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大谷翔平の超大型契約後払いは贅沢税制度の「抜け道」なのか?上原浩治が考察!

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:ロイター/アフロ)

 これだけの大型契約はメジャーはもちろん、スポーツ界史上最高額とも言われる。米大リーグ、エンゼルスからフリーエージェント(FA)になっていた大谷翔平選手が米大リーグ、ドジャースと10年総額約7億ドルで契約した。円換算でいえば、年俸100億円超になる。投手としても、打者としても超一流。二刀流は文字通り「一人2役」で、超一流のメジャーリーガー2人分の年俸に値するといえる。

 大谷選手にとっても、長期契約によるメリットはやはり大きい。まずは生活基盤をロサンゼルスで安定させることができる。10年後は39歳。ここまでの契約が保証されたことで、地に足を着けて、野球に集中できるだろう。

 投手としては、まず手術からの復帰を目指し、打者としては移籍1年目からトップクラスの活躍が期待される。個人的には、同じナ・リーグ西地区のパドレス、ダルビッシュ有投手との「投打対決」が楽しみだ。

 大谷選手の大型契約が一石を投じたのは年俸の「後払い」に関してである。

 メジャーは各球団が契約した選手の年俸総額が決められた上限を超えると、超過分に対して「贅沢税」と呼ばれるペナルティが課される。大谷選手の場合は年換算7000万ドルのうち、約97%について「後払い」を選択したことによって、4600万ドルだけが「年俸総額」の対象になるという。“浮いた金額”によって、ドジャースはさらなる有力選手の補強を進めることができる。大谷選手からの提案だと報道されているが、ドジャースにとって恩恵は大きい。

 最初に断っておきたいのは、大谷選手の提案とドジャースとの合意事項は現状のルールにおいて何ら問題はないという点である。その上で、贅沢税の「抜け道」だという指摘には、今後の議論の余地があると考える。

 年俸の「後払い」そのものは、これまでも多くのメジャー選手が選択している。大谷選手のケースがクローズアップされたのは、約97%という年俸の大部分に及んだことだろう。今回の選択は問題がなくても、今後に同様の選手が出てくる場合には、何らかの対応が必要という動きに傾くのではないだろうか。「後払い」そのものは、選手の引退後の収入確保の面からも認めたとしても、それが直ちに「年俸総額」の抑制につながるという点は、皆さんはどう思うだろうか。

 「贅沢税」はヨーロッパのサッカーのように、クラブの昇格、降格がなく、30球団が「共存共栄」するメジャーリーグの「戦力均衡策」である。極端な「後払い」が定着してしまうと、大都市に本拠地を置き、資本力がある球団と、それ以外の球団との「格差拡大」は免れなくなる。大谷選手の契約によって、注目が集まった「贅沢税」をどうするか、メジャーは議論をスタートする好機を逃してほしくない。

 「プロ野球選手は、子どもたちに夢を与える職業」だと言われてきた。今回の大谷選手の大型契約は、まさに日本だけでなく、世界中の子どもたちに「野球で成功すれば、ここまでの人気や契約を勝ち取れる」という大きな夢を与えたのではないだろうか。はじまりでいえば、多くの評論家が「二刀流」には疑問を呈していた。私自身も、先発で投げた翌日の肉体疲労を考えると、「二刀流」を続けていくのは難しいのではないかと思っていた。球界関係者も含めた多くの人たちが「不可能」だと思っていたことを「実現」させたからこそ、これだけの契約につながったのは間違いない。常識を疑い、覆した大谷選手は、まさに「あっぱれ」である。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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