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ダイヤ改正で最終列車が30分繰り上げられた山手線、その裏に隠された事情とは

梅原淳鉄道ジャーナリスト
山手線の品川駅。写真右に廃止された車両留置線が見える。2015年3月に筆者撮影

品川駅に1時19分に到着していた山手線内回りの列車が姿を消す

 JRグループと呼ばれるJR鉄道事業者7社は、毎年春の恒例行事となっているダイヤ改正、要するに列車の運転時刻の改変を2019年3月16日の土曜日に実施した。今回が平成最後となるJRのダイヤ改正では、新幹線の開業といった大がかりな行事はない。しかし、北海道新幹線でスピードアップが実施されたおかげで東京駅と新函館北斗駅との間は最短3時間58分で結ばれるようになった。すでに放出(はなてん)駅と久宝寺(きゅうほうじ)駅との間が開業していたJR西日本のおおさか東線では、未開業であった新大阪駅と放出駅との間の11.0kmが今回開業して全線が開業という具合に、華々しい話題も数多い。

 民放のテレビ局のうち、在京のキー局各社にとって、このたびのJRのダイヤ改正で最も注目を集めた話題とは、東京の都心を一周するJR東日本の山手線での出来事だ。今回、山手線のうち、内回りといって大崎駅から品川、東京、上野、池袋、新宿、渋谷の各駅を経て大崎駅へと向かう最終列車に変化が生じている。言葉にすればこれだけではあるが、さすがに大都市東京の都心を走る鉄道だけあって大きく取り上げられ、筆者も日本テレビ、TBSテレビ、フジテレビの3局からコメントを求められた。

 肝心の変更点は次のような内容だ。ダイヤ改正前は池袋駅から品川駅までの間の最終列車は池袋駅0時51分・新宿駅1時00分・渋谷駅1時07分発、品川駅1時19分着の列車であった。少々くどい話ながら、この列車は池袋駅から大崎駅までは普電第2412G列車という列車番号で呼ばれ、大崎駅からは列車番号が変わって普電第112G列車という。

 この列車、つまり普電第2412G列車~普電第112G列車はダイヤ改正によって運転区間が短縮され、1時16分着の大崎駅止まりとなった。つまり普電第112G列車となる大崎駅と品川駅との間が廃止されたのだ。

 ダイヤ改正後の3月16日以降、品川駅に到着する内回りの最終列車は池袋駅0時24分・新宿駅0時33分・渋谷駅0時40分発、品川駅0時52分着の列車である。例によって列車番号を記すと、池袋駅から大崎駅までは普電第2380G列車(土・休日は普電第2322G列車)、大崎駅から品川駅までは普電第2480G列車(同普電第2422G列車)だ。ダイヤ改正以前と比べると、各駅で軒並み27分早く列車に乗らなければ品川駅にたどり着けなくなった。

終電の繰り上げは車両留置線の廃止によるもの

 JR東日本によると、品川駅1時19分着の列車を大崎駅止まりとした理由は、営業していない車両を収容して留め置くための線路である車両留置線が品川駅から姿を消したからだという。従来、最終列車として品川駅の1番線に到着した車両は、乗客を降ろすと山手線の線路の西側、そして京浜急行電鉄本線の品川駅の東側に敷かれていた車両留置線に移されて翌朝まで過ごしていた。

 しかし、京浜急行電鉄本線の泉岳寺駅と新馬場駅との間で予定されている連続立体交差化の計画によって状況に変化が生じる。本線の品川駅を現在よりも東側に広げる計画が立てられ、車両留置線として用いられていた土地の一部は京浜急行電鉄の用地に転用されることとなり、車両留置線は廃止されたのだ。詳細は東京都、港区、品川区、京浜急行電鉄の4者が作成した「京浜急行本線(泉岳寺駅~新馬場駅間)の連続立体交差事業について」に掲載されている5ページの図からうかがえる。

 車両留置線が使えないのであれば、そのまま品川駅の1番線に車両を置いておけばと考えたくなるが、こちらも難しい。早朝から深夜までほぼ途切れることなく列車が走る1番線の線路には、最終列車の運転が終わったら入念なメンテナンス作業が必要だ。その際に車両が停車していると作業に支障が生じてしまう。

 加えて、いまJR東日本は2022年ごろの完成を目指して品川駅の改良工事に取り組んでいる。そのあらましとは、現在階段とコンコースとを経由して行われている山手線外回りの列車と京浜東北線の大宮駅方面への列車との乗り換えを同一のプラットホーム上で行えるように改め、線路の上をまたぐように設けられたコンコースを増築するというものだ。改良工事は主に深夜の時間帯に実施しており、1番線に電車が停車していてはやはり作業に差し障りが生じてしまう。

 大都市では近年、最終列車の運転がより遅い時間へと繰り下げられる傾向にある。大都市の通勤電車の代表でもある山手線で、しかも拠点駅となる品川駅に到着する内回りの最終列車の時刻が早まるのは異例の事態かもしれないが、いま挙げたようなやむを得ない事情によるものだ。

ダイヤ改正後も品川駅止まりの山手線の列車は7本も運転されている……

 さて、ダイヤ改正後の時刻を掲載した「JR時刻表」2019年3月号(交通新聞社)の720・721ページを見ると興味深い記述に気づく。品川駅に0時52分に到着するとして先ほども挙げた山手線内回りの新たな最終列車である普電第2480列車(土・休日は普電第2322G列車)はこの駅を終着と定めているのだ。この列車だけではない。1つ前の0時40分に到着する普電第2464G列車(同普電第2416G列車)も同様である。

 内回りとは逆向きに環状運転を行う山手線外回りの列車も見てみよう。平日では0時50分着の普電第2353G列車、0時56分着の普電第2317G列車、1時03分着(同0時58分)の普電第2419G列車、1時08分着の普電第2447G列車、1時16分着の普電第2405G列車の5本、土・休日では0時52分着の普電第2329G列車、0時58分着の普電第2305G列車、1時06分着の普電第2431G列車、1時16分着の普電第2415G列車の4本もすべて品川駅止まりである。

 車両留置線は廃止され、品川駅の改良工事も始められているから、平日であれば合わせて7本の列車、土・休日であれば合わせて6本の列車にそれぞれ用いられていた車両がこの駅で夜を明かすことは不可能だ。となるとどこかへ回送しなければならない。

 順序は逆だが、山手線の外回りの5本(土・休日は4本)の列車の動向は以前にJR東日本に確認したことがある。これらはすべて品川駅から次の大崎駅まで回送され、この駅から山手線の車両基地である東京総合車両センターへと入庫となるのだ。ダイヤ改正前でもこのような扱いであったから、引き続き大崎駅へと回送されるのは間違いない。

 山手線の内回りの2本の列車はどうなっているのであろうか。こちらはJR東日本に問い合わせたところ、0時52分着の普電第2480列車(土・休日は普電第2322G列車)はそのまま山手線の内回りの線路を池袋駅まで回送列車として走り、この駅の構内に設けられた車両留置線に止めておくのだという。

 いっぽう、0時40分着の普電第2464G列車(土・休日は普電第2416G列車)は山手線の外回りの列車として折り返して大崎駅まで行き、東京総合車両センターに入庫するそうだ。なお、品川駅では山手線の内回りの列車が外回りの列車として折り返すための線路も撤去されたとのことなので、そのまま東京駅方面へと走り、どこかほかの駅で折り返さなくてはならない。JR東日本の担当者によると、この作業をどの駅で行っているかまでは不明とのことだが、品川駅から1駅東京駅寄りの田町駅に該当する線路が敷かれているので、恐らくは田町駅まで行って大崎駅へと戻るのであろう。

車両留置線廃止との理由の裏には、工程上の都合という事情も隠されているのでは……

 いままで長々と深夜の山手線の品川駅での列車の到着状況を記したのには理由がある。これまで紹介した6本または7本の列車のようにほかの駅、車両基地へと回送すれば、品川駅に1時19分に到着する列車の運転を取りやめなくてもよいのではないかと考えられるからだ。

 実を言うと、品川駅1時19分着の列車の廃止は車両留置線の都合だけによるものではないらしく、ほかにも理由が存在する。筆者の推測を披露させていただこう。

 一つは利用者が少ないからだ。深夜に運転されているという要素もさることながら、1時19分着では品川駅で他の列車に乗り換えることができないというのが最大の理由と考えられる。

 『平成26年版 都市交通年報』(運輸総合研究所、2017年6月)を見ると、山手線の内回りの列車に乗って品川駅に到着する利用者数は普通乗車券と定期乗車券とを合わせて2012(平成24)年度に1日平均43万8189人が存在するうち、他の路線に乗り換えないでこの駅の外に出て行く人の数は8万7941人と20.1パーセントにすぎない。68.7パーセントの30万1131人は東海道線に乗り換えるとあり、うちほぼ半数の15万0994人は東京駅方面に向かうというから、要は山手線の電車にそのまま乗っているのだ。という次第で、深夜ということもあり、最終列車を繰り上げても影響は少ないとJR東日本は考えたのかもしれない。

 今回のダイヤ改正で最終列車となった品川駅0時52分着であれば、1時01分発となる京浜東北線の蒲田駅行き最終列車の普電第2327B列車(土・休日は普電第2315B列車)に接続する。先ほどの『平成26年版 都市交通年報』によると、山手線の内回りの列車から京浜東北線など東海道線の蒲田駅、横浜駅方面へと乗り換える人の数は1日平均15万0137人と、全体の34.3パーセントも存在しているから、深夜でも結構な数の利用者が乗っているのは間違いない。

 もう一つ推測される理由は、線路のメンテナンス作業なり、品川駅の改良工事にできる限り早く着手したいとJR東日本が考えたからだ。品川駅に1時19分に到着した列車を池袋駅に回送しようとすれば、品川駅から池袋駅までの間の線路はおおむね2時過ぎまで空けられず、その分メンテナンス作業に使える時間が減ってしまう。ならばと、田町駅まで回送した後、折り返して大崎駅へと向かわせようとすると、改良工事で忙しい品川駅にやはり2時ごろに回送列車を通さなくてはならない。どちらも工程上大変難しく、品川駅止まりの列車を1駅手前の大崎駅で打ち切らざるを得なくなってしまう。

 とはいえ、JR東日本は「作業を行っているから」とは言いづらかったはずだ。「乗客が工事の邪魔になる」と受け取られかねないからである。

 ならば「利用者が少ない」と公表しても角は立たないのではないかというのは早計だ。品川駅と田町駅との間に新たに開設される高輪ゲートウェイ駅という駅名で、JR東日本に対して多くの批判の声が上げられたことは記憶に新しい。あまり否定的な理由を挙げて沿線の人たちをこれ以上刺激するのは得策ではないとは素人目にも想像できる。

 車両留置線の廃止という、まずだれからも文句の来ない理由を前面に出したJR東日本の今回の行動は非常に賢明で、ニュースリリースの出し方としてほぼ満点であろう。なお、JR東日本を評価しているからとはいえ、拙記事の作成に当たって筆者は同社から利益の供与は一切受けていない点を付け加えておきたい。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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