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「のぞみ」1時間当たり最大12本の運転へ

梅原淳鉄道ジャーナリスト
東海道新幹線の東京駅に入線する列車。来春にはさらに本数が増える(ペイレスイメージズ/アフロ)

 JR東海は4月18日、2020(令和2)年春に実施を予定している東海道新幹線のダイヤ改正について、大まかなあらましを発表した。柱は2本だ。一つは、東京駅と新大阪駅との間を最も早く結ぶ列車である「のぞみ」の1時間当たりの本数を、東京駅を出発する列車を基準として現在の最大10本から最大12本へと増やすというものである。そして、もう一つは「のぞみ」のスピードアップだ。東京~新大阪間の所要時間は最速2時間23分から2時間37分までと比較的幅の広いなか、すべて2時間30分以内に縮められる。

 いま挙げた2本の柱のうち、今回は「のぞみ」の増発はどのように行われるのかについて、2020年3月中と目されているダイヤ改正での新しい時刻を予想しながら解説していきたい。なお、今回は新幹線についての専門的な説明が含まれているため、全体像を短時間で把握できる「要約編」、そして少々専門的ながらもできる限り説明した「詳細版」とで構成した。

■要約編

 現在、東京駅発の「のぞみ」が1時間当たり10本運転されているのは18時台と19時台とである。両時間帯とも「のぞみ」のほか、主要駅に停車する「ひかり」や各駅停車の「こだま」、さらには東京都品川区にある大井車両基地へと向かう回送列車も設定されており、合わせて1時間当たり最大で17本の列車が出発していく(表1)。平均すると運転間隔は3分32秒だ。

表1
表1

 来春に「のぞみ」をあと2本増やすとなると、東京駅では1時間当たり最大で19本の列車が平均して3分09秒おきに出発することとなる。増発に当たって2通りの方策を予想した。一つは列車の運転間隔を縮めて対処するというもの。もう一つは、現在の運転間隔を維持したうえで車両のやり繰りを調整し、18時台、19時台ともに2本ずつ運転されている回送列車を削減して対処するというものだ。

 運転間隔の短縮は理想的だが、信号保安装置のATC(自動列車制御装置)の改修など、設備投資は大がかりとなる。加えて、JR西日本の山陽新幹線はもちろん、新大阪駅に乗り入れている関係でJR九州の九州新幹線にも影響を及ぼす。それでも、将来を見据えれば価値はある。

 いっぽう、運転間隔を維持したうえでの増発は設備投資を少なく抑えられるし、山陽新幹線や九州新幹線への影響もあまりない。ただし、今後さらに「のぞみ」を増発することは難しくなる。

 JR東海から発表されている資料を見る限り、現時点ではいま挙げた2つの方策のどちらを採用するのかはまだ何とも言えない。筆者としては山陽、九州の両新幹線への影響を考慮し、現状の運転間隔のまま、回送列車の運転を取りやめて「のぞみ」の増発に充てるのではないかと考える。

■詳細編(「要約編」との重複あり)

東京駅を出発する東海道新幹線の列車の現状

 東京駅を出発する「のぞみ」が現状で1時間当たり10本運転されている時間帯は「要約編」でも述べたとおり、土曜日を除く平日(以下平日)の18時台、そして19時台である。両時間帯で平日に毎日運転されている「のぞみ」の本数は18時台が6本、19時台が5本であり、臨時運転の「のぞみ」が18時台には4本、19時台には5本がそれぞれ加わる。東海道新幹線の輸送需要は極めて大きく、いま挙げた臨時列車は週の後半となる木曜日や金曜日にはほぼすべて運転されている。

 加えて、18時台、19時台とも「ひかり」は1時間当たり2本、「こだま」は同じく3本の合わせて5本ずつが平日に毎日出発していく。さらに、大井車両基地へと向かう回送列車(時刻は筆者の実見による推測)は18時台がどちらも臨時列車で2本、19時台が毎日1本、臨時1本がそれぞれ運転されている(表1)。

 以上を合わせると、東京駅を出発する東海道新幹線の列車の1時間当たりの最大の本数は、18時台、19時台とも17本だ。実は表1をよく見ると、出発時刻は10分ごとに区切ることができ、0分、3分、6分または7分に列車が設定されていることに気づく。列車の運転間隔は理論上は3分20秒間隔となっていて、1時間当たり最大で18本の列車を出発させることが可能だ。

列車の運転間隔を縮めて「のぞみ」を増発するには

 増発された2本の「のぞみ」を加えて1時間当たり最大で19本の列車を運転するには、出発時刻を手直ししなくてはならない。その範囲が小さいと思われる方策は、10分間に3本の列車を設定するというサイクルを1時間のうち50分間は維持し、残りの10分間に4本の列車を運転するというものだ。10分間当たり4本の列車を走らせるというのであるから、列車の運転間隔は2分30秒とすればよい。

 列車をこの間隔で東京駅を出発させるには、駅構内に設けられたシーサースクロッシングといって、到着用の上り線と出発用の下り線の2本の線路との間を互いに行き来できるように4基の分岐器(ぶんぎき)、一般に言うポイントと1基のクロッシングとで構成された交差個所を通り抜ける時間が鍵を握る。列車が一方向だけに運転されている途中駅の場合は運転間隔と等しい2分30秒以内で通過できればよい。しかしながら、東京駅のように線路が行き止まりとなっていてこの交差個所を出発する列車だけでなく到着する列車も共有するとなると、話は変わる。

 仮に運転間隔と同じ2分30秒であった場合、交差場所を通過可能な列車の本数は1時間当たり最大で60分÷2分30秒から24本だ。この数値を出発する列車だけでなく到着する列車と分け合わなければならないから、実際には24本の半数である12本の列車しか1時間に出発できない。出発する列車の本数を20本、到着する列車の本数を4本という具合に考えることもできるが、東京駅ではすべての列車が折り返すので、これでは出発する列車に使用する車両が足りなくなってしまう。以上から、運転間隔を2分30秒としたいのであれば、交差個所を通り抜ける時間はその半分の1分15秒以内でなくてはならない。現実にはポイントや信号が切り替わる時間などとして10秒ほど必要だ。したがって、列車の通過時間は1分05秒以内に抑えておきたい。

東京駅に到着の列車に影響され、2分30秒間隔へと縮めることは困難

 筆者の計測では列車が東京駅を出発して交差個所を通り抜けるまでの距離は250mであった。この距離に交差個所の終端から列車自体の長さである405mを加えた655mを走れば、この交差個所から列車全体が通り抜けられたこととなる。ただし、一つ条件があり、交差個所そのものは時速70km以内で通過するとして計算しなくてはならない。ポイントの分岐側を走行する際の制限速度がこの速度であるからだ。

 2020年春以降、東海道新幹線で営業に用いられる車両はすべてN700Aタイプに統一されるという。この車両は停止状態から時速110kmまでほぼ0.69m毎秒毎秒の加速度、つまり1秒当たり時速2.5kmずつ速度を増していく。等加速度運動を行うと仮定すると、東京駅を出発したN700Aタイプの車両は出発から28秒後に時速70kmに達し、この時点で交差個所から22m過ぎた272mの地点を走行している。列車全体が交差個所を通り抜けるためには残る383mを時速70kmで走り続ける必要があり、要する時間は20秒だ。したがって、交差個所を48秒で通り抜けられ、この数値に10秒を加えても58秒で、1分15秒にはまだ余裕がある。

 次にN700Aが東京駅に到着する際の時間も求めてみよう。N700Aの先頭車両が停車する場所は交差個所から250m先の地点からさらに405m走ったところだ。時速70kmで交差個所を通過したN700Aは速度を落としながら走行し、停止場所の200mほど手前で時速30kmとなる。減速度が一定の等加速度運動を行うとするとここまでに要する時間は32秒だ。そして残り200mのうち125mは時速30kmで走り続けるので15秒を要し、最後の75mで再び速度を落として所定の位置に停車するまでの時間は18秒となる。以上を加えるとちょうど1分05秒だ。

 出発はともかくとして、到着に要する時間を考えると2分30秒間隔で列車を運転することは難しい。雨の日には車輪が滑りやすいので、N700Aの減速度が多少は落ちるという点を考慮しなければならないし、ポイントや信号が切り替わる時間にももう少し余裕がほしいからだ。大まかに言って1分05秒にあと15秒加えた1分20秒程度あれば実現できそうで、となると列車の運転間隔は2分40秒が最短となる。

10分1サイクルから12分1サイクルへの変更は影響が多岐に及ぶ

 東京駅で列車を2分30秒間隔で運転できないとなると、10分間に運転する列車の本数を基準とした現行のパターンを見直さなくてはならない。たとえば12分間に運転する列車の本数を基準としたパターンに改め、12分間に4本の列車、つまり3分間隔で出発させるとしよう。1時間当たりの列車の本数は20本に増やすことができ、「のぞみ」の増発にも余裕をもって対処可能だ。

 とはいえ、「のぞみ」を中心とした東海道新幹線の列車の多くはJR西日本の山陽新幹線に乗り入れ、そしてJR九州の九州新幹線を行く列車の多くは東海道新幹線の新大阪駅までやはり乗り入れている。現行の10分1サイクルを12分1サイクルに改めると、山陽・九州の両新幹線にも影響が出てしまう。最も輸送需要の大きな東海道新幹線に合わせればよいという考え方もあるが、果たしてJR西日本やJR九州は対処できるのであろうか。

現在の運転間隔を維持したうえで「のぞみ」を増発するには

 列車の運転間隔を縮めたり、列車の運転サイクルを変えるのは大がかりな作業となる。そこで、現行の10分1サイクルの運転パターンを踏襲して増発となる「のぞみ」(以下「増発のぞみ」)の運転方法を予想してみた。

 両時間帯とも「増発のぞみ」をあと1本運転することは容易だ。先に述べたとおり、東京駅では10分間に3本の列車、つまり最大で18本を運転できるようになっているからである。

 もう1本の「増発のぞみ」を運転するには、大井車両基地行きの回送列車を営業列車に変えればよい。東京駅を出発する回送列車は、営業を終えた車両を車両基地に取り込んで整備や検査、修繕を行う目的のほか、出発する列車よりも到着する列車のほうが多いときにも運転される。現在、18時台や19時台に設定されている回送列車は前者の理由によると考えられるが、東海道新幹線が最も忙しい時間帯であるので、車両基地へは他の時間帯に取り込むことが現実的な解決策であろう。

 という次第で、現行の10分1サイクルを踏襲しながら「のぞみ」を2本増発した場合の出発時刻を予想してみたい。結果は表2のとおりで、18時台は07分発と43分発とに、19時台は07分発と43分発とにそれぞれ「のぞみ」を増発すると考えた。

表2
表2

・18時台

 現状で07分発、43分発と2本運転されている大井車両基地行きの回送列車を、「増発のぞみ」へと変更するのではないだろうか。車両のやり繰りとともに、東京駅に6本敷かれた列車の到着・出発用の線路のやり繰りもうまくいくからだ。

 現状では18時07分発の回送列車17時50分着の「のぞみ378号」から17分間の折り返し時間で出発している。新大阪駅方面から到着した列車が車内の清掃を実施し、引き続き新大阪駅方面への列車として出発するまでの時間は少なくとも16分あればよいから問題はない。

 いっぽう、18時43分発の「増発のぞみ」の場合、現状では18時30分に15番線に到着する「のぞみ384号または174号」からの折り返しとなる。これでは清掃に充てる時間が不足してしまう。

 現行の列車ダイヤを手直ししてみた。現状では18時20分に「のぞみ382号」が19番線に到着し、「のぞみ407号」として営業を行うための清掃が行われた後、27分後の18時47分に出発している。この「のぞみ382号」の折り返し時間を23分間に改めて18時43分発の「増発のぞみ」とし、18時30分着の「のぞみ384号または174号」を折り返し18時47分発の「のぞみ407号」へと変えてみた。

同じ線路を同時に2本の列車が通ることはできない……

 折り返しとなる列車の組み合わせを変えることにより、東京駅の15番線では18時47分に「のぞみ407号」が出発するいっぽうで、同じ時刻に「こだま666号」が到着する事態が生じてしまう。言うまでもなく、同じ線路に2本の列車が存在することはできない。

 山陽新幹線の博多駅では、駅構内の一部で同じ線路を使用するために同時に列車が存在できない12番線と13番線とに、なぜか2本の「のぞみ」が同時刻に到着と出発とを行うように設定されている。たとえば、11時10分には12番線に東京駅からの「のぞみ3号」が到着するいっぽう、13番線からは「のぞみ24号」が同じ時刻に東京駅を目指して出発していくことになっているのだ。このような強引なダイヤでは時刻どおりに運転することは不可能だ。筆者の実見では、11時10分に「のぞみ3号」が到着した後、「のぞみ24号」は2分遅れの11時12分に出発していった。

博多駅の13番線と12番線とに同時刻の11時10分に到着・出発する「のぞみ」。実際には13番線に「のぞみ3号」(写真右)が到着したのを待って12番線の「のぞみ24号」(写真奥)が出発していった
博多駅の13番線と12番線とに同時刻の11時10分に到着・出発する「のぞみ」。実際には13番線に「のぞみ3号」(写真右)が到着したのを待って12番線の「のぞみ24号」(写真奥)が出発していった

 時刻どおりの運転を半ばあきらめられば、東京駅でも同じ線路に2本の列車を入線させるというダイヤを設定できる。しかし、博多駅と東京駅とでは列車の本数が違う。「無理が通れば道理引っ込む」とのことわざどおり、その後の列車がどんどん遅れていき、東海道新幹線は連日大混乱に陥るに違いない。ところで、2分遅れで出発した「のぞみ24号」には列車ダイヤ上の余裕があり、最初の停車駅となる小倉駅には定刻の11時26分に到着しているケースが大多数であるという点を付け加えておこう。

 話を元に戻し、現実的な解決策としては「こだま666号」を19番線の到着に変えればよい。現状では19番線には18時47分発の「のぞみ407号」が出発を待っているので入線できないが、私案では18時43分発の「増発のぞみ」へと変更となって空いているからだ。

 もちろん「こだま666号」が到着する番線だけを変えれば事が済むというものではない。以降、15番線を到着・出発する列車は19番線に、19番線を到着・出発する列車は15番線にという具合に振り替える必要が生じる。

・19時台

 新大阪駅方面から東京駅に到着した列車を折り返す方法では19時07分発の「増発のぞみ」を運転できない。どの車両も忙しく他の列車へと折り返していて、「増発のぞみ」用の車両が確保できないからだ。そこで、大井車両基地からの回送列車を新たに設定し、「増発のぞみ」に充当させようと考えた。

 この回送列車は19時00分に14番線に到着し、7分後に「増発のぞみ」として出発するのではないだろうか。現状でも回送列車から営業列車への最短の折り返し時間は7分間なので問題はない。

 いっぽう、19時43分発の「増発のぞみ」は現状のままでは19時30分に15番線に到着する「のぞみ392号または178号」の折り返しとなり、18時台と同じく13分間の停車時間では乗降や清掃時間が不足する。そこで、19時20分に14番線に到着する「のぞみ390号」が27分間の停車後に19時47分発の「のぞみ417号」として折り返している点に着目し、折り返しとなる列車の組み合わせを変えてみた。新しい組み合わせは「のぞみ390号」から「増発のぞみ」へ、「のぞみ392号または178号」から「のぞみ417号」へだ。

 18時台とは異なり、折り返しとなる列車の組み合わせを変えても東京駅の到着・出発番線を変える必要はない。いま挙げた列車を除くと、現状で14番線は大井車両基地行きの回送列車が出発した19時17分から19時50分に「のぞみ394号」が到着するまでの間、15番線は「こだま683号」が出発した19時26分から20時13分に「のぞみ42号」が到着するまでの間それぞれ空いていて、同じ線路に2本の列車が存在するという事態は生じないからだ。

 くどい話ながら、18時43分発の「増発のぞみ」のために15番線と19番線とを到着・出発する列車は番線が入れ替えられている。このため、19時30分着の「のぞみ392号または178号」は15番線ではなく19番線に到着し、「のぞみ417号」として折り返すことを念のために記しておこう。

 私案をまとめると18時台は「のぞみ」が12本(うち臨時6本)、「ひかり」2本(同0本)、「こだま」3本(同0本)、回送列車なしの計17本(同6本)が東京駅を出発すると考えられる。いっぽう、19時台の予想は「のぞみ」が12本(同7本)、「ひかり」2本(同0本)、「こだま」3本(同0本)、回送列車1本(同0本)の計18本(同7本)だ。ともあれ、現実のダイヤ改正では列車ダイヤを最初から作成し直すであろうから、折り返しとなる列車の組み合わせは根本的に変えられるであろう。あくまで私案ということでご了承いただきたい。

 次回は「のぞみ」のスピードアップについて触れてみよう。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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