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待遇が下がってもメジャーに行きたい…上原浩治が"覚悟"を感じた上沢直之のマイナー契約

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 プロ野球・日本ハムからポスティングシステムによる米大リーグ挑戦を目指していた上沢直之投手が、レイズとマイナー契約で合意したと報道された。

 ポスティングの交渉期間は申請から45日間で、上沢投手の期限は米東部時間1月11日午後5時(日本時間12日午前7時)だったため、まさにギリギリでの決着だった。報道で目にした上沢投手のコメントは「レイズに入団することにワクワクしています」などと、とても前向きだった。

 このオフ、日本からメジャー移籍を目指した投手は4人。海外フリーエージェント(FA)の権利を行使して移籍したのは、楽天の松井裕樹投手のみで、オリックスの山本由伸投手、DeNAの今永昇太投手、そして上沢投手はいずれも球団が移籍を認めたポスティングによる申請だった。山本投手がドジャースと投手史上最高額となる12年総額3億2500万ドル(約463億円)、今永投手もカブスと4年総額5300万ドル(約77億円)、松井投手も日本時代から大幅増の5年総額2800万ドル(約40億6000万円)と大型契約を勝ち取ったのに対し、上沢投手はマイナー契約からのスタートである。春季キャンプにはメジャー招待選手として参加できるが、開幕までメジャーに残れるのはほんの一握り。厳しい環境が待っている。

 今季は24試合に投げて9勝9敗、防御率2・96。私はプロのスカウトではないので、他の3投手と上沢投手の評価にこれだけの開きが生じた要因を明確に指摘できないのだが、メジャーはデータなどで実力は分析しているはずだ。端的には「怖さ」という部分で物足りないという評価なのではと推測する。投手の「怖さ」というのは、まっすぐの球速や球威、空振りが取れるなどの絶対的な変化球といった「特筆すべき」球種の存在を意味する。

 ただ、上沢投手は右肘や左膝を手術しているとはいえ、187センチと上背があり、変化球も多彩だ。

 何より好感が持てるのは、これこそが「ポスティング移籍」のあるべき姿だという点である。メジャーに挑戦すると申請をした以上、応じる球団があれば、たとえマイナー契約であっても初志貫徹する姿に覚悟を感じた。

 近年のポスティングによるメジャー移籍では、FAと同じように条件を考慮して移籍先を探る選手もいる。上沢投手もメジャー契約以外なら日本ハムに残るという選択肢もできたはずである。今季の推定年俸は1億7000万円。日本ハムに残留すれば、主戦級の扱いを受け、待遇面だって恵まれていたはずだ。それでも、挑戦を決めた以上、メジャー昇格をつかめなければ、待遇も大きく下がるマイナー契約でも海を渡るというのは、私の中では一番応援したいタイプの投手だ。ただ、これは制度の趣旨について言及しているのであって、どういう条件で移籍しようが、選手を好き、嫌いで論じているわけではない点は誤解のないように書いておきたい。

 マイナー契約からのメジャー挑戦は厳しいことは間違いないが、レイズは先発陣の層が薄く、経験の浅い若手も多い。シーズンを通して先発ローテーションを守った投手もほとんどいない。好不調によって、選手の入れ替わりが激しくなれば、上沢投手がメジャー契約を勝ち取れる可能性も十分にあると思っている。日本人選手の評価が過去にないほど高騰して大型契約が続出したオフ、マイナー契約から「アメリカンドリーム」をつかもうと果敢に挑む上沢投手が、活躍をすることで株を上げる日を楽しみにしたい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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