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宣言したら裏切者…はおかしい! プロ野球のFAに「宣言」は必要なのか?

上原浩治元メジャーリーガー
海外FA宣言した沢村投手。かつて日本代表にも選ばれた右腕はどこでプレーするのか。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 シーズン途中に巨人からロッテに移籍した沢村拓一投手が今季取得した海外フリーエージェント(FA)権の行使を表明し、日本ハムでは有原航平投手と西川遥輝外野手のポスティングシステムによる米大リーグ挑戦を容認する意向があるとの報道があった。他にも国内FA権を行使して他球団へ移籍を目指す選手、宣言せずにチームに残留を決める選手などが連日のようにスポーツニュースや新聞をにぎわせる。プロ野球のオフが慌ただしくなってきた。

 日米のFAには根本的な違いがある。それは、日本の場合、国内、海外に関係なく、FA権を行使する際、選手自らが「宣言」という手続きを踏まなければならない点だ。

 メジャーではFAの条件を満たした選手は所属球団との契約満了後、自動的にFAになる。今オフで言えば、ヤンキースの田中将大投手も7年契約を終えた時点でFAになった。ヤンキースと再契約するか、移籍するかは代理人の交渉次第になる。

 日本では、「FA宣言」という手続きを踏むため、選手が行使するかどうかを「決断」しなければならない。ここに日本的な情が交錯した結果、宣言をせずに残留した選手は、メディアから「〇〇〇(チーム名)愛」などと球団への愛着が深いと好意的に報道される。もちろん、入団したチームでお世話になった指導者、チームメート、スタッフへの感謝や、生え抜きとしてチームを優勝に導きたいという選手の思いはあるだろう。

 では、FA宣言した選手が所属した球団への感謝がなかったかといえば、そんなことはない。酷いケースでは「裏切者」のレッテルを貼られたりすることもあるが、こうした印象操作は選手にとって、マイナスでしかない。

 選手はプロ野球の世界において「商品」という側面がある。「自分の価値がどう見られているのか。他球団の評価を聞いてみたい」「限りある現役生活なのだから、高く評価してくれる球団でプレーしたい」。そう考えることは、転職も珍しくなくなったビジネスの世界でも当たり前のことだろう。自分の可能性に懸けようという意欲を持って会社を辞める人に「愛社精神がない」という批判が見当違いなのは、プロの世界でも同じだ。選手のFA権行使の有無を、チームへの愛着という見えない「物差し」で測ってほしくない。

 FA宣言に関する選手へのネガティブなイメージを解消するためにも、FA資格を満たした選手は自動的にFAになるように制度を変えればいいのではないか。移籍を考えずに残留する選手はすぐに所属球団と再契約の交渉に入ればよく、移籍を視野に入れる選手は他球団の話を聞いた上で決めればいい。

 現状では、FAで移籍する選手はオフになる前から、他球団が水面下で接触しているというような情報が流れることもあるが、自動的にFAになれば、水面下で接触する意味もなく、移籍に関する透明性も高まるのではないだろうか。

 選手目線を大切にしてほしい。FA宣言イコール「悪」でもなければ、宣言せずに残留が「善」でもない。FA本来の趣旨に立ち返った制度であってほしい。そして、どのような決断を下しても、悔いなく次のシーズンをプレーしてほしい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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