遠くなるようだ。

・踏切の廃止は案外難しい

 立体交差とするには膨大な資金と時間とが必要で、沿線の理解を得られないとそもそも着工すらできない羽目に陥る。そこで、次善の策として踏切を廃止する例も目立つ。

 都市の踏切では、自動車や歩行者の数が少ない踏切などほとんどない。踏切の廃止に当たっては、自動車には他の道路に迂回してもらい、歩行者には踏切の跡地に歩道橋を建設して対処する。なお、複数の踏切を統合して新たな踏切を設置すればさらにスムーズに事が運ぶように思われるが、実はこのような案は実施に移せない。国の基準で新たに踏切を設置することは原則として認められていないからだ。自動車や歩行者の通行量が少ないとか地形上などやむを得ない理由があれば認められるものの、都市では通行量の多さがネックとなってまず無理であろう。

 そこで考えられるのは、自動車は踏切を渡るとして、歩行者は新設した歩道橋に誘導するという方策だ。近ごろはバリアフリー化に対応して、エレベーター付きの歩道橋も見られるようになった。ただし、歩道橋とはいえ、新たな用地が必要で、建物が密集していたら建設はなかなか難しい

 もう一つ挙げると、踏切の廃止は案外沿線の人々の反発を招く。困った存在ではあっても、踏切そのものが姿を消すとさらに不便となるという理由から、踏切を渡る道路の管理者である自治体はなかなか同意を得られないのだ

・賢い踏切への切り替えは有効ではあるが……

 踏切用の設備である踏切保安装置の改良で遮断機が降りている時間を短くする方策もあり、賢い踏切またはスマート踏切と呼ばれる。現状では多くの踏切で列車の速度に関係なく、列車と踏切との距離に応じて警報機が鳴り出す。このような仕組みでは、速度の遅い列車が踏切を通過しようとするには遮断機が延々と降り続けていて、開かずの踏切を生み出しやすい。

 賢い踏切とは、踏切保安装置が列車の種類を読み取ることで、警報機が鳴り出すタイミングを基準どおり列車が踏切に到達する35秒前にそろえるという仕組みを備えた踏切を指す。本来ならば、踏切に接近しつつある列車の速度を計測すればさらに精度が向上する。けれども、計測地点は踏切の直前には置けず、列車がブレーキをかけて確実に停止できる600mほど離れた場所に設置しなければならない。となると、仮に計測地点を過ぎてから列車が加速した場合、遮断機が降りていないにもかかわらず、列車が踏切に接近するという事態も想定する必要があり、残念ながら採用できないのだ。

 さらに、駅に近い踏切、それもプラットホームのすぐ先に設けられている踏切では賢い踏切は用を成さない。賢い踏切で次に踏切を通過する列車が各駅停車と判断して、遮断機を降ろすタイミングを遅らせたとしても、駅に停車している間は遮断機を上げられないからだ。

 列車が駅に停車するまでは遮断機が降り、停車している間は遮断機が上がる踏切も世の中には存在する。しかし、このような踏切はプラットホームの先端と踏切との間に100m程度以上は距離があるか、または駅に進入する列車に対して警戒信号を示して速度を時速25km以下に下げさせているかのどちらかだ。そうしないと列車が万一駅を行き過ぎたときに遮断機の降りていない踏切に進入する可能性が生じてしまうからである。

 警戒信号は一見よさそうな案だ。ところが、都市を行く通勤電車の場合、駅には時速60km程度の速度で進入しており、その半分以下のスピードでとなると、到達時間は延びてしまう。踏切で待つ側としても遮断機は頻繁に開くものの、開いている時間もまた短くなり、1時間当たりで遮断機が降りている時間は結局は同じとなりかねない

 開かずの踏切は、日本が高度経済成長期を迎えたころから各地で問題となった。半世紀以上の時間が流れ、いまだに解決されていない踏切が多いのは、そうできない事情があるからにほかならない。テレビ番組で開かずの踏切についてコメントした後、いつも筆者は強い無力感を覚える。開かずの踏切はあと500カ所ほどあるが、2020年代も引き続いて数が減ることを祈りたい。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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